コンビニの年齢確認は誰のため? 高齢者が酒を買っても確認される理由を考えてみた

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コンビニが高齢者に年齢確認するのは、クレーム客対策だろうと久留米大学商学部の塚崎公義教授は推測します。

一見ばかばかしい年齢確認をするのはなぜか

46歳の男性がコンビニで酒を買おうとして年齢確認を求められ、トラブルを起こしたと報じられています。「20歳以上です」というタッチパネルを押せと言われて立腹し、パネルを壊したそうです 。パネルを壊すのは悪いことですが、イラッときた経験を持つ人は少なくないでしょう。

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コンビニは高齢者に対しても同様のパネルタッチを要求しているようですが、なぜなのでしょうか。コンビニの経営者になったつもりで考えてみましょう。重要なのは、「警察に怒られず、かつコンビニ自身と従業員をクレームから守るための保身」です。

まず、一切の確認をせずに酒を売れば、警察に怒られるでしょうから、その選択肢は避けましょう。一方で、客の全員に身分証明書を提出させる選択肢は避けたいです。従業員の手間がかかってコストが高くなるのみならず、客からも面倒だというクレームがくるでしょうから。

「未成年かもしれない客には身分証明書の提示を求める」ということも、実際には容易ではありません。理由は後述します。そこで、「未成年かもしれない客には身分証明書の提示を求める場合があります」とアナウンスだけします。そうすれば、気が小さい未成年者は諦めて帰るでしょう。しかし、多くの未成年者は気にせず購入するでしょう。それでは警察が納得しそうにありません。

では、「私は20歳以上です」というパネルにタッチさせるのはどうでしょう? これも嘘をつく未成年はいるでしょうが、心理的な抵抗があるので、減るでしょうね。なんといっても、黙っているのではなく、積極的に嘘をつくわけですから、バレた時の罰が重くなりそうです。

というわけで、コンビニとしては客に「場合によっては身分証明書を拝見しますよ」という脅しをかけた上で「私は20歳以上です」というパネルにタッチさせることで、警察の意向に添えるでしょう。

明らかに高齢の常連客でも確認は必要か

では、本題に入りましょう。なぜ、高齢者にまでタッチを要求するのでしょう。それを考える際に役にたつのは、「相手の立場に立って考える」ということです。道徳の先生のように「相手の痛みを想像する」のではなく、「相手がクレームをしたくなる状況を避ける」わけです。

以下では、「人間は何歳であっても若く見られたいものだ」という前提で考えていきましょう。同じ年齢の2人で入店して、どちらかが若く見られたら、若者2人であっても高齢者2人であっても、若く見られなかった方は不愉快になる場合が多いでしょうから。

まず、「未成年かもしれない客だけタッチさせる」というマニュアルを作ったとします。店員は悩むでしょうね。店員ごとに異なる対応をするでしょうが、それ以上に問題なのは、「未成年かもしれない客とそうでない客が入店し、片方だけに年齢確認を求めたけれども、実は2人は23歳で同級生だった」という場合ですね。

年齢確認を求められなかった方は激怒するかもしれませんね。タッチパネルを壊されることはないとしても、「名誉毀損で訴える」などと店頭で騒がれたら大変です。普通なら、その程度のことでは騒がないでしょうが、なんといってもクレーム客は普通ではありませんから(笑)。

では、「30歳以下に見える客だけにタッチさせる」ならばどうでしょうか。同じことですね。片方にだけタッチを要求したあとで、2人が29歳の同級生だったことが判明した場合、クレームされかねません。「40歳以下」でも「65歳以下」でも、まったく状況は変わりません。つまり、どこかの年齢でタッチを免除することができないので、高齢者にもタッチを要求することになるのです。

上で「未成年かもしれない客には身分証明書の提示を求める」ということも、実際には容易ではないと記しましたが、同様の理由です。

では、常連客の場合はどうでしょうか。これも、線引きが難しいですね。毎日10回来店して酒を買う客なら、店員全員が覚えているでしょうからパネルタッチを免除しても良さそうですが、週に1回来る客はどうでしょうか。月に1回ならどうでしょうか。

そもそも、店員は客を覚えている義務があるのでしょうか。店員はレジを正確に打つことに集中していて客のことなど気にしていないかもしれません。それに対して「次回私が来店して酒を買う時まで、私のことを覚えておきなさい」というのは過剰な要求かもしれません。高級宝石店の馴染み客ならいざ知らずですが(笑)。

それでもクレーム客はクレームしそうですね。それなら、常連客にもタッチパネルを要求した方が安全ですね。

クレーム客が基準になっている!?

もっとも、年齢確認については店により対応が様々です。コンビニが警察の意向を忖度しすぎている可能性は否定できません。加えて、客からのクレームを気にしすぎているのかもしれません。逆に言うと、コンビニにとって、クレーム客というのが非常に困った存在だ、ということなのかも知れません。

もしかすると、私たち一般消費者もクレーム客の被害者なのかもしれません。クレーム客がいるから全員がコンビニから年齢確認を要求される、というわけですね。まあ、年齢確認のボタンを押すだけですから、目くじらをたてる程の被害ではありませんが(笑)。

それに比べるとコンビニは本当に大変そうです。クレーム客を気にしすぎて全員にタッチを要求したら、こんどはタッチしたくないクレーム客からクレームされた、というのが今回の事件ですね。前門の虎、後門の狼、といった感じでしょうか。お疲れさまです。

なお、本稿は厳密性よりも理解しやすさを重視しているため、細部が事実と異なる可能性があります。ご了承ください。

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塚崎 公義

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塚崎 公義

1981年 東京大学法学部卒業、日本興業銀行(現みずほ銀行)入行
おもに経済調査関連業務に従事した後、2005年に退職し、久留米大学へ。
現在は久留米大学商学部教授であるが、当サイトへの寄稿は勤務先と関係なく個人として行なっているため、現職は経済評論家と表記したものである。
(近著)
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