ゲノム解析とゲノム編集で今何が起きているのか

昨今、「ゲノム」という単語を耳にする機会が増えました。何やら生物の授業で記憶があるような単語で、遺伝子など生物のミクロな部分で関連がありそうだ、という印象をお持ちの方が多いのではないでしょうか。

今回は、その「ゲノム」分野で現在進行中である技術革新について、そしてなぜ最近話題になっているのか、私達の生活にとって何を意味するのかについて、調べてみました。

ゲノムとは

そもそも「ゲノム」とは何を意味するのでしょうか? ゲノムとは、遺伝子(gene)と、ラテン語で「すべて」を意味する「-ome」を併せた造語で、DNA(デオキシリボ核酸)に含まれる遺伝情報を指します。この遺伝情報は、生物の身体を作るための設計図のような役割を担っており、ゲノム配列の解析技術や変種手法が目覚ましい発展を遂げていることにより注目が集まっています。

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現在進行系でのイノベーション〜「ゲノム解析」

実は現在の目覚ましい発展につながるゲノムの歴史は約30年前にさかのぼります。1980年台終盤に、「ヒトゲノム計画」と呼ばれる国際プロジェクト構想が発足しました。それ以前にも数十年にわたり遺伝子についての研究がすすめられていたものの、ヒトゲノム計画はヒトのゲノム配列を解析することを目的とした国際研究プロジェクトであり、10数年の歳月を経て2003年に完了しました。

ヒトゲノム計画の意義や成果については多様な文献で論じられているため、ここでは割愛しますが、以後「ゲノム解析」と呼ばれる遺伝情報を読み取る技術の急速な進展のきっかけとなりました。

次世代シークエンサーと呼ばれるゲノム解析技術の登場により、10年前は約950万米ドルだった解析コストが現在1,100米ドル程度と、過去10年間でおおよそ8000分の1にまで低下しています。「破壊的イノベーション」にフォーカスした投資をすることで知られる米国の運用会社アーク・インベストメント・マネジメント・エルエルシー(ARK社)は、ヒトゲノム解析コストは2021年時点で100ドルに低下すると予測しています。

ヒトゲノム計画は「種としてのヒト」のゲノムを解読するプロジェクトでしたが、解析コストが低下し、解析スピードも大きく向上したことから、現在では個人や動植物等様々な生物のゲノム解析も活発に行われるようになっています。

前述のようにゲノムとは生物の遺伝情報、おおざっぱにたとえるならば生物の設計図のようなものです。ヒトであれば、個々人の外見の違いや、特定の病気へのかかりやすさ、体質など。植物であれば、形状、味、色、栄養素、成長スピードなどの特徴の相違もゲノムの違いによって生じうるものであることが徐々にわかってきています。

現在進行系でのイノベーション〜「ゲノム編集」:CRISPR

さて、現在進行形で起こっているもう一つの技術革新は「ゲノム編集」です。先程のゲノム「解析」が生物の設計図を確認する技術であると例えるならば、ゲノム「編集」技術はその設計図に手を加えることにより、生物に様々な影響を与えようとする技術です。

ゲノム編集の影響範囲は非常に多岐にわたります。具体的にどのような分野で開発が行われているのかについては次の記事で詳細に触れたいと思いますが、現在ゲノム編集を用いて取り組まれているいくつかの領域として、新しい治療法の実用化、新薬発見プロセスの効率化、農業、漁業、畜産業における品種改良などが挙げられます。

たとえば、ある生物(仮に小麦とします)のゲノムのどの部分に手を加えれば(=編集すれば)、収穫量増加や特定の害虫や疾病への耐性をもたせるのか(これは既存のGMO(遺伝子組み換え作物)技術においても一部可能ではありましたが)、また、食物繊維や栄養素を増加させたり、アレルギー物質の生成を抑えたり、より長い期間貯蔵できるような特性を持たせるなど、付加価値を持たせる研究がすすめられています。

前述のゲノム解析技術は生物の設計図である遺伝情報を明らかにし、上記のような多様な特性を司るのがゲノムのどの部分なのか、を特定します。その部分を「編集する」ことを可能にする技術、それが「ゲノム編集」技術なのです。

長らく続けられてきたゲノム編集分野に新たな技術革新が起こったのが2012年です。CRISPR(規則的な間隔をもってクラスター化された単離反復回文配列)という新たなゲノム編集技術の発見です。従来手法に比べてCRISPRは大幅に編集コストが安いことや作成に必要な日数が少ないことなどから、ゲノム編集における研究効率が飛躍的に向上しました。

CRISPRは既存技術と比較して大幅に使いやすく、費用対効果の面でも優れているという特色もあります。研究者へのトレーニングは1週間足らずで行うことができ、すでに米国の高等学校の科学の授業でCRISPRを用いた実験が行われています。その結果、幹細胞分野を中心とした研究が活気を取り戻している他、創薬やCAR-T療法のような新治療法の発見も活性化しています。

次回の記事ではゲノム「解析」と「編集」技術がどのように世の中を変えるのか、いくつか具体的な例をみてみましょう。

(本稿は、執筆日時点において、米国の国立ヒトゲノム研究所(National Human Genome Research Institute:NHGRI)が公開している情報やARK社が公表しているWhite Paperなど、信頼できると判断した資料・データをもとに執筆したものです。本稿は、日興アセットマネジメントが運用するファンドにおける保有・非保有および将来の銘柄の組入れまたは売却を示唆・保証するものではありません)

千葉 直史

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千葉 直史
  • 千葉 直史
  • 日興アセットマネジメント株式会社
  • シニア マネージャー

三菱UFJモルガン・スタンレー証券で国内投資家向け営業や商品戦略企画に携わった後、米国Morgan Stanleyにてマネージド・アカウントのプログラムマネージャー、ミューチュアルファンドやSMAのリサーチアナリストを歴任。その後、三菱UFJモルガン・スタンレー証券にてデリバティブ商品のマーケティング業務に携わる。

2014年より現職。国内外の個人投資家、機関投資家向け新商品の立案・開発及びマーケティングを担当。