2020年の東京オリンピック・パラリンピックへ向けて、“キャッシュレス化”が目指されている日本。キャッシュレスというとクレジットカードのイメージがあるかと思いますが、今の世界標準ではクレジットカードはもう古く、カードレス化が進んでいるようです。
キャッシュレスからカードレスへの流れにはビットコインの普及も一枚噛んでいるもようですので、今回はその辺りも含めて最新事情をお届けしたいと思います。
もはや「カードレス」が世界標準に
日本政府は2020年の東京五輪に向けてキャッシュレス化の取り組みに本腰を入れ始めており、その中心にはクレジットカードの利用率向上が位置付けられています。
ただ、カード先進国である米国では若年層を中心にカード離れが進んでおり、世界標準ではカードレス化が進んでいるようです。
火つけ役となったのがベンモ(Venmo)で、米国では“Venmo me(ベンモで振り込んで)”というフレーズが既に定着しているといわれるほど普及しています。
ベンモとはスマートフォンで利用できる個人間送金アプリのことで、個人間での送金が無料でできることから、“割り勘”に便利である点がウケて学生を中心に利用が広がりました。
2009年に始まったベンモですが、2016年から小売店での決済にも利用できるようになったことで、クレジットカードの代わりとして買い物での支払いにまで守備範囲を広げています。
ベンモ人気に危機感を感じた米銀行業界はコンソーシアムを形成し、昨年6月から「Zelle(ゼル)」をスタート。30を越える金融機関の口座間での個人間送金を無料とした上で、オンラインや店頭での買い物のスマホ決済を提供しています。
スマホ決済でベンモと覇権を争っているのがスクエア(Square)が提供しているスクエア・キャッシュ(Square Cash)です。
個人向け送金サービスの開始は2013年10月からとベンモに遅れを取りましたが、2015年3月からベンモに先行する形でビジネスでの支払いができるビジネスアカウントの発行を開始。カード決済に代わる新しい決済手段として先駆的な役割を果たしています。
さらに、スクエア・キャッシュでは規制の厳しいニューヨーク州など一部の州を除いてビットコインの購入が可能であり、将来的にはビットコインでの決済を視野に入れているようですので、ビットコイナーには期待が膨らむところではないでしょうか。
このほか、フェイスブックは2015年からFacebook Messengerによる個人間送金をスタートさせており、昨年10月からはMessenger上でPayPalを利用した送金が可能になるなど決済機能を強化しています。
また、アップルは2014年にアップルペイを開始していますが、米国では昨年12月に発売された最新機種からアップルペイ・キャッシュの利用が可能となり、個人間送金もできるようになっています。
スマホ決済では決済手段としてクレジットカードを利用することもできますが、必ずしもカードが必要なわけではありません。クレジットカードを利用した場合には何らかの形で高い手数料が発生しますので、必要がないのであれば利用は避けたいところです。
このように、無料の個人間送金を起爆剤として広がったスマホ決済がカード決済を駆逐するのではないかと見られているわけです。
日本でもスマホ決済拡大の動き
日本でもLinePayやPaymo、Kyashといった個人送金アプリがいくつか提供されていますが、有料サービスが多く、また決済をクレジットカードに依存しているケースが多いことなどもあってか、まだ米国のような普及には至っていません。
ただ、5月16日には三菱UFJ、三井住友、みずほのメガバンク3行が、オンライン決済事業を手がけるメタップスが提供するスマホ決済システムを活用することで合意したと伝えられており、変化の胎動がうかがえます。
メタップスは、SNSや電話番号を用いた送金機能や加盟店でのQRコードを用いた決済を実現するアプリを開発しており、銀行口座と直結しているため、支払いやチャージがスムーズに行えるほか、送金や支払いなどに手数料がかかりません。
同社は「全国の金融機関と接続したい」としていることから、“日本版Zelle”が満を持しての登場となりそうです。
