英国のEU離脱は、2019年3月29日の期限を前に、非常に厳しい状況に陥っています。メイ首相は、EUとの間で、離脱合意に達したものの、その合意案の英国議会での承認には全く目途が立っていません。

八方ふさがり状態のメイ首相

メイ英首相は、当初12月10日に予定していた離脱合意案の議会での採決を、土壇場で延期しました。与党保守党内での反対派の説得工作を続けたものの、可決される見通しが全く立たず、メイ首相があまりにも圧倒的な大敗を喫した場合には政権が倒れる可能性もあったために、採決の決行を回避した形です。

保守党内では、メイ首相がEUと合意した離脱合意案には根強い批判があります。特に保守派は、今回の合意案を「世界最悪の案」と評し、メイ政権は「高次の無能」(キング上院議員(元イングランド銀行総裁))であるとまで酷評しました。

「手切れ金」としてEUに支払う390億ポンド(約5兆6100億円)に加えて、EUが無期限に英国との協議の拒否権を持つとの合意は、英国にとって屈辱的とまで言い切り、合意案に強いアレルギーを示しています。

状況を打開しようと、メイ首相はEU首脳に対し、英議会の支持獲得のために、EU離脱合意案の最大の懸案事項であったアイルランド国境を巡るバックストップ条項(安全策)について追加的「保証」を求めました。しかし、英国議会を説得するために再度EU側に譲歩を引き出そうとするメイ首相の要求に、逆に態度を硬化させ、協議は物別れに終わりました。

合意案が可決されなければどうなる?

舞台は再び、英国議会に戻ります。メイ首相は、現在の離脱合意案を来年初の1月14日週に議会で採決にかけることを表明しました。それまで、合意なき離脱シナリオの危険性を反対派議員に説き、反対派への説得工作を続け、合意案の支持を取り付ける腹積もりです。

英議会は12月20日から来年1月7日まで休会となりますが、その翌週の採決に向けて、休会中もクリスマスを挟んで、メイ内閣にとっては非常に厳しい説得工作を続けることになるでしょう。

メイ首相が英議会から離脱案への承認を得ることができるかどうか、時間は限られています。合意案が可決されない場合には、メイ内閣が倒れるか、離脱案の破棄を迫られるか、あるいは、2回目の国民投票の可能性もあります。いずれにしても、このままでは、英国はEUから「合意なき離脱」を迫られてしまうリスクは高まっています。

「合意なき離脱」で予想される状況は?

合意なき離脱に至った場合、政治的・経済的混乱を招くことは必至です。イングランド銀行が先月28日に公表した報告書では、合意なき離脱に至った場合、英国経済は少なくとも第2次世界大戦以降で最悪の不況に陥る恐れがあると言及しています。

その報告書の中では、英国の国内総生産(GDP)は1年以内に8%縮小し、不動産価格は3割落ち込む可能性があることさえ言及されています。また、ポンドは25%、住宅価格は30%それぞれ落ち込むなど、大規模な経済的打撃が生じることが予測されています。

実際に、外国為替市場では、英ポンドは1ポンド=1.27米ドルの節目を割り込んで、一時1.24米ドル台まで値を下げる局面もありました。物価水準からは、英ポンドの下落は幅が大きすぎるとの指摘も一部にありますが、先行きの見えない中、中央銀行ですら厳しい予想を示しており、英ポンドへの下落圧力は緩和する見通しが立たない状況です。

ニッポン・ウェルス・リミテッド・リストリクティド・ライセンス・バンク 長谷川 建一