6月の米連邦公開市場委員会(FOMC)で2018年中の利上げ回数の見通しがこれまでの3回から4回に引き上げられたことで、景気や株価の見通しに不透明感が増し、マーケットが気迷いムードとなっています。

今回は6月FOMCでのポイントを整理し、米景気への影響を探ります。

インフレの予想外の加速で利上げを前倒しへ

米中貿易戦争が激化していることに加え、イタリアでの政治的混乱とユーロ圏経済の減速もあって、6月FOMCでは年内の利上げ回数が据え置かれるとの見方も少なくありませんでした。しかし、結果はあっさりと利上げスピードの加速が示されたことで、マーケットにはちょとした動揺が走ったようです。

ただ、2018年内での利上げ回数は3回から4回へと引き上げられましたが、2020年までの利上げ回数は計8回で変わっていません。これまで、2018年3回、2019年3回、2020年2回としていたところを2018年4回、2019年3回、2020年1回に変更したということです。

なぜ変更したかというと、インフレ率の見通しを誤って低く見積もっていたからです。これまで、2018年は1.9%、2019年は2.0%としていたインフレ見通しを2018年、2019年ともに2.1%へと引き上げています。

米連邦準備制度理事会(FRB)は物価の目標を2.0%としていますので、物価が2.0%を超えないように金利を引き上げて景気の過熱を防ぐ必要が出てきたということです。

実際の数字を確認すると、FRBが物価目標として重視している個人消費支出(PCE)物価指数は今年3月に目標の2.0%に到達しており、4月も2.0%で変わらずとなっています。昨年の6月は1.4%、今年1月でも1.6%でしたので、ここ最近で大きく水準を引き上げていることがわかります。

また、一般に物価といえば消費者物価指数(CPI)を指しますが、5月のCPIは2.8%と3%に迫る勢いです。計算方法の違いからCPIはPCE価格指数よりも高めに出るといわれていますが、過去10年の平均ではCPIの1.6%に対しPCEは1.5%ですのでその差はわずかです。

PCE物価指数とCPIの動きを見る限りでは、利上げスピードを速めないことには物価は2.0%を超えて大きく上昇するリスクが高まっていたといえるでしょう。

このように、FRBはこれまで、2018年中にインフレ率が2.0%に到達することはないと予想していましたが、見通しが外れて年内2.0%到達の可能性が強まったことが利上げ回数の引き上げたにつなっがたようです。

FRBは来年後半にルビコン川を渡る?

FRBは長期的な金利水準を見通しを2.9%としていますが、今回のFOMC後の記者会見でパウエル議長が2.9%を中立金利と発言したことも注目を集めています。この中立金利とは、景気を冷やしも過熱もさせない金利のことです。

今回の利上げで米政策金利は1.75-2.00%となり、あと4回利上げをすると2.75-3.00%に到達しますので、1年後には中立金利となる計算です。さらに、2019年末には金利は3.1%にまで引き上げられる見通しですので、来年後半には中立金利の2.9%を越えることになりそうです。

中立金利が注目されるのは、中立金利を越えるということは景気を冷ますことを示唆しており、ここを境に金融政策は緩和的から引き締めへと転じることになるからです。

実際に金融引き締めとなれば景気への悪影響が心配されてきます。

ちなみに、前回の利上げ局面では2004年6月に利上げを開始して2017年12月から景気が後退しており、利上げ開始から3年半後に景気後退が始まっています。

今回は2015年12月から利上げを開始していますので、6月で2年半が経過したことになります。したがって、中立金利に到達する来年後半は、偶然にも前回の景気後退が始まった利上げ開始から3年半後に当たります。

こうしたことなどから、来年後半には景気後退リスクが高まるのではないかと警戒警戒されています。

株価見通しもかなり慎重、年内に高値更新はなし?

もちろん、景気見通しが怪しくなればFRBも利上げペースを鈍化させるなどの対応を取ることが予想されますので、機械的に景気後退時期を計算できるわけではありません。

FRBの見通しでも、2019年のGDP成長率は2.4%と2018年の2.8%からは減速するものの、2%超えの成長が見込まれています。

とはいえ、金利を中立金利以上に引き上げた場合、景気後退を免れたとしても景気がスローダウンすることは想像に難くありません。

6月のFOMC前にCNBCが実施したフェド・サーベイでは、62%がFRBは中立金利を超える水準まで金利を引き上げると予想しています。フェド・サーベイでの株価見通しも非常に慎重であり、2018年末のS&P500は2848と年初来の高値である2872には届かないと予想されています。

米経済は足もとでは絶好調であり、GDPナウは4-6月期の米GDP成長率は4.8%と予想しています。

その一方で、中立金利とされる2.9%への到達を1年後に控え、FRBがブレーキを踏んでも米景気は大丈夫なのかどうか、市場は気を揉んでいる様子ですので株価の高値更新にはしばらく時間がかかるのかもしれません。

LIMO編集部