以上のような理由で、宅配便の値上げが直ちには飲食店に波及していないわけですが、今ひとつ残念な理由もあるようです。それは、「飲食店が値上げをしたら客足が遠のいた」という報道が頻繁になされているからです。
値上げをしたら、客足が遠のくのは当たり前です。問題は、何%値上げをしたら何%客が減ったのか、ということです。仮に5%値上げをしたら客数が6%減り、売り上げ金額が1%減ったとします。
ひどいのは、「値上げをしたら、客数が減った」との報道です。値上げをすれば客数が減るのは当然で、減らなかったら驚きです(笑)。今少しマトモなのは、その通り「5%値上げをしたら客数が6%減り、売り上げ金額が1%減った」と報道することですが、これも問題が多いと思います。
そのまま報道されてしまえば、情報を受け取った一般飲食店は「値上げをすると売り上げが減ってしまうらしい。やはり値上げは我慢しよう」と考えるでしょう。しかし、それは正しい判断でしょうか?
売り上げ100万円の飲食店が、5%値上げをして客数が6%減ったとします。売り上げ金額は1万円減って99万円になります。では、コストはどうでしょうか。売り上げの30%が材料費等の変動費だとします。100万円のうち30万円が変動費で、それが6%減りますから、コストは1.8万円減るのです。つまり、利益は増えるのです!
残念な報道の今ひとつは、値上げをして売り上げが減ったということで報道されている「鳥貴族」というチェーン店です。筆者は業界事情に詳しくありませんが、鳥貴族の成功を見たライバルたちが大量に参入してきて競争が激化したことが影響しているようですので、「値上げしたから」という報道はミスリーディングだと思います。
QBハウスの値上げは朗報
「1000円カット」で有名なQBハウスが、1200円への値上げを発表しました。これは明るいニュースです。宅配便と異なり、客を断ることができるにもかかわらず、値上げを選んだわけです。
飲食店と比べると、売り上げに占める人件費の比率は高そうですし、直接競合するライバルも少なそうだ、という判断なのでしょうから、これが直ちに飲食店の値上げにつながるとは思いませんが、明るい材料であることは間違いありません。
万が一にも来店客数が大幅に落ち込んで減益になったりしないことを望むばかりです。そして、値上げが成功して従業員の待遇を改善し、他社から大勢の労働者を引き抜いて来ることを期待します。それによって、日本中に蔓延する「デフレマインド」や「値上げ恐怖症」を少しでも和らげてくれることを強く望みます。
本稿は以上です。なお、本稿は厳密さより理解の容易さを優先しているため、細部が事実と異なる場合があります。ご了承ください。
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塚崎 公義