2. 遺族年金の問題点と現行制度
遺族年金の問題点は、遺族厚生年金において男女による受給要件の差が発生していることです。受給要件の差とは、具体的には以下のことを指します。
- 夫を亡くした妻は30歳未満であれば5年間の給付、30歳以上であれば終身の給付を受けられる。また、夫を亡くしたときに40歳〜65歳未満の場合に子がいない場合は、中高齢寡婦加算が支給される。
- 妻を亡くした夫は就労して生計を立てられることから、子のない夫は55歳になるまで受給権を得られない。また、中高齢寡婦加算に該当する制度も存在しない。
現行の制度は、夫と妻とで給付タイミングが大きく異なります。夫を亡くした妻の遺族厚生年金は5年間の有期給付か終身給付で、要件に合致すれば受給できます。一方、子どものいない夫は要件を満たしても55歳にならないと受給権を得られません。さらに、実際の受給は60歳以降となるため、受給できる最短のタイミングは老齢年金とほぼ変わりません。男性のほうが、遺族年金を受給できる時期がはるかに遅いのです。
また、妻が夫を亡くした時点で40〜65歳未満の場合は、中高齢寡婦加算が支給されます。しかし、夫には受給権が発生しないため中高齢寡婦加算のような加算額の支給がありません。加算の有無により、支給額も男女によって大きな差が生まれやすいのが現状です。
この中高齢寡婦加算は、男女の公平性に乏しい制度で、廃止も検討されています。中高齢寡婦加算については、次章でより詳しく解説します。
3. 中高齢寡婦加算も廃止が検討される
中高齢寡婦加算は、夫が亡くなったときに妻が40〜65歳の場合に、遺族厚生年金に上乗せされる年金です。これは妻にのみ加算される制度で、妻を亡くした夫が40〜65歳であっても加算されません。制度が公平性に欠けることから、中高齢寡婦加算については廃止が検討されています。
遺族年金の制定時は、夫が働き妻が家庭に入るといった世帯が一般的でした。そのため、妻が亡くなっても夫自身が働いて収入を得られれば、生活に困ることはありません。
しかし、時代は変わり、共働き世帯や男性が家庭に入る世帯が増えてきました。「女性の就業環境が整ってきたにもかかわらず、中高齢寡婦加算は女性限定」「寡夫への加算はない」といった制度の課題が目立つようになってきたのです。
とはいえ、急な制度廃止は激変的な措置となるため、政府は段階的な廃止を検討しています。すでに中高齢寡婦加算を受給している人たちの取り扱いなども含め、十分な時間をかけた経過措置が必要となるでしょう。