「福島の復興なくして日本の復興なし」を合言葉に、様々な運動が繰り広げられているが、とりわけ目を引くのは福島イノベーション・コースト構想である。これは安倍政権が打ち出した骨太の方針である「ロボット新戦略」をベースにしたものであり、この構想の目玉ともいうべきものが世界初かつ最大規模のロボットテストフィールドだ。何と建設地は一番被害の大きかった南相馬市および浪江町の50万㎡という、ある種仰天のプロジェクトである。

世界が目を見張るような取り組みを福島で

 「特に被害の甚大なところの産業復興のためには、従前の事業の再開にとどまらないことをする必要がある。つまり、世界が目を見張るような取り組みこそが求められている。ロボット、エネルギー、リサイクルなど最先端の産業を集積していく核づくりがテークオフした。とりわけ、福島ロボットテストフィールドは全世界に発信するプロジェクトとしてはインパクトのあるものであり、この7月に一部施設が開所し、2019年度末には全施設が立ち上がっていく」

 こう述べるのは福島県企画調整部で福島イノベーション・コースト構想推進室の室長を務める安藤靖雄氏だ。安藤氏によれば、物流・インフラ点検、大規模災害などに活用が期待されるロボットおよびドローンの研究開発、実証試験、性能評価、操縦訓練を行うことができる一大研究開発拠点が、東日本大震災において甚大な被害を受けた南相馬市および浪江町の約50万㎡の土地に建設されるのだという。これは無人航空機エリア、水中・水上ロボットエリア、開発基盤エリア、インフラ点検・災害対応エリアで構成される施設内容となっている。

福島ロボットテストフィールドの概要図


 ロボット産業はいわば日本のお家芸であり、現状において世界シェアの50%以上を握っていると推定される。世界チャンピオンは北九州市の安川電機であり、ファナック、デンソー、不二越、ヤマハ発動機、日本電産、ダイヘン、ローツェなどが大活躍している。半導体工場のウエハー搬送ロボットでは、世界シェアの約55%を握るといわれる川崎重工業が神戸で新工場を立ち上げた。ファナックは茨城で600億円以上を投じる新工場を整備しており、その後別の用地に大型工場を建設するプランを煮詰めている。不二越もまた富山県内での用地取得を検討するなど、設備投資計画は大型化する一方である。

 ロボット向けの精密減速機についても日本勢はめちゃめちゃに強い。ナブテスコは2020年までに国内外合わせての生産能力を年産100万台(現在は同63万台)にすることを計画している。住友重機械工業も生産能力を現状に比べて1.5倍以上に引き上げる。ハーモニック・ドライブ・システムズもまた生産能力を2割以上引き上げている。

国のロボット育成施策にも対応

 「国の政策においてもロボット産業を大きく育成する案があり、4兆~5兆円の新たなマーケットを切り開くことが想定されている。福島はこうした国の施策に対応し、このロボットテストフィールド立ち上げに全力投球していく。ちなみにその隣接には、大規模水素製造拠点が立ち上がることになっている。これを2020年の東京オリンピック・パラリンピックの際に活用することを目指している」(安藤氏)

 ちなみに東京オリンピックが開催される2020年には、高度なロボット技術を国内外から集積させて、各課題に挑戦するロボット国際大会が福島県と愛知県で開催されることになっている。インフラ・災害対応分野の一部の競技については、福島ロボットテストフィールドで実施される。東日本大震災という未曽有の苦しみを乗り越えて、福島県はそれこそ「ロボット産業世界一のニッポン」に命を懸けているのだ。

産業タイムズ社 社長 泉谷 渉