本記事3つのポイント
- ソフトバンクの「Pepper(ペッパー)」が発売開始から3年が経過した。一時期は商業施設などに数多く設置されたが、最近ではその数は減少傾向にある
- 高い認知度を誇るペッパーだが、事業という観点では損失が膨らんでいる。17年3月末までの累計損失は300億円超
- 新たな戦略構築が今後求められる。他社製ロボットの連携や今後は「ポスト・ペッパー」の開発も期待される
先日、ある展示会でソフトバンクロボティクス㈱の人型ロボット「Pepper(ペッパー)」を見た。そのペッパーはブースの展示内容を説明していたのだが、個人的には「そういえば久しぶりにペッパーを見たな」と強く感じていた。
一時期、展示会に行くとペッパーでブースの内容をPRする企業が数多くあり、商業施設などにも多くのペッパーが設置されていたが、最近その数が減っており、ペッパーに関する発表案件も減っているように感じる。そこで本稿ではソフトバンクグループにおけるロボット事業の現状などついて少し考察してみたい。
2015年の発売から3年が経過
まずソフトバンクグループにおけるロボット事業の体制について簡単に説明しておくと、現在、持株会社としてソフトバンクロボティクスグループ㈱という会社があり、その傘下にソフトバンクロボティクスのほか、ソフトバンクロボティクスヨーロッパ、ソフトバンクロボティクスアメリカ、ソフトバンクロボティクスチャイナといった海外子会社、クラウドAI(人工知能)サービスを展開するcocoro SB㈱、独自のロボット制御システムを手がけるアスラテック㈱が名を連ねる。
中核会社であるソフトバンクロボティクスは、ソフトバンクグループにおけるロボット製品・サービスを提供する事業会社として2014年7月に設立された。ソフトバンクグループがロボット事業に参入したのは、小型ヒューマノイドロボット「NAO(ナオ)」を手がける仏アルデバランロボティクス社(現ソフトバンクロボティクスヨーロッパ)へ出資したのが始まりで、そのナオの技術をベースにした共同開発を経て14年6月に発表されたのがペッパーである。
ペッパーは発表から1年後の15年6月に一般販売が開始され、その発表会にはソフトバンクグループの孫正義社長に加え、アリババグループの馬雲(ジャック・マー)会長と鴻海精密工業の郭台銘(テリー・ゴウ)会長も登壇するという異例の豪華さであった。
事業面では損失を計上
自らの感情を持つ世界初の人型ロボットとして登場したペッパーは大きな注目を集め、初回販売分1000台は予約開始から1分で完売するほどであった。ペッパーには高いコミュニケーション能力をはじめとした様々な特徴があるが、発売から現在までの3年間で築き上げた「ペッパー」というブランドこそが最大の武器だといえる。
ペッパーは幅広い年齢層の人が知っており、近所の商業店舗などでペッパーの実物を見たことがある人も少なくない。「知っているロボットを挙げて下さい」と言われたら、多くの人がペッパーと答えることは想像がつく。
この「ロボット=ペッパー」というイメージは事業を展開するうえで大きなアドバンテージであり、これまでの製造現場などで使用されるロボットとは全く違う、新しい分野のロボットに先行して取り組んだことによる「成功ポイント」といえる。
しかし、ビジネスはブランド力だけでは意味がない。利益を上げて初めてそのブランド力が評価される。だが、ソフトバンクロボティクスの事業状況は決して順風満帆とはいえない。設立当初から研究開発費など先行投資がかさんだことなどで債務超過の状態が続き、17年3月末にはその額が314億2000万円に達し、累積損失の処理を実施した。
直近の17年度(18年3月期)においてもソフトバンクロボティクスは約11億円の純損失を計上。持株会社のソフトバンクロボティクスグループにおいては約144億円の純損失を計上しており、こういった数字面で見ると決して成功しているとはいえず、ペッパーを中心とした事業からの転換が求められている。
求められる次の戦略
ではどういった方向に向かうべきなのか。その方向性として1つ考えられるのが、ロボットキャリアとしての展開強化だ。これはソフトバンクグループの主力事業である携帯電話の通信事業のように、ソフトバンクロボティクスがロボットの商材を集め、製品販売や関連サービスを担当するという考え方だ。
すでにその布石となるような取り組みも進んでいる。例えば、米アルファベット社からソフトバンクグループが買収した米ボストン・ダイナミクス社とは、同社の4足歩行型ロボット「SpotMini(スポットミニ)」を活用した実証実験を進めており、19年夏以降に建設現場での巡回監視用途で実用化を目指している。
また、ソフトバンクグループが主導する大型投資ファンド「ソフトバンク・ビジョン・ファンド」から1億1400万ドルの出資を受けた米ブレイン・コーポレーションとも連携を強化している。ブレイン社は独自AIソフトウエア「Brain OS」を手がける企業で、既存の商用機器に同社のOSを組み込むことで、周辺環境を検知しながら自律移動できる知能ロボットへと進化させることができる。そしてソフトバンクロボティクスでは、Brain OSを搭載した洗浄機を清掃現場で利用できるサービス「AI 清掃PRO」の提供を8月から開始している。
もう1つ考えられる方向性はペッパーに続く新たな中核商品の開発、つまりは「ポスト・ペッパー」の創出だ。ソフトバンクロボティクスが持つブランド力、開発ノウハウ、販売ネットワークは業界随一であり、「ペッパーを開発したソフトバンクが新たなロボットを開発した」と発表すれば、再び大きな注目を集めることは間違いない。ただ、ペッパーの発売から3年が過ぎ、ブランド力も時間とともに小さくなっており、次なる手を打つために残されている時間はそれほど多くはない。
電子デバイス産業新聞 編集部 記者 浮島哲志
まとめにかえて
人型ロボットの事業性・収益性については意見が分かれるところです。記事にもあるとおり、短期的な視点では赤字を余儀なくされていますが、「ペッパー」というブランド力は全国区といっても過言ではなく、ソフトバンクグループにおけるロボット事業を認知するうえで、絶大な効果を果たしたといってよいでしょう。ソフトバンクもハードの売り切りで利益を出そうとは考えているわけではなく、グループ全体での様々な事業を通じた相乗効果が期待されるところです。
電子デバイス産業新聞