リーンキャンバスとは?基礎知識とビジネスモデルキャンバスとの違いなどを解説

はじめに

事業やプロジェクトの設計図ともいえる事業計画書。新しい事業やプロジェクトを開始するときには、必ず必要となる事業計画書ですが、「どのように作ったらよいのか」「どのように作るべきか」という点で、お悩みの方も多いのではないでしょうか。

そんな方におすすめしたいのが、リーンキャンバス。短期間で効率的に事業計画を立てることができる画期的なツールです。

目次

1. 一枚の紙に収まるリーンキャンバスとは
2. リーンキャンバスの誕生と歴史
3. リーンキャンバスのメリットと魅力
4. リーンキャンバスに欠かせない9つの要素とは
5. リーンキャンバスとビジネスモデルキャンバスの違いと特徴
6. リーンキャンバスの失敗例とその原因
7. リーンキャンバスを賢く上手に活用するには

1. 一枚の紙に収まるリーンキャンバスとは

リーンキャンバスとは、アメリカで誕生したビジネスモデルの企画のためのツールで、ビジネスモデルを一枚図にまとめるという手法が特徴的とされています。日本でも、ビジネスモデルを考案するときの便利なツールとして、よく用いられています。

リーンキャンバスの作成にあたり、必要な項目は「課題」「顧客セグメント」「独自の価値提案」「ソリューション」「チャネル」「収益の流れ」「コスト構造」「主要指標」「圧倒的な優位性」といった9つ。これらの項目を一定のルールに従って、1枚の紙に配置し、それらを埋めることで、ビジネスモデルを簡単に完成させることができるという仕組みになっています。使用する紙は大きなサイズのものである必要はなく、A4用紙程度の小さなサイズにもまとめることができますので、投資家へのピッチやプロジェクト内での計画の共有、社内ベンチャーの提案資料としても活用されています。

リーンキャンバスを作成することで、企業は、わざわざ商品やサービスを試験的に市場に投入して顧客のニーズを確認し、試行錯誤を重ねて改善をしていくというということをしなくても、それがビジネスモデルとして成立するかどうかを、机上で検証、確認することができます。

予算や時間、サポートやメンバーのモチベーションなど、様々な制約がある中、ひとつひとつのアイデアに、何度も仮説を立てて実験をしている時間はありません。ひとつのアイデアが生まれたら、リーンキャンバスを作って検証し、ブラッシュアップするという作業を繰り返す、というのがリーンキャンバスを使ったビジネスモデル作成の手法なのです。

2. リーンキャンバスの誕生と歴史

リーンキャンバスは新規の事業の立ち上げなどで使われる手法ですが、元々はアメリカの起業家でもあるエリック·リース氏が実践の中で考えた経営戦略のコンセプトのビジネスモデルキャンバスが原型です。2008年に発表された「ビジネスモデルジェネレーション」という本の中で提唱されたビジネスモデルキャンバスがリーンキャンバスに応用されているのです。

エリック氏の著書はリーンスタートアップのマネジメント手法を現場で活用することを目的としており、成功率を上げたい起業家に向けた実践ガイドとなっています。ここでエリック氏は、スタートアップを作るときに必要な知識や実践で培った手法を詳しく解説しています。

リーンキャンバスは、ITベンチャー起業家のアッシュ·マウリヤ氏がウェブ系のスタートアップに向けて、この考え方をカスタマイズしたのがきっかけで、2010年に誕生しました。アッシュ氏はUSERcycleの創業者で、5つの製品と1つのピアツーウェブアプリケーションフレームワークを世に送り出しています。

リーンキャンバスは2010年に発表されたアッシュ氏の著書である「Running Lean」にやり方や考え方が掲載されています。本のタイトルはリソースを使い切る前に以前のプランから上手くいくと思われるプランに反復的に移行していく体系的なプロセスを表しており、課題に対する最適な解決策を見つけ、製品などに応用していくための手順が説明されています。

3. リーンキャンバスのメリットと魅力

リーンキャンバスの最大のメリットは、ビジネスモデルの考案のスピードを格段にアップさせることができる点にあります。

従来のビジネスモデルの作成では、数日から数週間の時間が必要とされましたが、リーンキャンバスは、あらかじめ決められている項目さえ埋めれば完成しますから、ビジネスの領域や解決したい課題領域が一目で分かる上、数時間、遅くても一日あれば作成することができます。このため、ビジネスモデル作成を楽に、かつ効率的に進めることができるようになります。

