世界で初めて7nmプロセス技術を使った仮想通貨のマイニング用国産ASICチップ「KAMIKAZE」を開発している㈱TRIPLE-1(福岡市)は、KAMIKAZEを搭載した初期量産用マイニングマシンで実機検証を行った結果、ハッシュレート(採掘速度)14.5TH/s(ノーマル時)で消費電力750W、電力効率0.052W/GHの性能を確認した。

 この数値は、16nmプロセスを用いた中国トップメーカーの既存ASICにハッシュレートを合わせたうえ、電力効率を最も重視した仕様(エコスペックマシン)にした際の性能テスト結果。この実機検証結果により、KAMIKAZEは中国製既存ASICの1365Wに比べて消費電力を半分近く下げることに成功したことが分かった。

 ちなみに、KAMIKAZEの性能を引き出したハイパースペック版(ハッシュレートを最大化したバージョン)では、ハッシュレート33.0TH/s(ノーマル時)で消費電力2000W、電力効率0.061W/GHが可能との検証結果も得た。

当初想定どおりの性能を確保

 TRIPLE-1は、4月にKAMIKAZEのテープアウト(設計完了)を発表した際、おおよその性能見込み値を発表していた。

 KAMIKAZEは、16nmプロセスを用いた従来チップとほぼ同サイズでありながら、7nmプロセスの採用によって回路の密度を5.2倍に高めることで、マイニング能力は最大でオーバークロック時300GH/sと従来の約4倍に処理能力を向上し、電力効率は最高で0.05W/GH以下と従来の約1/2にできる見込みだと述べていた。

 さらに、マイニングマシンは通常、200個程度のマイニングチップによる並列処理でマイニングを行うが、仮にチップをKAMIKAZEに置き換えると、マイニングマシンのパフォーマンスを最大4倍(オーバークロック時)に高めることができるほか、仮に従来のスペックと同じマイニングマシンをKAMIKAZEで作った場合、チップ数は1/4で済み、計算上のマシンサイズは1/4、消費電力は1/2にできるとの見込みも明らかにしていた。

 今回の実機検証の結果は、こうした当初の想定どおり、あるいはそれ以上の性能をKAMIKAZEで実現できたことを裏付けることとなった。

TSMCの最先端7nmプロセスで製造

 TRIPLE-1は、国内唯一のブロックチェーン技術開発会社として16年11月に設立され、約1年をかけて同社初の製品として18年4月にKAMIKAZEのテープアウトにこぎつけた。KAMIKAZEの生産を委託したのは、現時点で世界で唯一、7nmプロセスを提供している半導体ファンドリー(受託製造)最大手の台湾TSMC。しかし、7nmプロセスは今回がファーストロットとなるため、これまで世の中にチップの生産実績がなく、果たして設計値どおりの性能が出せるのかは未知数だった。

 しかも、設立されたばかりのTRIPLE-1は、アップルなどの世界的企業と競合しつつ、TSMCに7nmプロセスの生産枠を確保する必要もあった。アップルは、先ごろ発表したiPhoneの18年モデルに搭載したアプリケーションプロセッサー「A12 Bionic」をTSMCの7nmプロセスで製造している。

 TRIPLE-1取締役CTOの尾崎憲一氏は、7月末にTSMCから初めて同社に届いたKAMIKAZEのエンジニアリングサンプル(ES)ウエハーを前にして、「テープアウトからESウエハーの完成までに5カ月を要した。7nmプロセスは世界最先端。つまり、まだ実績のないライブラリを使用することになるため、RTLを何パターンも作り、電圧などを微調整していく作業に2カ月をかけた」と、開発の経緯を述べていた。

11月末発売へイメージCG動画も公開

 今回の実機検証結果を踏まえて、TRIPLE-1は初期量産マイニングマシンの出荷を11月末ごろから開始する予定。すでにKAMIKAZEの量産用ウエハーの第1弾を投入済みで、19年度には月産1000万個を目指す。今後、顧客の要望に応じたチューニングなどにも対応しつつ、当初はマイニングマシンとして月間3万~5万台の販売を目標にしている。

 また、今回の実機検証結果を受けて、KAMIKAZEのイメージCG動画をYouTube(https://youtu.be/Fp_K4bV639Y)で公開している。

電子デバイス産業新聞 編集長 津村 明宏