パソコンは、現代のビジネスパーソンには必要不可欠なもの。だが、使い方に気をつけなければ、心身のさまざまな不調の原因になることもある。内科医・脳神経内科医で、『最高のパフォーマンスを引き出す自律神経の整え方』著者の久手堅司氏は、「姿勢の悪い状態で画面を見つめ、緊張状態で仕事し続けると、交感神経が過度に優位になり、自律神経にも大きな悪影響を及ぼしてしまうと考えられます。自律神経が乱れると、疲れ・だるさや頭痛、肩こり、イライラなど、さまざまな不調が出てきます」と指摘する。

 2019年1月18日(金)夜には、東京・ブックファースト新宿店で「自律神経」「骨格」「パフォーマンス」をテーマにした刊行記念トークイベントにも登壇予定の久手堅氏に、パソコン作業時に気をつけるべき「4つのポイント」について解説してもらった。

ポイント1:正しい姿勢で座る

 現代のビジネスパーソンは、1日のうち、立っている時間よりも座っている時間の方が長いという方が多くいます。そのため、「座っている状態の姿勢がどうなっているか」は、非常に重要なポイントになります。姿勢の悪さは、首・肩こりや腰痛はもちろん、疲れ・集中力低下・肥満・不安感など、さまざまな悪影響を及ぼしてしまうからです。

 まずは、「正しい座り方」をご紹介しましょう〈別図版参照〉。

正しい座り方の例(イラスト:二階堂ちはる)

(1)足首の角度、膝の角度を床に対して90度に。足先と膝の向きを正面に向けて揃え、膝のあいだはこぶし1つ分くらい空ける。

(2)腰の両端を両手でつかみ、地面と垂直になるように骨盤を立てる。
※骨盤を立てるコツは、まず、丹田(おへその下あたり)に力を入れること。そして、坐骨(お尻の左右2つの骨)で座面を押し、仙骨(お尻の上の平たい骨。丹田のちょうど真裏あたり)をやや前に傾けるイメージをもつとよい。

(3)軽く肩と耳を引き、骨盤と肩と耳が一直線上に並ぶようにする。肩が上がったり、あごが突き出たりしないように注意。目線は正面に向ける。

 正しい座り方をしていると骨盤が立つので、座高が高くなったように見えます。まずはこの状態を意識してください。

 うまく骨盤を立てられない場合は、補助としてバスタオルを使用することをおすすめします。八つ折りにしたバスタオルを座面に敷き、その上に坐骨を乗せるようにすると、自然に骨盤が立ちやすくなります。専用の座面カバーなども市販されているので活用してみてください。

ポイント2:モニターの高さを調整する

 次のポイントは、「モニター」です。画面を覗き込むようについつい前かがみになることが多く、首が前に出て、姿勢が崩れてしまいます。ストレートネックも引き起こしやすくなります。

 手首から肘までがまっすぐ机の上に乗っている場合は、特に注意です。この姿勢だと、肩はより内巻きになり、頭部もより前方に出て、かなり前のめりな状態になってしまいます。

 対策としては、ポイント1で示した正しい座り方で作業できるように、デスク・イス・モニターの高さや角度を調節してください。目線を正面に向けたまま、モニターを覗き込まなくても作業できるようにするのがポイントです。

 台の上にパソコンをのせたり、縦置きモニターにしたりすると目線を上げやすいです。私もクリニックのパソコンは縦置きモニターにしています。

ポイント3:マウスの使い方を工夫する

 つづいて「マウス」。マウスを使用することで出現する症状の代表として、肩から上腕・前腕や手首、指にかけてのしびれや痛み、腱鞘炎(けんしょうえん)などがあります。

 マウスは右利きを前提としたものがほとんどなので、体の右側で使用することが大半です。またキーボードも、エンターキーなどの頻出キーは右に配列されているので、右優位で使用することが多くなります。すると、常に右肩が下がった状態になり、右肩の可動域が制限され、痛みやしびれが出現しやすくなります。特に症状が出やすいのは、首の上の骨(上部頚椎)と首から肩周りにかけての筋肉(上部僧帽筋)です。鈍い痛みが多く出現しますが、ずきずきするような強い痛みの場合もあります。

 対策として、私は普段、マウスは縦型に近い形状の特殊なマウスを使用しています。これはエルゴノミクス(ergonomics/人間工学:人間が使用する機器・家具・環境・建物などを科学的に分析し、その結果を反映して快適で疲労の少ないものにしようとする工学的アプローチ)と呼ばれるもので、手首をはじめとした骨格への負担を軽減してくれます〈別写真参照〉。

筆者がふだん使っているエルゴノミクスのマウス

 また、右手側だけではなく、左手側にもマウスを置いています。できるかぎり左右交互にマウスを使うことで、右手の負担を減らすためです。

ポイント4:こまめに休憩を取る

 そして4つめが「長時間の座り姿勢」。座っている状態は、実は人体にとって負担になります。正しい座り方をしていてもそうなのですから、座り方に気をつけるのはもちろん、座っている時間にも注意が必要です。

 集中しているとつい時間を忘れてしまうのはよくわかりますが、できれば30分に1回、長くても1時間に1回は目を画面から離し、立ち上がって、軽く体を動かしてください。ここで体を伸ばしたりストレッチをしたりするのもおすすめです。

 こまめに休憩を取ることで疲労が蓄積しなくなり、1回1回の作業の集中も深まるので、トータルの仕事効率はかなりよくなるはずです。

筆者の久手堅司氏の著書(画像をクリックするとAmazonのページにジャンプします)

日頃から意識していくことが大切

 オフィスワーカーになると、1回8時間の勤務の中で、6~7時間のパソコン作業をされている方も多くいます。1年を通して考えると、1年間の勤務日をおよそ245日として、7時間×245日=1715時間です。

 約1715時間、体に負担をかけている人と、そうでない人とでは、心身のコンディションに大きく影響が出てくるのは言うまでもないと思います。

 いまは深刻な不調がなかったとしても、決して油断せず、日ごろから座り方やこまめに休憩することを意識していきましょう。

 

■ 久手堅 司(くでけん・つかさ)
 せたがや内科・神経内科クリニック院長。医学博士。日本内科学会・総合内科専門医、日本神経学会・脳神経内科専門医、日本頭痛学会・頭痛専門医、日本脳卒中学会・脳卒中専門医。1996年北九州大学法学部卒業、2003年東邦大学医学部卒業。2013年開業のクリニックでは「自律神経失調症外来」「頭痛外来」など複数の特殊外来を開設し、中でも「気象病・天気病外来」「寒暖差疲労外来」はメディアでも話題。

久手堅氏の著書:
最高のパフォーマンスを引き出す自律神経の整え方

久手堅 司