JSRという社名を聞いて多くの人はどんなイメージを持つだろうか。年配の方は、前身の「日本合成ゴム」の方が馴染みがあるかもしれない。合成ゴムの国策会社というルーツを持つだけに、現在も石油化学系分野が事業の柱の1つであることに変わりはないが、同社の利益の源泉は電子材料、とりわけ半導体材料によるところが非常に大きい。

 加えて、近年は新たな事業の柱として期待を寄せるライフサイエンス事業への傾注を強めており、石油化学系、電子材料に次ぐ新たな事業の柱としてリソース投下を惜しまず行っている。

ライフサイエンスは買収攻勢、18年度に黒字化予定

 同社は現在、19年度(20年3月期)を最終年度とする中期経営計画を進めている。成長ドライバーと位置づけられているのが、石油化学系分野で戦略製品の1つである低燃費タイヤ向け合成ゴム「SSBR(溶液重合SBR)」、半導体材料、ライフサイエンス事業の3つだ。

 そのなかで、やはり最も力を入れているのがライフサイエンス事業だ。同社は石油化学系、およびファインケミカル分野で培った技術や知見をもとに、数年前から同分野での事業拡大に注力。15年に米KBI Biopharma社や国内の医学生物学研究所を買収したのを皮切りに、慶應義塾大学とは産学連携拠点を共同で設立。17年に入ってもスイスの細胞株構築受託会社のSelexis社、さらに創薬支援サービスを手がけるCrown Bioscience International社も相次いで取得。怒涛のM&A攻勢を仕掛けている。

 現状のライフサイエンス事業は17年度実績で売上高262億円、利益的には営業赤字の状況。これを18年度には売上高400億円に引き上げ、黒字化を達成したい考えだ。

半導体材料は18年度に10%増収目標

 半導体材料事業に関しては中計期間内で「高シェア維持とポートフォリオ拡大」を掲げる。ちなみに、フォトレジストなどで構成される半導体材料事業の2018年度(19年3月期)見通しは、売上高として前年度比6%増の800億円の達成を目指す。先端プロセス向けArFレジストは、市場成長率を上回る同10%増を目標として掲げる。

 18年度は10nm世代向けのフォトレジスト製品の立ち上がりや、韓国メーカーを中心とする先端DRAM向けが業績拡大の牽引材料と位置づける。ArFレジストの市場全体の伸び率は5%前後を予想しているなかで、同社では市場シェアの拡大などを通じて、同10%のプラス成長を達成したい考え。

先端DRAM向けで採用拡大

 ただ、ここ最近同社のArFレジストのシェアは低下傾向にあった。電子デバイス産業新聞の調べによれば、14年以降シェアは年々低下しており、2位の信越化学工業との差はかなり縮まってきている。

 このシェア変化は台湾TSMCの採用状況によるところが大きい。20/16nm世代のファーストサプライヤーはJSRであった一方、現状の10/7nm世代は信越化学がこの座を射止めており、ここ2~3年はJSRにとって不利な状況が続いていた。

 ただ、17年後半以降は再びシェア回復に向けて、勢いを取り戻しつつある。TSMC向けは後陣を拝している状況だが、Samsung向けの先端DRAMでシェア拡大に成功したほか、3D-NANDもArFでは高シェアを維持する。特にSamsung向けの地位向上は18年のArFレジストの市場シェアに大きなプラス要素となりそうだ。

EUVは他社にリード許す

 一方で、次世代リソグラフィー技術のEUVに関しては、TSMC向けで他社にリードを許す立場となっている。もともとはJSRが最有力と見られていたが、現在は東京応化に加え、信越化学が主要サプライヤーを務めるとの見方だ。

 こうした状況に対し、同社はEUVレジストにおいて北米、韓国顧客での展開に活路を見出す。同業他社が台湾顧客でPOR(Process of Record=顧客ラインでの承認)の獲得が順調に進んでいることに対し、「台湾で他社に先行されているのは事実だが、我々は韓国、北米市場では非常に高いポジションにある」(小柴満信社長)とコメント。現状でも35~40%のシェアは獲得できていることを強調した。

全社営業利益の53%を稼ぐ屋台骨

 ライフサイエンス事業への傾注は、新たな柱を育成する意味で重要な取り組みだ。ただ、向こう数年を見通せば同社の屋台骨を担うのは電子材料分野だ。17年度実績を見ても、FPD材料を含む旧多角化事業は全社営業利益の53%(17年度実績)を稼ぎ出している。主力製品のフォトレジストはJSRを含む国内メーカーが市場シェアの約9割を握る日系優位の市場。日系メーカー同士の競争は熾烈を極めており、JSRとしても半導体材料での地位をキープしながら、次世代のライフサイエンス事業の育成に取り組むという難しい課題に今後数年かけて取り組んでいくことになりそうだ。

(稲葉雅巳)

電子デバイス産業新聞 副編集長 稲葉 雅巳