米国については、景気後退が近いという論者も多いのですが、米国の中央銀行であるFRBが利上げを続けているということは、FRBは景気の先行きに自信を持っているということですから、メインシナリオとしては米国の景気拡大は今年も続くと考えて良いでしょう。

長短金利(実際には2年物と10年物の金利)が逆転間近であるということを論拠としている弱気論者も多いのですが、長短金利の逆転は「債券市場の参加者が景気後退を予想している」という以上の意味を持たないので、「自分はFRBより債券市場の参加者の方を信じる」というだけのことです(笑)。

欧州については、英国のEU離脱が仮に何の協定も結べないまま実施されてしまったら、結構な混乱が生じかねない、と言われています。もっとも、筆者が知る限りでは、「具体的に生じる大混乱のメカニズム」の説明を見たことがありません。これについても、本当に心配ならばECB(欧州中央銀行)が金融緩和の出口に向かわずに半年間様子を見るはずですが、そうしていないことを考えると、ECBもそれほど心配していない、ということなのでしょう。

したがって、筆者はFRBとECBの予測を信じることとします。筆者の予想が間違えた場合には、読者各位におかれましては筆者ではなくFRBとECBを批判して下さいね(笑)。冗談ですが。

株価暴落で景気が悪化することは考えにくい

昨年末、世界的に株価が暴落しました。株価は景気の先行指標と言われますから、これで世界の景気が悪化すると考えた読者も多いかも知れません。しかし、筆者はそうは思いません。

株式市場参加者が景気の悪化を予想して株を売ると、先に株が下がり、後から景気が悪化しますから、結果としては株価が景気に先行したことになります。だから株価は景気の先行指数なのです。

しかし今回は、株式市場参加者が景気悪化を予想して株を売ったことで株価が暴落したとは思われません。年末に米中経済戦争が急に激化したわけではありませんし、それ以外の景気悪化材料も特に見当たりませんから。

株価の下落が景気を悪化させる力は、皆無とは言いませんが、決して強くありません。特に日本では個人投資家の株式保有が少ないので、株価が下がったから消費を減らすという人は少ないでしょう。

企業経営者も、株価が下がったから設備投資を減らすとは考えにくいです。設備投資は売上見込み等に基づいて決定されるものですから。

リスクへの目配りは必要

以上、メインシナリオとしては楽観的である旨を記してきました。その根拠として、景気の現状が良好であることを記しましたが、その点について詳しくは拙稿「第二段階を迎えて楽しみなアベノミクス景気、その質的変化とは?」を御参照下さい。

もっとも、1年前と比べると、筆者の楽観度合いはかなり後退しています。というのは、過去1年間で海外経済に複数のリスクの種が発生しているからです。

メインシナリオと考えるわけではないけれども、リスクシナリオとして目配りをしておくべき種としては、中国経済の予想以上の落ち込み、欧州の政治的な混乱が経済的な混乱につながるリスク、米国の信用収縮に伴う景気後退、といったことが挙げられるでしょう。

まあ、リスクシナリオについて元旦早々考えるのも何ですから、これについては次回の寄稿で論じることにしましょう。今回は、「メインシナリオは楽観的なので、過度な懸念は不要」というところで終えておきますので、心穏やかに正月をお過ごしください(笑)。

本稿は、以上です。なお、本稿は筆者の個人的な見解であり、筆者の属する組織その他の見解ではありません。また、厳密さより理解の容易さを優先しているため、細部が事実と異なる場合があります。ご了承ください。

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塚崎 公義