もうひとつの変化が、家庭の中でパワーを持つ、専業主婦の妻に対する恨み節の句が消えたことです。

過去のグランプリには以下のような句がありました。

<昼食は 妻がセレブで 俺セルフ>(第19回 グランプリ)

<わが家では 子供ポケモン パパノケモン>(第11回 グランプリ)

<いい家内 10年経ったら おっ家内>(第6回 グランプリ)

<まだ寝てる 帰ってみれば もう寝てる>(第5回 グランプリ)

短い文字数から想像するに、会社で管理職に就き、朝早くから夜遅くまで働く夫が、家庭では専業主婦の妻に冷たくあしらわれる自虐的な気持ちを抱えている様子が伝わってきます。

とはいえ、こうした専業主婦の妻に関する句もまた、今年の100句からは消えています。共働き家庭の増加により、過去のような句が、普遍的な笑いの対象ではなくなったと推測できます。

また、主に母親が育児と家事を担う「ワンオペ育児」や孤独な「カプセル育児」が問題となる今、「家にいて、ラクでいいよな」という夫の思いが透けて見える句は、女性側から激しい抵抗が起こる可能性もあります。

今年の100句の中には、家事をやろうと試みて、ダメ出しをされながらも、だまって「妻ファースト」を貫く男性の声がチラホラと混じっています。

家庭を顧みずに働くことが夫の使命で、家庭を守ることが妻の使命という社会の共通認識が薄れ、様々な家族の形がある今、川柳を通じて「普遍的な笑いのツボ」を探し出し、「誰も傷つけない笑い」を実現するのが、今後のトレンドとなっていくのではないでしょうか。

【参考】第31回サラリーマン川柳(第一生命)

北川 和子