また、18日にはゆうちょ銀行も来年2月からスマホ決済を始める予定であると発表しています。飲食店や小売店、宿泊施設を利用する際にスマホでQRコードを読み取ると口座から代金が引き落とされる仕組みとなるようです。
日本はクレジットカードの保有率こそ高いのですが、利用率が低いことから「キャッシュレス後進国」といわれており、政府も2020年の東京オリンピックに向けて本腰を入れて「脱現金払い」に取り組んでいます。
ただ、おサイフケータイやアップルペイはお財布から現金やカードを取り出して支払う手間を省いているに過ぎません。これはこれでキャッシュレス化は進展しますが、世界標準からは周回遅れとなりそうです。
究極の決済は何もしないことであり、世界はこの方向を目指しています。たとえば、米国ではアマゾンのレジ無しコンビニ「Amazon Go」が登場し話題となっていますが、利用者からは買い物での“決済”という手間を一切省くことが期待されています。
これは“現金主義”を“カード払い”にしたところで実現できる世界ではありません。世界標準で戦うためにはキャッシュレスであるとともカードレスであることも求められているといえそうです。
ビットコインによるキャッシングが拡大へ
ただ、クレジットカードの利点は現金を持ち歩かなくてもよいほかに、カードローンやキャッシングといった便利な機能があり、米国ではむしろこうした借入機能がクレジットカードの存在意義との見方もあります。
ところが、この聖域にビットコインをはじめとする仮想通貨が侵食しようとしています。
個人間での送金ができるということは個人間でのお金の貸し借りもできることにつながります。ただし、面識のない人にお金を貸す場合には、当然ながら借り手の信用が問題になります。
そこに登場するのがもはや信用の代名詞となりつつあるブロックチェーンであり、媒体を務めるのが仮想通貨というわけです。
代表的な個人間(P2P)レンディングサービスである「Bitbond」は、ブロックチェーン技術を利用して信用度の高い借り手を個人投資家と結びつけ、ビットコインを利用して迅速かつ低コストでお金を貸すことを可能にしています。
最大の特徴は借り手と貸し手の所在地が一致する必要ないこと、すなわち国境を越えたサービスが可能ということです。
Bitbondは2013年に設立され、フリーランスを含むスモールビジネス向け融資のプラットフォームを提供しています。2016年にドイツで正式の銀行としてのライセンスを取得し、それ以降、融資額が指数関数的に伸び、急成長しています。
たとえば、2015年末には34万ドルに過ぎなかった融資総額が2016年末に初めて100万ドルを超えると2018年5月には何と1075万ドルにまで拡大しています。
また、米国では「SALT」が同様のサービスを提供しています。
さらに、「Ripio」は金融機関を必要としないビットコインとスマホだけで利用可能な個人向けキャッシングサービスを中南米で開始しています。利用者は500ドルから1000ドル分のビットコインをキャッシングサービスで借りることができるようです。
Ripioはクレジットカードや銀行口座が不要という点に特徴があります。発展途上国では約半数の人が銀行口座を保有しておらず、実際に利用している人はさらに少ないといわれています。
その一方で、スマートフォンはあっという間に普及しており、たとえばデフォルト懸念でこのところの市場を賑わしているアルゼンチンですら保有率は7割を超えているようです。
ブロックチェーンで実現するスマートコントラクトと仮想通貨を利用することで、従来型の信用調査を必要とせずに融資やキャッシングがスマホ1台で実現できる世界が既に存在しているわけです。
ビットコインの当初の目的は国境を越えた個人間での送金を安価で早く、安全に実施することであって、投機目的での保有は想定外だったともいえそうですが、先進国でビットコインといえばそれは投機を意味するのが現状となっています。
しかし、金融システムや通貨そのものへの信用が薄い途上国では、仮想通貨がその本来の役割において存在感を高めているようです。
中国ではPCが普及する前にスマホが普及してしまいましたが、同じように、途上国ではクレジットカードが普及する前に仮想通貨によるファイナンスが普及するのかもしれません。
LIMO編集部