米国型「強欲資本主義」がバブルを生んだ:リーマン・ショックの教訓(1)

リーマン・ショックは、米国の住宅バブルが崩壊したことで起こりましたが、そもそも住宅バブルを発生・拡大させたのは米国の強欲資本主義だった、と久留米大学商学部の塚崎公義教授は指摘します。

住宅バブルと銀行の安易な貸出の悪循環が発生

リーマン・ショックの原因となったのが、住宅バブル崩壊によるサブプライムローンの焦げ付きでした。サブプライムローンとは、信用力の乏しい借り手に対するローンのことです。

通常であれば貸さないような相手に対しても、住宅価格が上昇を続けていた住宅バブル期には、住宅ローンを貸す銀行が数多くありました。「住宅価格が上がり続ければ、担保にとった住宅が高く売れるため、借り手が破産しても大丈夫だ」という甘い読みをしていたわけです。

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銀行が積極的に住宅ローンを貸すので、借りた人が家を買い、それが住宅価格を押し上げて住宅バブルを拡大し、それがいっそう銀行の姿勢を甘くした、といった「悪循環」が生じていたわけです。

強欲な投資家がバブルを助長

米国では、住宅ローンの証券化ということが行われています。複雑な仕組みなので説明は控えますが、ここでは「銀行が持っている住宅ローンの借用証書を、束にして投資家に売却する」と考えていただければ結構です。束が投資家の間で積極的に売買されている、と考えてください。

サブプライムローンは、信用力の低い借り手に対する貸出です。そうした貸出は、貸し出した直後は普通の値段でしか売れません。貸出金利は高く設定されていますが、踏み倒される可能性も高いからです。しかし、住宅の値段が上がると、住宅ローンの価値も上がります。借金を踏み倒されても担保を処分すれば回収できるようになるからです。

つまり、借用証書の束を購入して暫く持っていて、住宅価格が上がったら売却すれば、莫大な利益が得られることになるわけです。もちろん、その間に住宅価格が下がったら莫大な損が出るので、投機ですが。

こうした投機を最大規模で行なっていたのが、リーマン・ブラザーズでした。もちろん、他にも多くの投機家たちが大量の束を売り買いしていましたが。

そうなると、銀行は気楽に貸出するようになります。信用力の低い人に高い金利で住宅ローンを貸し、借用証書を投機家に売れば良いのですから。投機家たちは、自分で借り手を探してくることができないので、借用証書を貸出金額より少しだけ高い値段で買ってくれるのです。

銀行が気楽に貸出をすると、借りた人が家を買うので、家の値段が上がり、上記の悪循環が加速することになるわけです。

投資家の「成功報酬」がバブルを拡大

リーマン・ブラザーズや同業者たちは、社員の給料に徹底した成果主義を採り入れています。儲けた社員には巨額のボーナスを支払うことで、優秀な人材を集めてくるのです。これが、バブルを拡大した一因となりました。

「住宅価格が上がれば大儲け、下がれば大損」という取引があったとします。自分の金で買うかと問われれば、躊躇するかもしれませんが、会社の金で買う場合は躊躇なく買うかもしれません。それは、儲けが出たら巨額のボーナスがもらえる一方で、損をしてもクビになるだけですから。

ちなみに、「クビになる」ということに対する日本人と米国人の感覚の違いは非常に大きなものがあります。米国は、そもそも終身雇用ではないので、クビになることは決して珍しいことではなく、「クビになったら、別の会社での仕事を探すだけ」というのが一般的な米国人の受け止め方のようです。

余談ですが、米国の金融機関で証券化などのビジネスに従事している人々は、儲けた時は一度のボーナスで一生食べていけるくらいの金をもらえるようなので、それもクビを恐れない一因なのかもしれませんね。

株主有限責任も、バブルを助長

金融機関の株主の中には、「金融機関が大儲けするか大損するかの投機をする」ことを望んでいる人が大勢います。それは、株主有限責任という制度があるからです。

金融機関が「住宅価格が上がれば大儲け、下がれば大損」という取引をしたとします。大儲けしたら、儲けは(成果主義のボーナスを除いて)すべて株主のものになります。

大損をして債務超過になっても、株主有限責任という制度があるため、株主は株券が紙くずになるだけで、それ以上の負担は求められません。金融機関が資産をすべて処分しても負債が返済できない場合、預金の一部カットなどが行われることになります。

もっとも、銀行預金の多くは預金保険でカバーされているので、実際に巨額の損失を被るのは預金者よりも預金保険機構である場合が多いですが。

つまり、金融機関の社員が投機をすることで、社員も株主も「勝てば自分たちの勝ち、負ければ預金保険機構の負け」という恵まれた立場に立てるのです。これでは株主が社員の暴走を止められるはずがありませんね(笑)。

こうして、住宅バブルは拡大して行きました。もちろん、最後はバブル崩壊によってリーマン・ショックが引き起こされたわけですが、その話は拙稿『金融危機は予想外のことが起こるから恐ろしい:リーマン・ショックの教訓(2)』で。

本稿は、以上です。なお、本稿は筆者の個人的な見解であり、筆者の属する組織その他の見解ではありません。また、本稿は厳密性よりも理解しやすさを重視しているため、細部が事実と異なる場合があります。ご了承ください。

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塚崎 公義

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塚崎 公義

1981年 東京大学法学部卒業、日本興業銀行(現みずほ銀行)入行
おもに経済調査関連業務に従事した後、2005年に退職し、久留米大学へ。
現在は久留米大学商学部教授であるが、当サイトへの寄稿は勤務先と関係なく個人として行なっているため、現職は経済評論家と表記したものである。
(近著)
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