山口県の周防大島町で行方不明になっていた2歳の男の子・藤本理稀(よしき)ちゃんが、8月15日午前6時半ごろに発見されました。8月12日に行方不明となってから、3日ぶりの発見となりましたが、幸い、健康状態に問題はないそうです。

理稀ちゃんを発見したのは、大分県からボランティアで駆けつけた尾畠(おばた)春夫さん。尾畠さんは、14日に現地に到着し、理稀ちゃんの家族に自分が見つける決意を伝えたといいます。そして、15日午前6時ごろから単身、裏山に入り、30分ほどで沢沿いに座っていた理稀ちゃんを発見しました。

これまで警察と消防の約140人態勢で捜索が行われたのにもかかわらず発見できなかった理稀ちゃんを、ボランティアの尾畠さんはなぜ短時間で発見することができたのでしょうか。

過去の捜索経験から、子どもの習性を推測

捜索のポイントを決めた理由について、尾畠さんは「昨日、家族と話し、別れた場所を聞いて、子どもの習性として絶対にこの道を上がっていると思った」と答えています。

現在78歳の尾畠さんは、2年前に大分県佐伯市で2歳の女児が行方不明になった際も捜索に加わっていました。このとき、行方不明になった女児は、警察などの捜索区域外の山道を登って、崖の下で発見されました。女児を発見したのは、別のボランティアの男性でしたが、尾畠さんはそのときのことを覚えていたそうです。

「奇跡の救助」の裏には、長年の積み重ね

今回、「捜索開始からわずか30分で理稀ちゃんを発見できた」という報道を耳にすると、「自分でも捜索の役に立てるかもしれない!」「尾畠さんのようにボランティアとして活躍したい!」と考える人がいるかもしれません。たしかに、今回の捜索では、開始から30分ほどで幼い命を救うことができました。しかし、尾畠さんは、これまでに20年以上もの間、災害の被災地や山などでボランティアに取り組み、さまざまな経験を積んできたのです。

尾畠さんは、大分県別府市の鮮魚店に勤務していた40歳のころに、登山を始め、北アルプスや富士山に登っていたそうです。1993年ごろからは、「何度も登らせてもらった山への恩返し」と、地元・大分県にある由布岳の登山道の整備をボランティアで始めました。2010年に朝日新聞の取材を受けた際は、月に7、8回、30~40キロの材料をかついで登っては崩れかかった路肩を直したり、階段を整えたり、案内板を設置したりしていたと答えていました。

若者たちから「師匠」と慕われていた

また、尾畠さんは、東日本大震災の際、がれきの中から被災者が大切にしている物を拾い集める「思い出探し隊」の隊長を務めています。2004年の新潟県中越地震の被災地でもボランティア活動をした経験を生かし、数日おきに交代してしまうボランティアのリーダーたちへの助言役も担ったそうです。

自炊に徹するため、コメ30キロ、水30リットル、ガスボンベ10本を持ち込み、マイカーに寝泊まりしながら、若いボランティアと一緒に泥まみれで、がれきを掘り起こしました。こうしたボランティアに対する姿勢を受け、若者たちからは「師匠」と慕われていたそうです。

ネットでも「素晴らしい!」「本当にかっこいいのはこういう人」「同じ78歳でも日本ボクシング連盟の山根前会長とは大違いだわ」などと絶賛されています。一方で、今回の件でいまマスコミから出演依頼が殺到していることで「そういうふうに祭り上げると、これから活動しにくくなるだろ」「そっとしてあげて」「こういうところこそ忖度しろよ」などの意見もあります。

ボランティア活動10ヵ条

ただ、「尾畠さんのように、人の役に立ちたい!」と考えて、いきなり捜索現場や被災地に向っても、何も知らないままでは、かえって迷惑をかけてしまうことがあります。

実際に特にここ数年、今年7月の豪雨など大きな災害があるたびに、「個人が被災地に支援物資を送るのは実はかえって迷惑」ということを被災自治体やボランティア活動のスペシャリストが繰り返し指摘しているように、こうした活動は「知識がないばかりに善意がアダになってしまう」という場合もあるのです。

このような残念なことにならないための初歩の心得として、ここでは、千葉市ボランティアセンターによる、「ボランティア活動10カ条」を抜粋して紹介します(ところどころ、大事なところはその主旨についても抜粋しています)。

第1条 できることから始めよう!

第2条 相手の立場に立って考え、行動しよう!

第3条 無理をせずゆっくりはじめよう!そして長く続けよう!

第4条 約束は必ず守ろう!
訪問日時や援助内容は言うに及ばず、ささいな会話の中での約束ごとは小さなことでも必ず守ることが大切です。

第5条 活動にけじめをつけよう!
訪問日時や援助内容は言うに及ばず、ささいな会話の中での約束ごとは小さな活動できる時間や場所、能力などには限界があります。自分の能力を知り、可能な範囲で目的に合わせて活動するよう、けじめをつけることが大切です。

第6条 活動を点検し、振り返ろう!

第7条 活動を通して学ぼう!

第8条 安全にも配慮しよう!

第9条 家族や周囲の理解を得よう!

第10条 秘密を守ろう!
訪問日時や援助内容は言うに及ばず、ささいな会話の中での約束ごとは小さなボランティア活動は人と人との結びつき、助け合いを基調とするため、どうしても相手のことをよく知っておく必要があり、また、活動の中でいろいろ知り得る事柄も増えていきます。しかし、これらのことはあくまで活動を円滑に進めていくために、ボランティアを信頼して打ち明けられたり、教えられたりしたもので、決して他言してはいけません。

「恩返し」のボランティア活動

尾畠さんは、65歳で仕事を辞め、ボランティアを本格的に始めた際、「みなさんにお世話になったから、社会にお返しをさせてもらおう」と考えたそうです。「助けてあげよう」という上から目線ではなく、「お返しをしよう」という恩返しの視点を持っていたからこそ、尾畠さんは長年にわたってボランティア活動を続けることができたのかもしれません。

尾畠さんの活躍を知って、「人の役に立ちたい!」「ボランティア活動をしたい!」と感じた方も多いと思いますが、まずはこれまで自分がお世話になった身近な人に恩返しをしていくことから始めるのが良いのかもしれませんね。

クロスメディア・パブリッシング