2. 年金の「繰上げ・繰下げ」受給って「得」なの?「損」なの?
一般的な老齢年金の受給スタート年齢は65歳ですが、この時期は繰上げ・繰下げ受給の制度を活用することで「60歳~75歳」の間で調整ができます。
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60歳~64歳で減額された年金を受け取る「繰上げ受給」
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減額率:繰り上げた月数×0.4%(最大24%)
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66歳~75歳で増額された年金を受け取る「繰下げ受給」
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増額率:繰り下げた月数×0.7%(最大84%)
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厚生年金(国民年金部分を含む)の平均月額は14万6429円。
今回は本来の年金額が「15万円」だった場合を想定し、受給開始年齢が「60歳・65歳・70歳・75歳・80歳・85歳・90歳」だった場合の累計年金受給額を見ていきます。
2.1 60歳・65歳・70歳・75歳・80歳・85歳・90歳《各年齢での累計受給額》
70歳・75歳時点での累計受給額は繰上げ受給が有利ですが、80歳では65歳からの受給、85歳以降は繰下げ受給が最も多くなっていきます。
一度決まった繰上げ・繰下げの減額率・増額率は生涯変わりません。繰上げ受給を選択した場合、65歳以降も減額された年金額が続く点を心得ておく必要があるでしょう。
2.2 繰下げ受給を選択しても「手取り」で思っていたより増えないケースも…
また、繰下げ受給で年金額を増やした結果、税金や社会保険料の負担が増える可能性があるのも意外な盲点かもしれません。
税額や保険料が上がってしまい、手取り額では思っていたほど増えないケースも。
資産状況や健康状態と相談しながら、自分にとって最適な受給開始タイミングを検討しましょう。
※特別支給の老齢厚生年金には繰下げ受給の制度はありません。
3. 2025年6月13日に年金制度改正法が成立しました!制度改正もチェックしておこう
公的年金制度は、5年に一度「財政検証」と呼ばれる見直しが行われています。
これは、現在の制度が将来的にも持続可能かどうか、少子高齢化や経済成長率などの社会経済の見通しを踏まえて検証する仕組みです。
財政検証の結果をもとに、必要があれば年金制度の見直しや法改正が実施され、より安定的かつ公平な制度運営が目指されます。
そして2025年6月13日、政府は「社会経済の変化に対応し、年金制度の機能を強化するための改正法案(国民年金法等の一部を改正する法律)」を参議院本会議で可決。正式に法律として成立しました。
今回の主な改正内容は次のとおり。
3.1 社会保険の加入対象の拡大
- 中小企業において短時間で働く人などが、厚生年金や健康保険に加入し、年金増額などのメリットを受けられるようにする
3.2 在職老齢年金の見直し
- 年金を受け取りながら働くシニアが、年金を減額されにくくなり、より多く働けるようにする
3.3 遺族年金の見直し
- 遺族年金の男女差を解消。子どもが遺族基礎年金を受給しやすくする
3.4 保険料や年金額の計算に使う賃金の上限の引き上げ
- 月収が一定以上となる人が、賃金に応じた年金保険料を負担し、現役時代の賃金に見合った年金を受給しやすくする
3.5 その他の見直し
- 子どもの加算などの見直し、脱退一時金の見直し
- 私的年金の見直し:iDeCo(イデコ:個人型確定拠出年金)加入年齢の上限引き上げなど
上記のように、改正内容は多岐にわたります。
日本では少子化が進行しており、現役世代が高齢者を支える仕組みである公的年金制度にとって、大きな課題となっています。
こうした人口構造の変化や経済の動向を踏まえながら、今後も年金制度の見直しや制度改正が進められていくと見られています。
年金制度の変更は、すでに年金を受給している人だけでなく、これから受給を迎える世代や、まだ若い現役世代にも直接的な影響があるものです。
そのため、一度立てた老後資金計画であっても、制度改正によって見直しが必要になる可能性があることをおさえておきましょう。
とくに現役世代は、「年金制度の今とこれから」に関心を持ち、変化に応じた将来への備えを継続する姿勢が重要です。
参考資料
- 厚生労働省「令和5年度 厚生年金保険・国民年金事業の概況」
- 厚生労働省「令和7年度の年金額改定についてお知らせします」
- 厚生労働省「令和6年度の年金額改定についてお知らせします」
- 総務省「家計調査報告〔家計収支編〕2024年(令和6年)平均結果の概要」
- 総務省統計局「家計調査報告(貯蓄・負債編)-2024年(令和6年)平均結果-(二人以上の世帯)」
- 日本年金機構「年金の繰上げ受給」
- 日本年金機構「年金の繰下げ受給」
- カシオ計算機「keisan 生活や実務に役立つ計算サイト」
- 厚生労働省「年金制度改正法が成立しました」
和田 直子