また、紙1枚で完結することで、以下のようなメリットも生まれます。

  • ひとつの表に重要な要素がすべて詰まっているので、新規事業の提案や業務の改善案の提示といった少々複雑な内容であっても、それを提示された相手が一目でポイントを押さえることができる。
  • プレゼンなどにおいて、図にまとめられた書類を1枚渡すだけですむため、説明がしやすく、考えを共有しやすい。
  • 会議やミーティングにおいて、今どの項目を話し合っているのかが示しやすく、話し合いの場で混乱が起きるのを避けることができる。
  • 書き換える場所が少ないので、情報の更新をこまめに行うことができる。(最新の状態を保ちやすい。)

リーンキャンバスは、要点だけを簡潔にまとめているので、本質が見えやすく、問題点や解決策を生み出すきっかけになります。このため、事業を始める上で出てきたアイデアをビジネスモデルとして固めていく上で、とても役に立ちます。また、リーンキャンバスによって、日々生まれるアイデアの要・不要がすぐに判断できますから、より簡潔なビジネスモデルを作ることも可能となるのです。

4. リーンキャンバスに欠かせない9つの要素とは

リーンキャンバスでビジネスモデルを完成させる為には、以下の9つの項目を埋める必要があります。

4-1. 課題

ターゲットとする事業領域が抱えている課題を、原因も含めてピックアップします。複数の課題が思いつきますが、書き込むのは上位3つまで。このため、どれが本当に重要な課題なのかを見極める必要があります。また、その課題に対して、現在一般的に行われている対応策などもあわせてピックアップしておくことが理想的です。

4-2. 顧客セグメント

ピックアップした課題について、解決を必要としている顧客像を設定します。「男性or女性」「●●歳代の人」など、ざっくりとしたくくりではなく、できるだけ、「●●歳代男性で、●●を必要としている人」といった具合に、詳細な設定を行うことがポイントです。これにより、企画しようとしているビジネスの領域がクリアになります。

4-3. 独自の価値提案

これから提案しようとしているサービスにどのような独自性があるのかを、顧客に対するメッセージとして記述します。差別化要因と注目に値する価値を、なるべくシンプルかつ分かりやすくまとめることがポイントです。なお、この要素は、9つの要素の中で最も重要な部分ともいえます。

4-4. ソリューション

ピックアップした課題を解決するために、今回提案したい内容を記述します。いくつも思いつきますが、記述するのは、課題と同じく上位3つまで。ただ、事業やプロジェクトを進めるにつれ、課題も解決策も状況によって変わる可能性があるため、最初はラフスケッチ程度にまとめるのがポイントです。

4-5. チャネル

顧客に対して、どのように提案したいサービスを紹介していくかを決めます。複数の方法や手段を考えておくと、様々な方向から、顧客へのアプローチをすることができます。

4-6. 収益の流れ

課題に対して提案した新たな対応策(サービス)を、どのように収益に変えていくつもりかを記述します。提案するものが、形を持った商品であれば、単純に商品単価の設定となりますが、形を持たないサービスであれば、誰から、どのように、収益を得るのかといった点を、具体的に考えておく必要があります。顧客生涯価値やコスト構造の面からも詳細に検討しましょう。

4-7. コスト構造

ビジネスに掛かるコスト、すなわち課題に対して提案した新たな対応策(サービス)を顧客に提供するために必要なコストを計算します。ただ、計画の段階で、あまり細かい数字を出すのは難しいですから、ここはざっくりとした数字でも構いません。

4-8. 主要指標

事業のKPI(重要業績事業指標:最終的な目的を達成するために必要な中間目標)を設定します。ここで間違ったKPIを設定してしまうと、最終的な目的への達成が難しくなりますので、慎重に行う必要があります。

4-9. 圧倒的な優位性

課題に対して提案した新たな対応策(サービス)に対し、他社が真似できない優位性を設定しましょう。他社が参入出来ない要素を盛り込むことがポイントです。

5. リーンキャンバスとビジネスモデルキャンバスの違いと特徴

リーンキャンバスの歴史を説明する際に、「リーンキャンバスの原型はビジネスモデルキャンバスである。」というお話をしました。それでは、ビジネスモデルキャンバスとはどういうものかという点についてみてみることにしましょう。

ビジネスモデルキャンバスとは、ビジネスモデルを「顧客セグメント(CS)」「顧客との関係(CR)」「チャネル(CH)」「提供価値(VP)」「キーアクティビティ(KA)」「キーリソース(KR)」「キーパートナー(KP)」「コスト構造(CS)」「収入の流れ(RS)」の9つに分け、それらが互いにどう関連しているのかを1枚の紙に図示したものになります。ビジネスモデル全体を視覚的に把握できるため、多くの企業や組織において、積極的に活用されているツールでもあります。

