有機ELの新たな用途として、航空分野や車載用途が注目を集めている。液晶では実現が難しいフレキシブル性を付与できるため曲面などの自由な形状に対応できることや、自発光であるため暗い空間でも高いコントラストを実現できることが利点だ。焼き付きや寿命といった課題を解決していく必要はあるが、それを上回るメリットを武器に、今後も採用に向けた動きが加速しそうだ。

中国ロヨルと仏エアバスが提携

 2018年11月に世界初のフォルダブル(折り曲げ可能)スマートフォン「FlexPai」を発表した中国のロヨルは、12月に仏エアバスとフレキシブルエレクトロニクス技術に関する戦略的覚書(MOU)を結んだと発表した。深センに本拠を置くエアバス チャイナ イノベーションセンター(ACIC)と共同で、航空機にフレキシブル有機ELをはじめとする電子技術の実装を目指す。ロヨル創設者兼CEOのBill Liu博士は「私たちの目標は飛行環境、安全性、省エネルギーをさらに向上させ、エアバスの乗客にとって未来的でデジタル化&パーソナライズされた飛行体験を創造すること」と抱負を述べた。

 ロヨルは18年6月に、深セン市の敷地110万平方フィートに総額17億ドルを投じて建設した5.5世代(疑似6世代)有機EL工場を稼働させ、年間5000万枚以上のパネル生産能力を持つ。生産したフレキシブル有機ELを家電やロジスティクス、スマートホーム、スポーツ&ファッション、オフィス&教育、ロボティクスなど様々な分野に搭載していくと表明している。

ロヨルとエアバスの調印式

韓国LGは独ルフトハンザと航空機向けで合弁設立

 韓国のLGエレクトロニクスは18年10月、独ルフトハンザ航空の技術部門であるルフトハンザテクニーク(Lufthansa Technik)と、民間航空機に搭載する有機ELディスプレーを開発・生産する合弁会社を独ハンブルクに設立すると発表した。規制当局の承認を経て19年上期に設立し、事業を開始する予定だ。

 新会社は、LGの軽量かつフレキシブルな有機EL技術と、ルフトハンザの航空機ビジネスを組み合わせて、航空機キャビン向けのウエルカムボードやインテリアライニングといった有機ELディスプレーの新市場を創出する。パネルの生産はLGグループのLGディスプレーが手がけるとみられる。

 ルフトハンザテクニークの理事会長Johannes Bussmann氏は、「両社はそれぞれの事業分野で世界的に評価された技術を持ち寄り、乗客に新しい飛行体験を創造する」と語った。

車載は独オスラムや韓国サムスンが先行

 車載分野では、すでに独Osram OLEDがアウディやBMWのテールランプやブレーキランプに照明用有機ELパネルを供給し、オプション採用された実績を持つ。

 これに追随して、日本ではコニカミノルタとパイオニアが照明用有機EL事業を統合し、17年6月にコニカミノルタ パイオニア OLED㈱を設立して事業化を目指している。

 また18年10月には、韓国のサムスンディスプレー(SDC)がアウディ初の電気自動車(EV)「e-tron」に7インチ有機ELディスプレーを供給すると発表した。従来のサイドミラーに代わり、サイドビューカメラを搭載したバーチャルエクステリアミラーの映像を表示する。SDCは、17年に発売されたアウディの第4世代「A8」にも5.7インチ有機ELを供給している。

台湾ライトディスプレーは自動車用照明の米社と合弁

 パッシブ型有機ELメーカーのライトディスプレー(台湾新竹県)は、18年12月に自動車用照明メーカーの米Luminitと合弁会社「Luminit Automotive Technologies」を設立することに合意し、パッシブ有機ELを用いた自動車用ランプやLiDAR光源に参入すると発表した。Luminitが70%、ライトディスプレーが30%を出資し、19年から少量サンプル生産を開始して、20年以降に本格的な需要の拡大を目指すという。

 主力のウエアラブル機器向けや新たな車載用の需要増に対応するため、ライトディスプレーは19年に月産能力を10%前後引き上げる考えを示しており、月産能力(ガラス基板投入ベース)を現有の2.4万枚から2.6万~2.7万枚まで高める考えだ。

今後はJOLEDの車載用有機ELに注目

 今後最も注目を集めそうなのが、18年8月にデンソー、豊田通商、住友化学、SCREENファインテックソリューションズから総額470億円の資金調達を実施したJOLEDだ。これに伴い、遅くとも22年前後にはJOLEDが量産化を目指しているインクジェット生産方式のフレキシブル有機ELが自動車に採用されるめどが立ったことになる。

 調達した資金をもとにJOLEDは現在、ジャパンディスプレイから取得した能美事業所に量産ラインを整備中で、20年からの量産開始を目指している。JOLEDはすでにソニーの医療用モニターや台湾ASUSの4Kモニターにパネルを供給しているが、果たして車載用が今後の事業を支える柱になるのか、インクジェット方式が本格的な量産軌道に乗るのか、大いに注目される。

電子デバイス産業新聞 編集長 津村 明宏