「330年の積み重ねを持つ富山の製薬業はいよいよ新たな段階に踏み出した。2018年4月に立ち上がった薬事総合研究開発センターは、創薬・育薬研究から試験検査、さらにはパッケージなど周辺産業の協力もいただき、一気通貫で製薬のフルラインにトライできる全国唯一の施設だ。世界に打って出る体制がついに構築された」

 こう語るのは富山県薬事総合研究開発センター所長の高津聖志氏だ。高津氏は免疫治療の権威であり、大阪大学医学部で博士号を取り、東京大学理化学研究所で勤務された後は富山におけるこのプロジェクトに参画した。先頃、第2回バイオインダストリー大賞を受賞され、一躍世界の注目を集めた。ちなみにこの賞の第1回を受賞されたのが、ノーベル賞受賞の栄誉に輝いた本庶佑氏である。

医薬品製造で全国トップ

 薬事総合研究開発センターを立ち上げた富山県は、今や医薬品製造業で全国トップに躍り出ている。2005年には医薬品生産2636億円で全国8位であったが、2015年に大阪、静岡などを抜き、全国1位に躍進した。その後3年連続トップを続けており、ここに来て「医薬品製造1兆円達成」という大きな目標を打ち出した。このために得意とする医薬に加え、医療機器・ヘルスケア分野も拡大し、「くすりのシリコンバレー」を目指して創生コンソーシアムを構築していくという。

 「富山県内には新薬開発メーカー、ジェネリックメーカー、大衆薬メーカー、配置薬メーカーなど約80社と100を超える製造所が集積している。中でもパップ剤や軟膏剤、目薬などの特殊製造については高い製造技術を有している。包装容器、パッケージ、印刷などの周辺産業も充実しており、これは他県にはない強みといえる。くすりのパッケージ、ケース、医薬品説明書などを手がける朝日印刷はこの分野のシェア30%を押さえており、県下の同業者を加えれば富山はダントツの50%シェアに達している」

 こう語るのは富山県に多くの企業立地を成功させてきた県企業誘致専門監の小城慎治氏だ。小城氏によれば、前記の1兆円構想のうち7500億円まではすでに見えているという。今後多くの工場新増設がほぼ確定しているためだ。

 医薬品関連企業ではジェネリックトップの日医工をはじめ、地元の製薬メーカーが次々に増強プランを実行している。また、大手ではアステラスファーマテック、大塚製薬、キョーリン製薬、協和ファーマケミカル、富士フイルム富山化学などが続々と設備投資プランを策定中だ。またユースキン製薬は、横浜工場での増設が難しかったため富山市内に工場を移設し、2016年から本格稼働した。こうした富山移設のケースはさらに増えてくる見通しだ。

「くすりのシリコンバレー」実現へ総力戦

 「くすり王国」を目指す富山県は、石井知事が陣頭指揮を執る体制で「くすりのシリコンバレー創生コンソーシアム」構想をアナウンスし、この実現のために総力を挙げていく考えだ。このためにはバイオ医薬品の強化、先端医療機器メーカーの工場誘致を進める一方、村田製作所、パナソニック、北陸電気工業、カナヤママシナリー、京セラ、日本ゼオンなどの電子デバイス/材料関連企業も巻き込んでの新産業創出も考えているという。

 富山県産業技術研究開発センターではセルロースナノファイバーの製品・実証試作拠点が整備され、材料研究から製品試作、機能評価まで製品化に必要な一連の体制が整った。セルロースナノファイバーは自動車、メディカル、化粧品などの分野で大化けすると言われるが、この分野の11社のうち9社は日本企業である。そして富山にはスギノマシン、信越パルプの2社が存在し、さらにこれを手がけるメーカーが増えてくる見込みであり、大いに期待できそうだ。

産業タイムズ社 社長 泉谷 渉