ローカリゼーションの時代、日本企業は知財で戦え

IoTにはカスタマイズが必要不可欠

 米中貿易戦争が話題に上がらない日はない。トランプ大統領の対中制裁の強硬に加え、中国経済がガタガタになり、ついには世界同時株安を招くトランプショックが懸念されるなど、メディアの言論はかしましいばかりだ。

 しかしながら、グローバリゼーションに逆行するトランプ大統領の保護主義、一国主義の流れは今始まったわけではない。産業革命をかつて主導し、EU発足の旗頭であったイギリスがあろうことかEUを脱退し、一国主義になることをすでに打ち出している。そしてまた中国は百度(バイドゥ)、アリババを普及させ、ファーウェイなどのドメスティックスマホを推進することで、米国中心のITの世界を変えようとしている。

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IoTでローカリゼーションの時代へ

 5G高速通信が始まろうとしているが、通信方式としてのWi-Fiはあと数年間でなくなり、LPWAにとって代わられようとしている。長距離でつながることよりも、短距離であっても高速・低消費電力のLPWAの方が良いという方向性は、ローカリゼーションのひとつの始まりなのだ。そしてスマホなどの端末とサーバーなどのクラウドしかない状況、要するに完全集中制御は終わりを告げ、今後は自律分散制御がコンピューティングの主役になると言われている。ネットを使わないエッジデバイス(通信ネットワークを他の通信ネットワークと接続する機器)の時代がもうそこに見えてきている。

 IoT革命がこれまでのIT革命と明らかに異なるのは、世界標準仕様と規格、そして大量生産モデルにより安いものが勝つという常識が必ずしも通用しないことだ。その国、そのエリアだけに通用するスタイルが確立され、何が何でも世界とつながることが重要視されるわけではない。

 そうなれば電子デバイスの世界も大きく変わってくる。「とにかくいっぱい作ってひたすらコスト安」よりも、カスタマイズに合わせこみ多品種少量生産、多品種変量に強いことが生き残る条件の一つとなってくる。言うまでもなく日本企業は、高機能・高付加価値さらにはカスタマイズに滅法強いわけであるから、見方によっては日本に最大の追い風といえないこともない。

得意のカスタマイズと知財で勝つ戦略を

 IoTの重要な機器のひとつであるロボット産業は日本が世界シェア60%を占有する分野であるが、これからのロボットはカスタマイズされ、それぞれの使い勝手を要求されるのだから、多品種少量生産にならざるを得ない。「コストは高くても要求される性能に優れる」カスタムロボットは、当然のことながらカスタマイズされた半導体、電子部品、実装基板を必要としてくるのだ。インテリジェント性を持たせたエッジデバイスが大活躍するわけであり、すり合わせ技術、きめの細かいものづくり、そして何よりも耐久性・長寿命が必須条件になってくる。スマホに搭載するデバイスであれば数年で壊れていい(もちろん暴論である)が、ロボット、次世代自動車さらには橋、道路につけられるエッジデバイスは10年~30年持つことが必須条件となってくる。

 「ひたすら知財をコピーして、後は一気の大量かつ集中生産」が花形という時代ではなくなってくる。ましてやトランプ大統領が「知財」を盗むものは絶対に許さない!!と言っているのだ。IoTによるカスタマイズには多くの知財が必要になり、また新たな知財が数多く生まれてくるであろうが、この分野の競争は今まで以上に激しくなるだろう。そうなれば、自ら創造価値を生み出せない国は本当に苦しくなってくる。

 ノーベル賞ラッシュの国、ニッポンは知財で勝つという戦略を今こそ固めなければならない。そして先進国の中で唯一、実質GDPの40%がものづくりという日本の存在価値が、今こそ光を放つ時が来たのだ。

産業タイムズ社 社長 泉谷 渉

参考記事

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泉谷 渉
  • 泉谷 渉
  • 株式会社産業タイムズ社 社長

30年以上にわたって第一線を走ってきた国内最古参の半導体記者であり、現在は電子デバイス産業新聞を発行する産業タイムズ社社長。
著書には『半導体業界ハンドブック』、『素材は国家なり』(長谷川慶太郎氏との共著)、『ニッポンの環境エネルギー力』(以上、東洋経済新報社)、『これが半導体の全貌だ』(かんき出版)、『心から感動する会社』(亜紀書房)などがある。
一般社団法人日本電子デバイス産業協会 理事 副会長 企画委員長。全国各地を講演と取材で飛びまわる毎日が続く。