9月下旬、ニューヨーク・マンハッタンにアマゾンの人気商品を集めた実店舗、アマゾン・4スター(Amazon 4-star)がオープンし話題を集めました。オープンして1カ月、店内の様子を覗いてきましたので、そこで発見したニューヨークでの売れ筋商品やトレンド商品を紹介します。

女性ベンチャー起業家の転落人生に高い関心

店内は売れ筋商品やトレンド商品、高評価商品といった独特の分類により展示エリアが分かれています。

ニューヨーク市でのトップセールス商品を見ると、医療ベンチャー企業、セラノスの創業者エリザベス・ホームズの栄枯盛衰を描いたノンフィクション、『Bad Blood』が目に飛び込んできます。

「指先からの血液1滴で200種類以上の病気が診断できる」検査キッドの開発により「自力でビリオネアとなった最初の女性」としてメディアの寵児となりましたが、後にすべてが嘘であることが発覚。

「女性版スティーブ・ジョブズ」が「詐欺師」に転落するまでの物語を事件を追ったウォール・ストリート・ジャーナル紙の記者がサスペンス風に仕上げた渾身の一冊です。

全米でベストセラーとなった本ですが、証券取引委員会(SEC)から詐欺罪で訴追を受け、企業犯罪として市場関係者を震撼させた事件でしたので、ウォール街での関心がことさらに高かったことは確かでしょう。

また、ニューヨーク市は水道水のまずさで悪名が高いことから、その本の後ろにポット型浄水器がひっそりと佇んでいるのはご愛嬌といったところでしょうか。

音で音を遮断する「マーパック」がトレンド商品に

トレンド商品エリアではマーパックが中央に鎮座しています。騒音をホワイトノイズで遮断してくれるというこの商品、観光客も多く、地下鉄が24時間稼動しているニューヨークですので、他に比べて需要が高いことは請け合いです。

こちらも全米でのヒット商品ですが、ニューヨークらしい商品であるとも言えるでしょう。

「エコー」で生活が変わる?

店内にはアマゾンのデバイスを紹介しているコーナーもあり、そこに並んでいるのが人工知能(AI)スピーカーとしてアマゾンが力を入れているエコー(echo)です。

アレクサに聞けば明日の天気を教えてくれることはもちろん、歌を歌ってくれたり雑談にもつきあってくれますので、独身者には必需品かもしれません。高齢者にとっても従来の煩わしいリモコン操作を音声で引き受けてくれますので、より快適な生活が可能になるとのことです。

店内でも実際に立ち止り、手に取って見ている人も多く、ヒット商品としてかなりの関心を集めている様子がうかがえました。

断捨離の伝道師「こんまり」のロングセラーはマンガにも

高評価コーナー行くと、今や“断捨離の伝道師”として世界的な著名人となった「こんまり」さんこと近藤麻理恵氏の『人生がときめく片づけの魔法』の英語版が最も目立つ中央の高い位置に置かれています。

こちらも全米というより世界的なロングセラーですが、住宅事情が悪く、郊外での一戸建ては夢のまた夢、狭いアパートでの暮らしを余儀なくされているニューヨーカーにとってはまさにバイブルとなっているようです。もちろん、自己啓発が大好きなニューヨーカー気質も需要を押し上げていることでしょう。

こちらの本、英語に翻訳されているのみではなく、マンガになっています。ひと昔前ですと、“マンガ=子供向け”とのイメージでしたが、大人向けのマンガのことをグラフィック・ノベルと呼び、子供向けのコミックとの違いが認識されつつあるようです。

ギグワーカーも多いデザイナーの街、お隣はイタリア街

4スター店はマンハッタンのソーホー(SOHO)地区に位置しています。もともとアーチストやデザイナーの多く住むエリアでしたが、近年では高級ブティックが並ぶレストラン街としても知られるようになっています。

さらに、こうした流れとギグエコノミーの普及とが相まって、最近ではウェブ系のデザイナーを始めとするギグワーカーが集まるシェアオフィスも増えているようです。

また、ソーホーの由来はSouth of Houston Street(Houstonはヒューストンではなく、ハウストンと発音)ですが、SOHO(Small Office Home Office)とイメージが重なるエリアでもあります。

マンハッタンでも比較的アーリーアダプターが集まりやすいエリアにこつ然と姿を現したのがアマゾンの4スターというのは、どこか因縁めいています。

ちなみに、4スター店は隣接するイタリア街との境界にあります。地下鉄の最寄駅であるSpring Streetを西に1ブロック進むと4スター店、駅から東に2ブロックほどで米国初のピザ屋として有名なLombardi’sがありますので足を延ばしてみるのもいいでしょう。

ザガットで“Best on the Planet(地球上で最高)”と紹介されたこの店のピザは、味にうるさいニューヨーカーの間で長年にわたって絶大な人気を誇っています。マルゲリータにスライス・トマトをトッピングするのが筆者のお気に入りですが、もの足りないようでしたらぺパロニとほうれん草のバターソテーの組み合わせがおすすめです。

目的なくウロウロすることが目的

ウェブでの検索は買いたいものを探すにはとても便利ではありますが、目的以外の商品には出会えません。これはこれで利点ではありますが、目的なしに店内を探検するニーズも確かにあり、その辺りが今回の出店につながったようです。

来店者の数人に声をかけてみたのですが、みなさん特に目的もなく立ち寄ったとのことで、「何か面白そうなものがあるかもしれないから」と、ぼんやりとした期待を内に秘めて訪れているようでした。

ニューヨークはハロウィーンを終え、11月下旬には感謝際を迎えます。従来であれば感謝祭翌日のブラックフライデーからがクリスマス商戦のスタートでしたが、ここ数年は前倒しの傾向があるので、そろそろ今年の年末商戦もスタートが見えてきています。

ビックデータをAIで解析する現在、マンハッタンの人気商品店にはどのような顧客が集まり、どのような商品を購入するのか、そしてそのデータをAIがどのように分析して次の戦略に生かすのか、興味の尽きないところです。

LIMO編集部