いよいよというべきか、スマホにおける台数の限界性が明確に見えてきた。世界のスマホ出荷台数は2017年に15億台となったが、2015年から3年間ほとんど伸びていない。2018年に期待する向きもあったが、アップルが華々しく発表した期待の新製品も完全に伸び悩んでおり、おそらく全体で良くて横ばいという状況なのだ。

 2019年のスマホ出荷については、中国経済の後退もあり、5~10%減るという見方も出てきた。こうしたスマホの限界性が見えてきた中で、ディスプレーの中身を変えようという動きが加速する。有機ELが2021年ごろには現状の3倍のスケールとなり、ディスプレー全体の3分の2を占めてしまうという予想がはっきりと出始めたのだ。

高コストが難題の有機ELスマホ

 これには様々な理由があるだろう。一つには中国のFPD設備投資がすさまじい勢いで進んでおり、すでに世界一の水準に達している。さらに10.5G投資ラッシュが続行することから、正直言ってサムスンもLGも、はたまた台湾勢も中国液晶にまともにぶつかって勝てる見込みがなくなってきた。

 それ故に有機ELで付加価値を付け、何とかしてディスプレー全体の金額を維持しようという目論見なのだ。ところがどっこい、それはスマホが高価格路線に移行することになり、アップルの苦戦を見てもわかるようにユーザーがついてこないという懸念を払拭できない。

 サムスンはフォルダブルスマートフォンを準備しており、これはスマホとタブレットの中間的な製品であるが、有機ELの単価があまりに高いために今のところは1500~2000ドルで売り出すといわれている。そんな高いスマホは誰が買うのか、という疑問がどうしても生じてくる。サムスン首脳部によれば、このフォルダブルのコストダウンを図り1000ドルを切れば十分に市場はあると判断しているようだ。確かに若い人たちの間ではフォルダブル欲しいよね、という声がないでもない。

 しかしながら、有機EL普及についてはやはりアップルの動向が重要になる。現状でアップルはサムスンの生産キャパの2分の1しか有機ELを買ってくれないのだ。当然のことながらサムスンの稼働率は上がってこない。もっとも、サムスンの有機ELの歩留まりは非常に高いものがあるのだが、それでもビジネスとして成立するかどうかはまだまだ見えてこない。

サムスン以外も投資に遅れ

 さて一方で、大型ディスプレーにおける有機ELで勝負をかける韓国のLGは、現状においてまことに強い姿を見せつけている。今後も有機ELの大型投資を続行する予定であるが、ここに来て全体的に投資を遅らせる傾向が出てきた。サムスンも有機ELにしろ液晶にしろ、次の工場を作る背景がない。

 それでは液晶に続いて有機ELも制覇してやるとばかりに殴り込みをかけてきた中国勢の状況はどうなっているのか。今や液晶世界一になったBOEは、成都にフレキシブル有機EL工場を立ち上げ、さらに重慶にも6Gのフレキシブル有機EL新工場を立ち上げている。また綿陽でも同様の6G有機ELの新工場立ち上げに入っている。

 しかし現状においては、なかなか立ち上がってこないという噂も出ている。その意味ではBOEもまた有機ELに対する投資を2年間遅らせるのではないかという情報も出てきた。ただこの場合、需要よりも技術面の遅れが背景になっていると見る向きが多い。つまりはBOE、天馬、GVOの中国3社の歩留まり改善が何としても課題になる。

スマホの伸び悩みを埋める製品は現れるのか

 4K有機ELテレビの市場で世界トップに立ったソニーは、これまでLG製を使ってきたが、ここに来てBOE製も採用し始めており、かなりの量を発注しているようだ。日本に関する有機ELの話題で言えば、JOLEDによる印刷方式有機ELがどうなるか、ということがある。当初は否定していたが、やはり大ロットになるテレビ用大型サイズも狙っているといわれ、2019年には700億~1000億円の資金調達でジャパンディスプレイ石川工場の中に5.5Gの量産ラインを新設するという計画を進めている。2020年にはフレキシブル有機ELの量産化も計画しており、これは車載向け中心でとりあえずはトヨタ、デンソー向けに出荷するという。

 様々な動きがある有機EL業界ではあるが、どうあっても最大アプリのスマホの伸び悩みがボトルネックになってくるだろう。IoT時代を迎えて全くの新たな製品でディスプレー用途が広がらない限り、有機ELという大輪の花が咲く時期は見えてこない。

産業タイムズ社 社長 泉谷 渉