米年末商戦が来週から本格的にスタートします。過去最高の売上高が見込まれており、個人消費は絶好調のはずなのですが、どいうわけか金融市場では株価が低迷しており、活発な個人消費が反映されていないようです。そこで今回は、米株の重しとなっているリスク要因についてまとめてみました。

米年末商戦は好調の見通し、初の1兆ドル超えへ

まず経済成長の柱である個人消費の動きを確認すると、10月の米小売売上高は前月比0.8%増と5カ月ぶりの高い伸びとなりました。9月に米南東部を襲ったハリケーン「フローレンス」の被害からの復興需要もありましたが、10月は前年同月比でも4.6%増と高い伸びを示すなど、年末商戦を控えて良い兆しが見られています。

また、米コンファレンスボードが発表した10月の米消費者信頼感指数が18年ぶりの高水準となっており、堅調な米労働市場を背景に米家計が消費に前向きとなっていることを示唆しています。

米調査会社イーマーケターによると、今年の年末商戦の売上高は前年より約6%増え、初めて1兆ドル(約113兆円)を突破すると予想されています。電子商取引の普及にともなって、ここ数年はやや前倒しとなる傾向にはありますが、米国では感謝祭翌日、今年の場合は23日がいわゆる「ブラックフライデー」と呼ばれ、この日から年末商戦が始まると考えられています。

小売業では年末商戦の売上高が年間の4割を占めることも珍しくありませんので、年末商戦の好調はそのまま米景気の力強さを示していると言えそうです。

米国内景気は堅調も海外リスクを警戒

このように、米個人消費に力強い拡大が見込まれているにもかかわらず、株価は冴えません。どうやら、米国内ではなく米国外に問題があるようです。

米国では中間選挙を控えた不透明感から株価の上昇が抑制されてきましたが、選挙を波乱なく通過したことで、これまでは見逃されてきたリスクに注目が集まっているとも言えるでしょう。

ウォール街で大手金融機関に勤務するあるファンドマネジャーも「来年の株式市場は試練を迎えるのではないか」と見通しには慎重です。彼は以前、中間選挙を通過すれば不透明感が払しょくされて市場は上昇トレンドに入るだろうと述べていましたが、最近になって見方を変えています。

筆者の周りでは、最近になって来年の見通しを下方修正しているアナリストやエコノミストが増えており、その多くが欧州や中国といった海外リスクを指摘しています。前出のマネジャーの懸念もそこにあるようです。

対中強硬路線の修正は期待薄

ウォール街では株価低迷の一因でもある米中貿易摩擦の早期解決を望む声が強く、中間選挙で民主党が下院を奪取したことで、その機運が盛り上がりました。

しかし、ピーター・ナバロ米国家通商会議(NTC)委員長は今月9日、貿易交渉での立場を弱めることから、ウォール街の金融機関に対し、米中貿易戦争が収束に向かうようにトランプ大統領に圧力をかけるべきではない、と釘を刺しています。また、投資家は製造業の雇用消失で打撃を受けた地域の再興に資金を振り向けるべきだとの持論も展開しています。

また、ペンス副大統領は17日、「中国が態度を改めるまで、米国が行動を変えることはない」と発言し、中国が不公正な貿易慣行をやめるまでは圧力をかけ続けることを強調しています。

両氏の発言はトランプ旋風を巻き起こしたラスト・ベルト(さびついた工業地帯)を意識していると考えられますので、2年後の再選を目指すトランプ大統領の対中強硬路線は揺るぎないようです。

2016年の大統領選挙を振り返ると、米国民の政治不信の受け皿となり、州知事でも上院議員でもなく経営者という経歴が、ホワイトハウスで華麗なる経歴を持つ民主党のヒラリー・クリントン候補への攻撃を可能にしました。

日本を始めとする海外からの反発はともかくとして、対中関税政策はおおむね国民の支持を得ていますので、トランプ氏にとってはヒラリー候補に代わる悪役として中国との対決姿勢を緩めない恐れもありそうです。

EUは3重苦に直面中

一方、欧州連合(EU)は現在、3つの苦難に直面しています。

まず、英国のEU離脱(ブレグジット)期限が来年3月に迫る中、英国では内閣が承認した合意案を巡って、ドミニク・ラーブEU離脱担当相が15日に辞任するなど混迷が続いています。メイ首相は合意した内容での離脱を進めたい考えですが、議会で承認を得られるのかどうかは不透明で、合意なき離脱シナリオも用意すべき状況にあるようです。

また、EUの欧州委員会はイタリアの2019年予算を巡り、21日にも「過剰財政赤字是正手続き(EDP)」と呼ばれる制裁手続きの開始が勧告される見通しです。イタリアの公的債務は国内総生産(GDP)比130%超とEU基準の60%を大きく上回っていますが、19年予算案では低所得層向けの最低所得保障や減税を盛り込むなど、バラマキ色の強い内容となっています。

イタリアは13日に予算案を再提出しましたが、巨額の財政赤字を計上したまま成長率や赤字見通しを変更せず、EUとの対決姿勢を堅持しています。制裁が発動された場合、最大でGDP比0.5%相当の制裁金が科される可能性があります。

加えて、ドイツでは10月29日、地方選挙での連敗を受けてメルケル首相が任期満了となる2021年をもって首相を退くと発表しました。また、12月に予定されている与党キリスト教民主同盟(CDU)の党首選には出馬しないこともあわせて表明しています。党首と首相は同一人物がふさわしいと考えられていることから、12月の党大会で新党首が選任されたタイミングで首相職を退くとの観測もあるようです。

英国とEU、そしてイタリアとEUとの間で溝が深まる中、メルケル首相の退任はEUにとって大きな痛手となりそうです。メルケル首相にはそのカリスマ的な指導力でギリシャ危機などを乗り切ってきた実績があり、ドイツの政治的な不安定はそのままEUの不安定化につながる恐れがあります。

海外リスクの高まりを受け、FRBが早期の利上げ停止も

このように、年末商戦での好調が見込まれる中で米株価が低迷している背景には、米国外でのリスクが警戒されていることがあるようです。そして、海外経済のリスクは市場関係者のみならず、米連邦準備制度理事会(FRB)にも共有されつつあるようです。

たとえば、クラリダFRB副議長は17日、「世界経済が減速しつつある兆候がある」と発言し、海外経済の成長鈍化を注意深く見守る姿勢を明らかにしています。

シカゴ取引所(CME)が算出しているフェドウォッチによると、12月米連邦公開市場委員会(FOMC)での利上げ確率は、16日現在で65%程度と一時の80%以上から低下しており、利上げは織り込み済みと確信が持てる状況ではなくなってきているようです。

FRBはこれまで、中立的な金利水準を3%程度と推計していましたが、誤差が大きいとして2.5-3.5%と幅を持たせるようになりました。現在の政策金利は2.00-2.25%ですので、あと1回の利上げで中立金利の下限に達することになります。

また、原油価格の反落とドル高で米インフレ率が落ち着き始めていることも、FRBの利上げ停止には追い風となっています。9月FOMCでの見通しでは、2019年中には3.00-3.25%への引き上げが見込まれていましたが、この水準に達することなく利上げが停止される可能性が高まっているようです。

海外リスクへの警戒を深めるファンドマネジャーからも、「FRBが早期に利上げを停止すれば、株価にはプラス」との期待が寄せられています。

LIMO編集部