複数の会社が合併する際に、全部の会社の名前を残すのは悪印象だから避けるべきだ、と久留米大学商学部の塚崎公義教授は主張します。

合併会社名が長いのは迷惑で悪印象

日本企業は、「従業員の共同体」であり、「会社は家族」ですから、企業同士が合併すると大変面倒なことが起こります。A社とB社の合併では、社長ポストをどちらの出身者がとるか、部長ポストをA社出身者が何人、B社出身者が何人とるか、といった争いが発生するわけですが、当然ながら新会社の名前に関しても争いが発生するでしょう。家族や共同体にとっては、名前は単なる記号ではなく、シンボルですから。

そこで、名前に関しては「AB社」あるいは「BA社」といった名前が採用される場合が少なくありません。その結果、かなり長い名前の合併会社が誕生する場合もあります。しかし、これは避けるべきでしょう。社内で派閥争いをするのは仕方のないことでしょうが、それで顧客の利便性を損なってはいけません。

短い名前の2社が合併した場合などは、AB社、あるいはBA社という社名も合理的かも知れません。どの会社が合併したのか、顧客にわかるからです。しかし、3社以上の合併あるいは長い名前の企業の合併の場合には、顧客が長い社名を呼ばされるだけでも迷惑です。まして銀行の場合には振込依頼書に相手先銀行名を書かされることが少なくないので(笑)。

単に不便なだけではなく、「顧客に迷惑をかけてまで、長い名前にしなければいけないほど社内の派閥争いが激烈なのか」と思われるのは決して得なことではないでしょう。

バンク・オブ・アメリカは被買収銀行の名前

バンク・オブ・アメリカという銀行は、昔から名門銀行として世界中で活躍していましたが、経営が傾き、1998年にネーションズバンクに吸収合併されました。言葉は悪いですが、名門貴族が没落して、新興の田舎成金に買収されたようなものでした。

バンク・オブ・アメリカといえば、米国を代表する巨大銀行の一つです。この名前が消えてしまうのは大変残念なことです。しかし、名前は残ったのです。なんと、吸収した田舎成金が「バンク・オブ・アメリカ」の名前を使うことにしたからです。

筆者は、この合併について、米国に出張し、話を聞いてきました。本店は田舎成金の本店があったシャーロットという田舎町にあるので、そこまで出張したわけです。

当然、銀行の名前についても質問しましたが、回答はチョット意外なものでした。「株主が最も利益を稼げるように合併銀行を運営するとして、銀行名は何を使うのがベストか。それはバンク・オブ・アメリカだろう」というのです。

考えてみれば、米国の会社は株主の金儲けの道具ですから、買収した銀行の銀行員の気持ちなどは考える必要は無いわけです。場合によっては役員や幹部の人事も被買収銀行の役員等が大勢残るかもしれません。何といっても田舎成金の役員等より没落貴族の役員等の方が優秀そうですから(笑)。

言外のニュアンスとしては、「株主にとっては、傾いた銀行を買収することはリスクであったが、名門貴族の名前を手に入れるために勇気を出して買収した」という風にも聞こえました。筆者の英語の能力の限界等もありますので、誤解かも知れませんが(笑)。

「日本製鉄」は良い名前

ここからは、筆者の独断です。合併会社の名前を筆者が「従業員の気持ちや内部派閥抗争などではなく、株主の利益のみを考えて」決めたらどうなるか、という話です。

新日鉄住金が日本製鉄に社名変更するそうです。これは素晴らしいと思います。まさに日本を代表する製鉄会社ということで、「名は体を表す」わけですから。加えて、日本製鉄であれば、海外の人にも日本の会社だとすぐわかります。まあ、NIPPONの知名度を考えると、英語名は「NIPPON STEEL」ではなく「JAPAN STEEL」の方が良かったのかもしれませんが。

三菱東京UFJ銀行は、日本名を「三菱銀行」、英語名を「バンク・オブ・トーキョー」でいかがでしょうか。国内では「三菱」の名前は圧倒的な存在感がありますから、これで決まりだとして、海外では大きな存在感を誇っていた「バンク・オブ・トーキョー」を使えば良かったと思います。誰が見ても日本の銀行であることが明白ですし。

みずほ銀行は、筆者の出身銀行なので、昔の同僚のお叱りを頂戴することを覚悟の上で敢えて記しますが、「富士銀行」が良いと思います。富士山は皆に愛されていますし、日本を代表する山ですから、「皆に愛される、日本を代表する銀行」ということで、これも「名は体を表す」だと思うのですが(笑)。

なお、本稿は厳密性よりも理解しやすさを重視しているため、細部が事実と異なる可能性があります。ご了承ください。

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塚崎 公義