訪日外国人が4000万人を超えると見られている2020年に向け、さらなる高まりを見せているインバウンド消費。その中でも、東京オリンピック・パラリンピックで需給逼迫が懸念されているホテル業界が大きな動きを見せている。
超一流ホテル・トップコンシェルジュのノウハウを生かした新事業
人材教育・紹介・派遣、送迎サービスをはじめとした総合人材サービスを手掛ける株式会社ジャパン・リリーフがホテル&ホスピタリティ事業部を立ち上げ、11月1日からホテル業界の人材ニーズへの対応を目的とした新事業「CONCIERGEST(コンシェルジェスト)」の提供を開始した。
11月1日に行われた同社の新事業プレス発表会では、代表取締役会長兼最高経営責任者の野村俊司氏が登壇。2020年に向けたホテル建設ラッシュに伴う人材不足の解消、また訪日外国人富裕層の顧客満足度を高めることに狙いを定めていると、概要を説明した。
「CONCIERGEST」は、アマン東京やマンダリンオリエンタル東京などの外資系ラグジュアリーホテルでのチーフコンシェルジュ経験のある、オザキ・カレン氏と平方久美子氏がサービスの立ち上げから参加。
人材教育/紹介・派遣と会員制コンシェルジュサービスの2本柱になっており、長いキャリアを持つトップコンシェルジュが現場で培ったノウハウを生かし、香港、シンガポール、中東をメインターゲットにした海外のVIPへのおもてなしを展開していく。
海外の超VIPはどんなサービスを求めるのか
特筆したいのは、会員制コンシェルジュサービスの内容。全国のネットワークを駆使し、京都の有名寺院の特別エリアへの案内、伝統工芸品を独自ルートで手配してプレゼント、人気アミューズメントパークに並ばずに楽しんでもらう、といったプログラムは富裕層の希望があれば提供できるようにしているそうだ。
他にも、まわしを着けて土俵に立てる相撲体験、和泉流の師範から英語でレクチャーを受け、実際の衣装を着けた狂言体験といった、一味違う日本独自の体験を提供可能にしていく。
外国人富裕層と一口に言っても様々だが、同社がまず狙っているのは、プライベートジェットで訪日するようなトップクラス。会員制コンシェルジュサービスとして、量産を目的とせず数を絞って提供する。
そんな富裕層はどのようなサービスで満足させるのか。平方氏はかつてとある超VIPの訪日旅程をすべて任された際、散歩が好きだというので平方氏の知っている限りのおすすめスポットを提案。1日前に側近の方と実際に歩いて道中などを確認した上でVIPを案内した。
またオザキ氏もアジアの超VIPをアテンドした際、「日本らしい商品を買いたい」「ストレスなく買い物がしたい」という希望があったため、銀座のショッピングビルと星のついた寿司店を貸し切りに。こうした、単なるラグジュアリーさだけではなく、自分自身の経験やアイデアも盛り込んだ、とっておきの日本体験ができるおもてなしが求められる。
富裕層向けコンシェルジュに求められる対応力
上記のように、CONCIERGESTにおけるコンシェルジュサービスは、決まりきったプログラムを外国人富裕層に提供するのではなく、彼らが求めていることを汲み取ってコンシェルジュ側から提供していくテーラーメイド型サービス。アテンドするコンシェルジュには、最高レベルのホスピタリティと高いおもてなしスキルが必要とされる。
そのため、コーチングやロールプレイング、実際にホテルでの現場経験とフォローアップなどを通して一人一人の個性を引き出す教育プログラムを組む。そして自己理解が深く共感力のある、人間力の高い、未来のホスピタリティを牽引できる即戦力のある人材を育成していく。
現役のトップコンシェルジュによる指導を受けられるのは、その道を目指す者にとっては何にも代えがたい機会だろう。実際に教育やホテルへ派遣する人材の人数については、教育対象者の経験などによるが、年間で数十名程度、次年度で3桁を目指すとのこと。
前出の野村氏によると、同社の人材派遣全体では現在1日に8000名を派遣し、1日あたり8000万円の売り上げがあると言う。それをCONCIERGESTでどこまで拡大できるかは、現段階では未知数だが、同社のこれまでの経験値から3年後に10億円の売り上げを見込んでいる。
今後は、いかに派遣するホテルとの関係を構築して現場を通した人材教育を推し進めていけるか、法人会員をいかに獲得していくかといった様々な課題があるというが、これまでになかった外国人富裕層に特化したコンシェルジュサービスの展開が、日本のインバウンド消費を大きく動かすことを期待したい。
秋山 悠紀