公園の滑り台は危険? 安全至上主義が社会を窮屈にしていないか

公園遊具の撤去・使用禁止問題を考える

今年3月16日、『滑り台で女の子が指先を切断 つなぎ目に挟まったか』という報道がありました。あってはならないとても痛ましい事件です。女の子の一刻も早い回復を願うばかりです。

一方、この女の子がどれだけ指を切ったのか、第一関節などからの大きな切断なのか、また指の先端の切断で回復可能な軽微なものなのか、そこまでは報道されていなかったのでわかりません。

ただ、「滑り台で指を切断」という恐ろしい報道が出たことは事実です。普通の感覚をお持ちの方ならこれを見て「滑り台も実は怖いものだ」と思われるでしょう。事実ツイッターでも「滑り台で指切断とか怖すぎ...」「滑り台でそんなことになるのか」というような反応が多く見られました。

続きを読む

たしかに、事故は恐ろしいもので、対策と予防は十分にしていかなければならないものです。ただ、僕はこの報道に違和感を持ったのも事実です。

他にもある大きな危険はほとんど報道されない

なぜならこのような報道の裏で、もっとたくさんの乳幼児が、窒息(就寝中の嘔吐などによるもの)、交通事故(自動車事故などによるもの)、溺死(風呂の残り湯の事故など)などで命を落としているにもかかわらず、あたかも社会には存在しないかのように、ほとんど報道されることがないことです。

厚生労働省:平成21年度「不慮の事故死亡統計」の概況:統計表

もちろん、「犬が人間を噛んでもニュースにならないが、人間が犬を噛んだらニュースになる」と揶揄されるような業界ですから、報道機関サイドにもそうせざるを得ない事情があるのでしょう。

しかし、こうした報道が繰り返されることで「遊具は危険なもの」のような”空気”が醸成されていき、それを背景に、行政機関が善意で遊具を撤去していく…。結果として滑り台が街から消える。こんな事態が大いに想定されてしまいます。

事実、すでに同様の経緯で回転式遊具は街から消えつつあります。乳幼児にとってもっと危険である他のものについては言及せず、何か一つの「悪者」を見つけて叩いてしまう……。これは、物事の本質を見失うダブルスタンダードの典型例ではないでしょうか。

安全至上主義は社会を窮屈にする?

もちろん、安全を求めることは大切です。でも逆に、安全を求めすぎることへの弊害(デメリット)も大いに考慮すべきではないでしょうか。

たとえば、高齢者を誤嚥性肺炎から守るために禁食にする。これは病院医療ではよく行われることですが、一方で高齢者ご本人の生きがいを奪いかねない。

ただでさえギリギリの状態で生きている方の生きる意欲を奪ってしまい、その結果として寝たきりなってしまう…。そんなデメリットを持つ行為であることも我々医療従事者は認識すべきでしょう。事実、僕は医師の指示で絶食し、寝たきりになった方に「食べてもいいよ」と言ってあげただけで劇的に回復された例を何人も経験しています。

また、レバ刺しで事故があったからレバ刺しは禁止にする、という一件を覚えている方も多いでしょう。平成24年、厚労省は牛レバーを生食用として販売・提供することを禁止しましたが、本当に牛レバーの危険性は国全体で禁止するレベルのものなのでしょうか。もちろん、リスクはゼロではありませんが…。

食べ物の危険性という意味では、正月のお餅も危険があると言えます。でもこちらは規制はされません。これもダブルスタンダードの一例でしょう(当然ですが、「餅も規制しろ」と言いたいわけではありません)。

同じようなことが、遊具でも行われていないでしょうか。

先日ツイッターで、子どもの遊び場で封鎖されていた遊具に関するツイートが流れてきました。それによると、コンクリートでできた山状の遊具(子どもが滑り下りられる構造)が使えなくなっているので、そこにいた職員に尋ねたところ、役所に「ズボンが破れた」というクレームが入ったとのこと。

一方、子どもたちにとっての公園の大切さを訴える張り紙も作られているそうです。そこには、「見守る事〜子供達の行動力を萎縮させないために」「子供達の遊具を取り戻す〜子供の創造性を萎縮させないために」などの文が見られます。

もちろん安全・安心を求める風潮それ自体は責められるべきではありません。ただ、そればかりを突き詰めすぎると、逆に社会にとって不利益になるかもしれない、ということを僕らは認識すべきだと思います。

僕はいつも、「リスクはゼロを目指すものでなく、リスクに伴う不利益(と裏にある利益)を考慮して上手にマネージメントするものなんじゃないかな?」と思っています。

でも、この考え方は今の世の中ではちょっと突飛かもしれませんね。皆さんはどう思われるでしょうか。

日本内科学会認定内科医 森田洋之

ニュースレター

PR

森田 洋之

1971年横浜生まれ、一橋大学経済学部卒後、宮崎医科大学医学部へ。内科研修終了後、財政破綻後の北海道夕張市・夕張市立診療所に勤務。同診療所所長を経て妻の実家の九州へ戻る。
2011年、東京大学大学院H-PAC千葉・夕張グループにて夕張市の医療環境変化について研究。2014年、TEDxKagoshima出演。同年、研究論文『夕張市の一人あたり高齢者診療費減少に対する要因分析』(社会保険旬報)発表。2015年、『破綻からの奇蹟〜いま夕張市民から学ぶこと〜』を出版(日本医学ジャーナリスト協会優秀賞受賞)
現在、南日本ヘルスリサーチラボ代表、日本内科学会認定内科医、日本プライマリ・ケア連合学会指導医、鹿児島県参与(地方創生担当)。