半導体の世界的な業界団体であるSEMIによれば、半導体工場の前工程の投資額は2018年に前年比14%増の628億ドルとなり、過去最高を記録する見込みであるという。2019年についても同7.5%増の675億ドルを予想しており、2016年以降4年連続で高い成長を遂げるとしている。
高成長予想は甘すぎる?
さて、正直言ってこの成長見通しは甘すぎるというか、むしろ怪しいと思えてならない。何しろ現状において前工程装置投資額全体の60%が3D-NAND型フラッシュメモリー、DRAMなどのメモリー分野であり、30%はファンドリーが占めている。ところがここに来て、3D-NANDの供給増が明白になってきており、価格下落が進んでいる。
2018年の3D-NANDフラッシュメモリーのビット成長は業界平均で40%増がコンセンサスとなってきたが、各社の歩留まりが向上し、設備投資も一気に強化され、安定した供給がされるようになったことで価格下落を招いている。加えて最大アプリのスマホの伸び悩みは明らかであり、ピークの2016年に5億台を販売した中国マーケットの軟調が著しい。
さらに加えて、今後爆発的成長が期待できるSSDの需要がここに来て止まっている。現在のデータ生成量は世界全体で9ゼタバイトとみられるが、それがここ3~4年で4倍増となり、40ゼタバイト近くまで行くとの予想が有力であった。
ところが、中国をはじめとしてデータセンターそのものの投資も弱含みとなってきた。もちろん次世代高速通信の5Gが本格導入される2020年以降は一気に通信量が増えるわけだから、データセンターの投資は待ったなしの状況であるのだが、多分に公共投資型のスタイルが多いため、滞っている国や地域も多い。
各社の3D-NAND投資に遅れ
こうした状況から、3D-NANDの投資を大きく延期する傾向が明らかになってきた。東芝が着工した期待の北上新工場も建設は進めるものの、装置の導入は大幅に遅れるといわれ始めた。また、サムスン電子も3D-NANDに対する大型投資をほぼ全工場にわたって先送りするとの見方も出てきた。
これを反映して、3D-NANDフラッシュメモリー価格の8月分についてはTLCの128Gビット品が前月比3%安い1個3.3ドル前後になった。同じく256Gビット品も前月比3%安い1個5.6ドル前後となった。いずれも7カ月連続で下落しており、年初比でいえば何と3割安になっているのだ。
投資を控え価格を守る戦略に出たサムスン
さて一方、DRAM価格についてはDDR4の4Gビットタイプが1個4ドル弱、つまり400円くらいの状況で6カ月連続横ばいとなっている。DDR3の2Gビットタイプは1個1.5ドル弱、つまり150円前後でこちらは約1年間にわたって横ばいの価格となっている。
DRAMのユーザーは価格が下がらないことに対して苛立ちを隠さない。いい加減にしろ、という声も多く聞こえている。何故ならば、DRAMの営業利益率は50%以上(注・サムスンは70%前後を確保)もあるといわれ、いわばボッタクリといってもよい程の状況にあるからだ。つまりはこれを供給するサムスン、SKハイニックス、マイクロンの膨大な利益を考えた場合、もっとDRAMへの投資を拡大して価格を下げてほしいというのがユーザーの本音なのだ。
しかし最大手のサムスンは、延期していた平澤工場へのDRAM用設備の導入を再び見送ることを内定したようだ。ただ、対抗するSKは中国・無錫工場の稼働時期前倒し、さらには京畿道利川市に新工場建設を発表しており、サムスンがDRAM投資に手を抜いている隙間を狙ってシェアを上げようという考えだ。
各社各様に様々な動きが出ているものの、ここに来てメモリー投資が急速に冷え込む可能性が強まってきた。世界最大手のサムスンの戦略はDRAM価格を守るために投資を控え、また3D-NANDについても投資先送りという明確な方向性である。いわば価格を守るために投資シュリンクという作戦に出てきたわけだ。
まだまだ日本勢がメモリーで強かった90年代初めのことであるが、DRAMによるボッタクリを筆者はこの目で見てきた。そのころの記憶では100円で作れるDRAMを1000円で売っていた。そしてまたその価格は1年半も変わらなかった。メモリーによるボッタクリ商法は今に始まったことではない。それにしても、3D-NANDフラッシュメモリーの価格急落および投資先送りは数多くの装置メーカーにかなりの負のインパクトになるのは必至であり、先行きを逃さずウオッチングしていきたい。
産業タイムズ社 社長 泉谷 渉