「うちのチームから不調者が出たらどうしよう……」
「私の部下は大丈夫だろうか」

過労死や長時間労働、うつ病、パワハラなどがさかんに問題になっている昨今。部下のマネジメントを引き受ける管理職は、こんな不安を抱いている方も多いかもしれない。

しかし、産業医・労働衛生コンサルタントであり、『マネジメントはがんばらないほどうまくいく うつうつ部下をいきいき部下に変える世界一シンプルな方法』の著者である三宅琢氏は、「管理職にして欲しいケアは3つだけなので、心配しすぎる必要はありません」と述べる。

部下を不調にせず、いきいきと働けるようにするための簡単なマネジメント方法を、三宅氏に解説してもらった。

まず「勤怠の乱れ」を見る

メンタルの不調は、なんとなく調子が悪い、気力が湧かない......といった、「風邪の引き始め」のような感覚から始まることが多くあります。そういった心の中のちょっとした変化は、なかなか他人からは気づきにくいものです。

けれども、外に現れる「行動」さえ見ていれば、他人の揺らぎでも早期に見つけられる可能性がグッと高まります。

職場においてまず見るべきは、「勤怠」です。管理職として、当然、部下が何時に出社して何時に退社しているか、遅刻・早退や欠勤はあるか、といった勤怠状況は把握しておくべきですが、これはメンタルチェックにも利用できるのです。

遅刻・欠勤・早退・残業の増加は要チェック

以前は定刻通り出社していた部下が、最近遅刻してくるようになった。残業時間が増えた。欠勤や早退が増えた......これらはすべて「揺らぎ」です。

勤怠には、睡眠の乱れをはじめ、仕事することや職場に行くことへの不安感、モチベーションや集中力の低下など、心身の不調が現れやすいものです。

夜は眠れず、朝は起きられない。出勤までの支度に思いがけず時間がかかる。電車に乗れない、乗ってもすぐ降りてしまう。どうしてこんなに調子が悪いのか、よくわからないけど、とにかくしんどい......そんな状況になっていることもあります。

一度や二度の「揺らぎ」なら、「特に気にかけておく」ぐらいに留めておいてもいいと思います。たまたまかもしれませんから。ただ、「揺らぎ」が続くようなら、危険信号点灯です。普段から部下の勤怠状況を見る習慣をぜひ身につけてください。

挨拶は「最強のメンタルケア」

部下の揺らぎに気づくために有効なのは、勤怠のチェックの他に、「挨拶」することです。

何を当たり前のことを、と思われるかもしれませんが、当たり前のことだからこそ、うまく活用していけば、上司の負担を大幅に減らすことができます。挨拶は「どんな上司でもできる最強のメンタルケア」、といっても過言ではありません。

挨拶をすることは、無理をしなくてもできることです。「おはよう、○○さん」と声をかけるにしても、いつもの自分でかまいません。大声を出すとか、よく通る声で言うとか、いつもと違うことはしなくていいのです。

遠くから声をかけたくなければ、近づいて言えばすみます。相手に届きさえすればいいのです。

「いつもと違う」を見逃さない

部下の返事も人それぞれでしょう。元気よく「おはようございます」と返してくる人ばかりではないはずです。ボソッと言う人、ただ微笑む人、小さな声で返す人などなど。反応はさまざま。これも元気な返事を求めているわけではないので、どういう返事であってもいいのです。

では、なぜ挨拶が、部下の「揺らぎ」のチェックになるのでしょうか?

毎日、挨拶をしていると、部下の服装・髪型・表情・声・返事などから「いつもと違う」と感じることが出てくるはずです。そのときは、要注意です。同時に勤怠をチェックしてみてください。何か変化があるかどうか。もしあれば、そのことを本人に気づいてもらい、セルフケアするようにうながしましょう。

セルフケアの大切さを情報提供する

そして、セルフケアの大事さを部下に思い出してもらうには、そのために役立つ情報を全員に伝えておくことです。

「おはよう、○○さん、よく眠れている?」
「○○さん、最近、ちゃんと遊んでる?」

「食う寝る遊ぶ」が大事であることを伝え、ときどき、それを思い出してもらえるような問いかけをし、関連する情報を提供していくのです。

そのために会社としてできることがないか聞いて、上司として許可できる範囲で対応することも視野に入れます。たとえば、「仕事量がもう少し少なければ、早く帰って寝る時間を増やせると思います」と言うのなら、チームからヘルプを入れて調整するなどの対応です。

上司自身のセルフケアを表明する

また、提供する情報としては、管理職である当人のセルフケアを表明するのもいいことです。どんなに忙しくても、自分をいい状態に保ち、管理職として仕事ができるベストの状態を保つこと。そのために、何をするか。何をしたか。

「久しぶりにテニスをしたら、日に焼けちゃって。○○さんは、釣りでしたっけ。最近、行ってますか? 有給も余ってますし、今度行ったら、成果を聞かせてください」

そんな会話を部下とできる関係を築いていってください。

管理職がすべきことは3つだけ

管理職にしてほしいラインケアをまとめると、次の3つだけです。

(1)気づく……勤怠などの「行動」から揺らぎに気づく
(2)うながす……まず自分が実践した上で、セルフケアの大切さと実践法を情報提供する
(3)つなぐ……改善されないときは、専門家につなぐ

「セルフケア」こそが職場の健康を維持する最重要課題です。セルフケアができていれば、ラインケアはいらないと言ってもいいぐらい重要です。

ただし、上司としての責任がありますから、部下のセルフケアがうまくいっているかを確認しておくことは必要で、それを行動の「揺らぎ」で確認するのです。

「揺らぎ」を見つけたら、まず上司であるあなた自身が実践した上で、セルフケアするようにうながします。

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複雑な問題はプロに投げればOK

そして、改善が見られなければ、すみやかに専門家につなぐこと。この先は複雑な問題ですから、下手に手を出そうとせず、プロに投げてしまえばいいのです。もしセルフケアを「うながす」ことが難しければ、すぐに専門家につないでいただいてもかまいません。

これらを忘れなければ、産業医という立場から見ても「きちんとラインケアをやっている上司」と言えるのです。

 

■ 三宅 琢(みやけ・たく)
医学博士、眼科医、産業医・産業衛生専攻医、労働衛生コンサルタント、メンタルヘルス法務主任者。株式会社 Studio Gift Hands代表取締役、公益社団法人 NEXT VISION 理事、東京大学政策ビジョンセンター客員研究員。
産業医・労働衛生コンサルタントとして、IT系企業から大手アパレル企業まで数多くの職場環境に関するコンサルタント業務を行う。

三宅氏の著書:
マネジメントはがんばらないほどうまくいく うつうつ部下をいきいき部下に変える世界一シンプルな方法

三宅 琢