台湾の鴻海精密工業(フォックスコン)が、「打倒サムスン」を掲げるテレビ事業で新たな手を打ち始めている。このほど傘下の液晶パネルメーカー、イノラックス(群創光電)と共同で、米国のテレビメーカーVIZIO(ビジオ)に総額約7000万ドルを出資すると発表した。

 一方、テレビ用液晶パネルの生産では、米国に建設する予定だった10.5世代(10.5G=2940×3370mm)工場の計画を見直す方向に動いている。中国の液晶パネルメーカーが10.5G工場の建設で供給能力の拡大を強力に推し進めており、今後は液晶パネルの供給が過剰になると懸念されるなか、テレビのシェア拡大に向けてグループ総出で競争力を強化しようとしている。

ビジオ出資で米国市場を再強化

 鴻海はこのほど、子会社のAFEを通じて約2500万ドルを出資しビジオの株式約3.1%を、イノラックスは約4500万ドルを出資して株式の4.14%をそれぞれ取得する。これにより、鴻海グループが保有するビジオの株式は既得分を含めて約14%に増加し、第2位の株主になるという。

 鴻海傘下のシャープは、経営が悪化していた2015年に中国テレビ大手のハイセンスに米国でのシャープブランドの使用権などを売却したが、鴻海傘下に入って業績が回復するとハイセンスに買い戻しを要求。だが、ハイセンスはこれを拒否し、これを受けてシャープはハイセンスへのテレビ用液晶パネルの供給を大幅に削減(このとき同時にシャープはサムスンへのパネル供給も中止)したり、品質問題でハイセンスを提訴するなどしたが、拒否されたままでいる。ビジオへの出資は、鴻海グループが米国市場戦略を練り直したとも受け取れる。

イノラックスはテレビ生産で恩恵

 一方、イノラックスにとってビジオへの出資は、17年に開始したテレビ事業の強化につながる。イノラックスは、他のパネルメーカーと事業の差別化を図るためテレビセットのOEM組立ビジネスを立ち上げ、17年4~6月期から出荷を始めた。

 17年7~9月期の決算カンファレンスで、テレビの一貫生産事業について「他社からも受注を獲得し、18年1~3月期中には10万台、18年末には40万~50万台を狙う」とコメントしていたが、当時の顧客はシャープ1社だったとみられ、シャープがブランド使用権を失った米国市場を強化する策が必要だった。今回の出資でビジオ向けの生産が受託できるとみられ、イノラックスは早期に年間100万台以上を生産できるような体制へ事業を強化していく。

広州10.5G新工場の稼働にもプラス作用

 生産面では、鴻海が中国・広州市で建設を進めている10.5G新工場にプラスに作用する。10.5G工場は、鴻海に限らず、BOEやCSOTといった中国の液晶パネル工場も建設を進めており、こうしたことから今後、テレビ用液晶パネルの供給が過剰になると懸念されているが、出資によって鴻海はテレビ用パネルの顧客としてビジオを確保できたことになる。広州10.5G工場は早ければ18年末に完工し、19年初頭から量産開始予定だ。

 一方、広州に続いて、米ウィスコンシン州に建設を予定している10.5G工場については戦略を見直す公算が大きくなった。BOEが安徽省合肥市に続いて武漢市に、CSOTが深セン市に「T6」に続いて「T7」と、相次いで10.5G工場の建設を決めたことを受け、米国で液晶パネルを生産するのはコストが合わないと判断しているようだ。

 調査会社IHS Markitの調べによると、65インチパネルを製造した場合のコストは、中国に比べて米国が5割も高くなるという。米国に液晶用部材のサプライチェーンがないためだ。

米国はテレビ組立工場に変更へ

 このため鴻海は、ウィスコンシン州には10.5G工場を建てるのではなく、まずはテレビの組立工場を建設する可能性が高くなっている。米国市場向けにビジオをはじめとするテレビブランドから組立を受託することが可能で、州と結んでいる現地人の雇用確保に関する約束も守ることができる。

 これと並行して、日本から6Gあるいは8Gの液晶パネル製造ラインを米国に移設し、車載用液晶パネルを現地製造する可能性も浮上している。ウィスコンシンは自動車の街デトロイトに近く、車載用パネルの需要があるため、中国メーカーとのコスト競争が避けられないテレビ用パネルを製造するよりも理に適っているからだ。

(津村明宏)

電子デバイス産業新聞 編集長 津村 明宏