「5GおよびAI社会を生き延びるためには新たな事業戦略が必要になる。シャープのディスプレー戦略はこれまでスマホを中核に据え、サブとしてテレビがありPC、その他に展開というものだった。しかしこれからの事業は車載を中核に据え、PC、スマホ、テレビ、IAをそれなりにラインアップし新規事業への道を探っていく、ということになるだろう。ディスプレーとは全く違う分野に展開することも視野に入っている」
こう語るのはシャープのディスプレイデバイスカンパニー副社長、伴厚志氏である。伴氏はこれまでシャープの事業戦略を語りたくとも、業績が厳しかったためになかなか明らかにできなかったとした上で、これからは積極アナウンスする方向性を示した。この談話は12月5日に行われた、リードエグジビションジャパンが開催するディスプレー関連の世界最大の展示会「液晶・有機EL・センサ技術展(ファインテックジャパン)」の基調講演におけるものだ。
新たなディスプレーの可能性とは
確かに、ディスプレーの最大出口であるスマートフォンが成熟化を迎え、台数ベースでの成長が難しい現状にあって新たなディスプレーの可能性を探ることは、シャープをはじめ世界のディスプレーデバイスメーカーが考えていることではある。単なる性能と規模の追求は限界となっており、新たな価値軸が求められているのだ。そしてまた、消費電力も重要な要素であり、ディスプレーからカメラまで全体のエコシステムを追求しなければならない。
「自動運転、エコカー、コネクテッドカーに移行する次世代自動車こそディスプレーの新たな出口のひとつと考えられる。1mを超える幅の横長ディスプレーが車内外の情報のあり方を変えていく。シャープのIGZO+G8技術により、車内を包むような幅のディスプレーが製造可能になってきたのだ。大画面、低反射、ストレスフリーもまた車載向けのキーワードになっていくだろう」(伴氏)
フレキシブル有機ELにもIGZOが活躍
そしてまたシャープはこれまでの液晶に加えて、フレキシブル有機ELの量産準備を進めている。もちろんここにもIGZOの技術が踏み込んでいく。焼き付けの問題がなく、低消費電力、高品質を実現でき、車載についても有利と考えており、スマホの進化形であるフォルダブルも見据えての有機EL戦略なのだ。
現状で堺工場のG4.5に有機EL/モジュールがあり、バックプレーンは多気工場(G4.5)が担当する。現状で月産1万5000枚の少量産ラインが6月からスタートしているが、これはスマホ月産60万台に相当するラインだという。実装技術は非常に難しいが、このトライアルも進めている。海外ではなく国内にマザー工場を作り、世界展開していく考えなのだ。
ノンディスプレー分野へも拡大
「IGZOの技術も進化している。2022年にはIGZOの07に移行する考えであり、一方でIGZO+LTPS(低温ポリシリコン)のハイブリッド技術も考えたい。IGZO技術を用いればディスプレーと全く関係ない分野にも展開できる」(伴氏)
シャープが考えるノンディスプレー分野のひとつはフラット衛星アンテナである。これを自動車に積み込めば衛星と通信できる。もうひとつはX線センサーで、これはすでに医療などの分野で使われ始めている。そしてさらにCMOSセンサー技術も加えた上で、流体制御/分析ツールにまで展開したいというのだから、かなりサプライズな戦略が出てきたといえるだろう。
産業タイムズ社 社長 泉谷 渉