さて、Kさんの夫が子どもに手を出す様子は、義両親も見ていました。義両親が夫に「子どもに手を出すなんて、そんな風に育てた覚えはない!」と怒った様子を見て、Kさんは止めるように夫を説得してほしいと義両親に頼んでみました。

ところが最初は「手出しをしたことはない」と主張していた義両親ですが、途中から「男の子には怒るときに手が出るのだって普通」と話が変わってしまいました。

そこでKさんは、児童精神科医である佐々木正美先生の著書(『子どもへのまなざし』福音館書店)から、しつけをするときにいちばん気を付ける点は「子どもの自尊心を傷つけるようなやり方でしようとしては、ぜったいにいけないのです」という話を伝えました。しかし夫は「育児を本に頼るなんて」と笑って返して終わりでした。

スクールカウンセラーと科学的データを使用

子どもも嫌がっているので、悩んだKさんはスクールカウンセラーに相談。そこでは「昔はそういった人はいましたが、今は手を出すのは犯罪です。夫婦だと、なかなか話を聞いてはもらえないですよね。第三者が説明した方が良いと思うので、ご夫婦で一緒に相談に来てください」といわれ、少し安心したと言います。

また、同時に3歳児検診でもらった厚生労働省の「子どもを健やかに育むために ~愛の鞭ゼロ作戦~」というパンフレットを夫に見せました。

そこには「厳しい体罰により、前頭前野の容積が19.1%減少」「言葉の暴力により、聴覚野が変形」といったデータが記載されていました。厳しい体罰ほどではなくても、親から叩かれていれば、脳に影響を及ぼすことでしょう。科学的データを見ることで、夫の意識も少しですが変わったそうです。

育児に、もっと科学を。

日本は「虐待後進国」と言われています。虐待ほどではなくても、「ちょっとした手出しなら仕方ない」「男の子には手が出るもんだ」という風潮は、根強く残っているでしょう。また、「育児で本を読むなんて」という風潮も残ります。

一方で、科学は進化しています。科学的なデータで分かることも増えてきていますし、児童精神科医、臨床発達心理士、保育士、教育者などは子どもを育てる上での勉強や研究を重ねています。

子どもの育て方は各家庭によって違うものですが、「厳しい体罰により、前頭前野の容積が19.1%減少」といったデータや、子どもの発達に関わる知識は、実際に育児に関わる我々も知っておいた方が良いでしょう。育児に、もっと科学が活用されることを願います。

永山京子