9つの要素を1枚の用紙にまとめるという点で、リーンキャンバスとビジネスモデルキャンバスは共通していますが、前者は仮説を立てて埋めていく項目で構成されているのに対し、後者は相互の関連性から埋めていく項目で構成されているという違いがあります。このため、リーンキャンバスは、事業の立ち上げやプロジェクトの開始(スタートアップ)においてビジネスモデルを検証するのに役立ち、ビジネスモデルキャンバスはある程度の利益をもたらしたビジネスにおいて、事業の継続を目的としたビジネスモデルのメンテナンスに役立つという特徴を持っているといえます。

6. リーンキャンバスの失敗例とその原因

リーンキャンバスを使うと、何もかもがうまくいくといわけではありません。中には、失敗をすることもあります。

リーンキャンバスの失敗例としてよく見られるのが、リーンキャンバスに依存しているケースです。リーンキャンバスは内容が分かりやすい反面、必要な9つの項目には含まれない「リスク」を見落としやすいという欠点があります。つまり、項目を埋める過程で課題と共にリスクも一緒にピックアップされていればいいのですが、その時に思いつかなかったリスクは、リーンキャンバスに反映されることがないのです。このため、リーンキャンバス上の項目だけをみて事業をすすめてしまうと、思わぬリスクに足を取られるということが起こりやすくなるわけです。

リーンキャンバスを作成する上で、不確実な項目がある場合は、関連して起こりうるリスクも同時にピックアップしておくことをおすすめします。その上で、リスクが高いと考えられる順に検証を重ねるというステップを踏むようにするが、多くのリスクを回避することにつながります。

また、ビジネスモデルには、リーンキャンバスに向いているものと向いていないものがあります。例えば、需要の有無が明らかな商品やサービスについては、市場調査や検証といったステップは不要ですが、このようなケースにリーンキャンバスを無理矢理当てはめて活用しようとして失敗した、というケースもちらほら聞かれます。

リーンキャンバスはアイデアを生み出すものではなく、思い付いたアイデアを膨らませるアイテムです。書き上げて、その通りに実行すれば、誰でもイノベーションを起こすことができるというような魔法のツールではありませんので、リーンキャンバスの作成に当たっては、見えないリスクも含めて、しっかりと考えながら、取り組んでいく必要があるといえるでしょう。

7. リーンキャンバスを賢く上手に活用するには

リーンキャンバスを賢く上手に活用するには、リーンキャンバスの役割や本質をきちんと理解することが必要です。

リーンキャンバスは、事業やプロジェクトのスタートアップのためのツールです。事業の継続や増益を目的としたビジネスモデルの見直しには向いていませんので、その際は、ビジネスモデルキャンバスをはじめとした、他のビジネスフレームワークの使用を検討することをおすすめします。また、リーンキャンバス以外にも良い方法やテンプレートがあればそちらも試してみましょう。自分にとってやりやすい方法を採用するのが一番です。

なお、リーンキャンバスの活用においては、リーンキャンバスを書きあげることを目的としてしまってはいけません。ビジネスモデルによっては、9つの項目を全て埋めるのは難しいことがありますが、項目によっては空白でも構いません。というのも、リーンキャンバスは短期間でビジネスモデルを作成することができるツールですが、短期間で完成させなくてはいけないというものではないからです。全ての項目が埋まらない場合は、あとから埋められる部分だけを少しずつ書き足していきましょう。間違っていると思ったら、一から書き直しても構いません。

リーンキャンバスは、何度か書いていくうちに慣れてくるものです。初めて作成するときには、多少時間がかかりますが、アイデアを思い付いたら、とりあえずリーンキャンバスに情報を落とす、という作業を繰り返してみましょう。そして、手早くまとめることができるようになったところで、実際のビジネスに応用していくのが、リーンキャンバスを上手に使いこなすコツといえるかもしれません。

おわりに

何か事業を始めよう、プロジェクトを立ち上げようとしたときに、それをいきなり事業計画書という形にまとめあげるのは難しいものです。まずはリーンキャンバスにアイデアを移して、ビジネスプランをまとめてみましょう。そして、リーンキャンバスの作成にあたっては、自分自身での客観的な分析だけではなく、必要に応じて、第三者にチェックをしてもらうことも大切です。リーンキャンバスを通してビジネスの課題だけでなく、さまざまなメリットやデメリット、気づきが見えてくるのではないでしょうか。

LIMO編集部

参考記事

LIMO編集部

LIMO編集部は、個人投資家向け金融経済メディアであるLongine(ロンジン)の執筆者である国内外大手証券会社で証券アナリストや運用会社のファンドマネージャーとして長年の調査や運用経験を持つメンバーやビジネス系インターネットメディアでの運営経験者等を中心に構成されています。国内のみならずグローバルの視点から、金融・経済ニュースや投資に関する知識・アイデア、ビジネスパーソンの役に立つ情報ををわかりやすくお届けします。