本記事の3つのポイント

  •  ファナックが産業用ロボット分野で積極的な事業展開を見せている。中国が主力市場と見られがちだが、意外にも売上高の約4割が米州向け
  •  ロボットメーカーであると同時に、自らの生産ラインにもロボットを数多く導入。ユーザーとしての意見を製品開発に反映させてきた
  •  産業用ロボットを生産する茨城新工場が稼働を開始。能力増強を一部前倒しで進めており、18年末の生産能力は17年初頭に比べて2倍超に

 

 人手不足や賃金高騰などを背景に製造現場の自動化ニーズが世界中で高まっている。それに合わせて製造現場で使用されるロボット、いわゆる産業用ロボットの市場も拡大している。

 その産業用ロボット市場は、ファナック㈱(山梨県忍野村)、㈱安川電機(北九州市)、ABB(スイス・チューリッヒ)、KUKA(独アウクスブルク)が4強といわれており、この4社で世界シェアの7~8割を占めるとされる。そのなかで産業用ロボットの累計出荷台数が50万台以上という世界最多の実績を誇るのがファナックである。同社は1956年に日本で民間初の工作機械用NC(数値制御)装置とサーボ機構の開発に成功して以来、工場の自動化に関する製品開発に取り組んでおり、その一環として77年から産業用ロボットも量産している。

 製品も可搬重量(搬送できる最大重量)が500gという小型タイプから、可搬重量2.3tという超大型タイプまで多種多様なロボットをラインアップしており、ロボット部門の売上高は2278億円(2017年度実績)に上る。その売上高を分析してみると、ファナックのロボット部門のある特徴が浮かび上がる。米州地域の割合が高いのだ。

約4割が米州市場

 国際ロボット連盟によると、産業用ロボットの世界市場は38万1000台(17年)で、そのうち約36%の13万8000台が中国で販売されている。そのため世界最多の出荷実績を持つファナックのロボットも中国市場が最大と思いがちだが、ロボット部門の売上高2278億円のうち約42%の951億円が米州市場での販売であり、米州のなかでも米国におけるファナック製ロボットの存在感は非常に大きい。

 その理由の1つが1982年に米ゼネラルモーターズ(GM)との共同出資により設立された「GMファナックロボティックス社」。このGMとの連携を活かして自動車製造現場を中心に、米国でのロボット導入実績を積み上げていき、米国最大のロボット会社としての地位を確立していった。そして92年にファナックはGMファナックロボティックス社を完全子会社化し、社名をファナックロボティックス社に変更。それ以降も現在に至るまで米国のロボット市場で高いシェアを持つというわけだ。

 そのため米国の製造業、特に米国自動車メーカーの設備投資が活況になれば、ファナックのロボット事業へのプラス効果が大きく、逆に米国の設備投資が落ち込めば売り上げへの影響は他のロボットメーカーに比べて大きくなる。現在、米国ではトランプ大統領が進める保護貿易政策によって設備投資が増えている分野もあるが、自動車などは中国への輸出が減少するといった影響も出ており、米中貿易摩擦がファナックのロボット事業に与えるインパクトは、今後より大きくなっていくだろう。

ユーザーとしての知見を開発に反映

 ファナックは世界有数の産業用ロボットメーカーとしての顔とともに、もう1つの顔も持っている。それは世界有数のロボットユーザーでもあるということだ。現在、山梨県にある本社工場だけで3600台以上のロボットが導入されており、数多くのファナック製品の生産に使用されている。これにより生産の効率化を実現しているだけでなく、ロボットユーザーとしての知見も蓄積し、そこで得られた視点をロボットの設計・開発にフィードバックすることで優れた製品を生み出してきた。

 もちろんロボットの製造にもロボットが多数使用されており、ファナックのロボット製造ラインはほぼ無人だといわれている。そのため「ファナック内にあるロボット生産棟は普段人がいないため電灯が点いていない。ユーザーやサプライヤーなどが工場見学に来たときだけ生産棟内の電灯を点ける」といった都市伝説のような話まであるほどだ。

茨城県で新工場が稼働

 そのロボットの生産面に関する新たな動きとして、茨城県筑西市で整備していた産業用ロボットの新工場が10月ごろから本格的に稼働を開始した。筑西市にある「茨城県つくば明野北部(田宿地区)工業団地」内の敷地約28.7万㎡に、ロボット工場と機械加工工場の2棟(延べ床面積は約16.6万㎡)を整備したもので、ロボットも多数導入され、かつ先端のIoT技術も活用することで従来以上に生産効率の高い工場となっている。

 ファナックではこの新工場を含め、産業用ロボットの生産体制を近年、積極的に拡大している。17年年初時点では全社ベースで月産5000台の生産能力であったが、山梨県にある本社工場で増強を図り、17年末に同6000台の体制を構築。さらに同社の筑波工場(筑西市)の一部をロボットの製造ラインに転換することで同1000台の生産能力を追加し、17年4月には全社ベースで同7000台の体制を構築した。

 そして新工場が稼働を開始したわけだが、当初の発表では新工場は第1期として月産2000台のロボット生産能力を備え、需要動向によって最大同4000台まで増やしていく方針を示していた。しかし、ここにきて18年末までに同4000台の体制を構築する方向で前倒しの増強が進んでいるようだ。これにより、全社ベースでは18年末までに、17年年初に比べ2.2倍の同1万1000台のロボット生産能力が構築されることとなる。

 ファナックとともに産業用ロボットの4強を構成する安川電機、ABB、KUKAは産業用ロボットの具体的な生産能力を公表していないが、ファナックが構築する月産1万1000台という数字は、他の3社に比べ2倍以上の水準だと推測される。新工場の稼働を機に、4強から1強となるべくファナックは産業用ロボット事業のアクセルを踏む。

電子デバイス産業新聞 編集部 記者 浮島哲志

まとめにかえて

 メディアの取材をなかなか受けないことでも有名なファナック。そのため、これまでは秘密のベールに包まれきた印象が強いですが、最近では展示会の出展や一部メディア取材も受けるようになってきており、会社の広報に対するスタンスも徐々に変わってきました。典型的なB2Bの事業スタイルですが、今後のロボット事業はB2Cへの展開も期待できるため、広報戦略を見直している可能性もありそうです。

電子デバイス産業新聞