皆さま こんにちは。アセットマネジメントOneで、チーフ・グローバル・ストラテジストを務めます柏原延行です。

三寒四温という言葉通りに、季節が変わっていくことを感じています。

さて、今週の記事のポイントは以下の通りです。

  • WTI(ウエスト・テキサス・インターミディエート)原油先物価格は、足元で上昇傾向(図表1ご参照)。
  • 原油価格の上昇は、米ヘッドライン・インフレ率(総合インフレ率)の上昇要因となり、現在ハト派的なスタンスに転換しているといわれる米連邦準備理事会(以下、FRB)の金融政策に影響を与える可能性がある。
  • 原油価格については、中東情勢など政治的な問題の影響が大きいことは事実。ただし、米エネルギー省の予測によると2019年~2020年は生産が消費を上回る局面。また、需要サイドのオイルピーク説(詳細後述)など、価格の上値を抑える要因があることを重視。したがって、上昇基調が長期に継続することを想定しておらず、インフレ安定はFRBのハト派的スタンスをサポートすると考える。


昨年一時は1バレル75米ドル超まで上昇していたWTI原油先物価格は、昨年10月以降に下落しましたが、足元では、また上昇基調に転じています(図表1ご参照)。

原油価格の上昇は、ヘッドライン・インフレ率の上昇要因となり、FRBの金融政策に影響を与える可能性があるため、今回は原油価格動向についてお話ししたいと考えます(なお、金融政策の判断においてヘッドライン・インフレ、あるいはコア・インフレのどちらを重視すべきかについては様々な意見がありますが、私はエネルギー価格などの動向を含むヘッドライン・インフレ率も重要であると考えています)。

図表1:WTI原油先物価格
2018年2月1日~2019年2月15日:日次

出所:ブルームバーグのデータを基にアセットマネジメントOneが作成


原油価格は、中東情勢(例:イランに対する経済制裁)など政治的な動きの影響を強く受けることも事実ですが、商品である以上、原則としては需給の分析が重要であると考えます。

米エネルギー省のエネルギー見通しによれば、2019年、2020年は生産(供給)が消費(需要)を上回るとされており、このことは原油価格の引き下げ圧力として働くものと考えます(図表2ご参照)。

図表2:原油等の需給予測
2014年1Q~2020年4Q:四半期

出所:米エネルギー省「Short-Term Energy Outlook, February 2019」のデータを基にアセットマネジメントOneが作成。※2019年1Q以降は予測


我々日本人はエネルギー資源を輸入していることもあり、資源が足りなくなることへの不安を持っていると感じます。この不安をもたらす典型的な考え方は、供給サイドのオイルピーク説で、地球上の資源は有限であるから、いつかは供給できる原油(オイル)がなくなるという考え方です。

この考え方からは、いつかなくなるのであれば、価格は上昇しやすいと考えてしまいがちになるのですが、技術の発展(例:海底油田、シェールオイル・ガスなど)によって、利用できる(供給できる)エネルギーが増加していることは、皆様がご存じのとおりです。

加えて、上記は供給サイドの議論でしたが、需要サイドでのオイルピーク説も有力な考え方であると思われます。

これは、これまで原油の消費(需要)は基調として継続して伸びていましたが(図表2の折れ線グラフご参照)、中国などの新興国の経済成長が鈍化し、かつ再生可能エネルギーや省エネルギー化の技術が進歩することによって、原油需要の伸びにいつかストップがかかるという考え方です。

したがって、中期的な需給を考えた場合、原油価格の動向には、構造的な下落要因があると私は考えており、現在の上昇基調がいつまでも継続することを想定していません。

原油価格の安定(過度に上昇しないこと)はインフレを抑制するため、FRBがハト派的な金融政策を採用することをサポートします。また、ガソリン価格の安定などを通じて、個人消費の安定にも寄与すると考えます(なお、極端な下落の場合、米国のエネルギー生産者にダメージを与えることには注意が必要です)。

(2019年2月19日 9:30頃執筆)

柏原 延行