退職後に生活費の追加節約はできるか
退職後の生活資金の準備を議論する際にまず考えるのが、退職後の生活資金の総額がどれくらいになるかの算定だ。そのうえで、その資金が予想以上にかかる場合に、対策の1つとして生活費の切り下げを考えることになろう。
フィデリティ退職・投資教育研究所が2017年に実施した50-69歳1万2000人強のアンケート調査で、「退職後、追加の生活費切り下げが必要になった場合にどうするか」を聞いたところ、退職者6250人の53.2%の人が「さらなる節約を行う」と回答した。
2番目の「健康を維持して医療費の増加を抑える」29.2%、3番目の「計画していたイベントや旅行を見送る・縮小する」12.7%と比べて、ダントツに高い水準だった。
退職後の年間生活費(=退職後年収と呼ぶ)はアンケート調査の結果、中央値で335万円。たとえば1割の生活費削減と考えると、年間30-35万円程度の削減が必要になる。
既に現役時代の生活費よりも少なくなっている生活費のなかから、さらにこの規模の削減をしようとするのはなかなか難しいだろう。大きな費用項目を集中的に削減対象にするか、全体的に削減するかの対策が考えられる。
節約できるのは食費だけか
このアンケート調査で「退職後の生活で大きな支出」を退職者に聞くと、1番は食費、2番が税金・社会保険料、3番が医療費だった。この3つ以外にはほとんど言及されておらず、この3要素が退職後の生活の大部分を占めると思われる。この退職後生活の3大支出要素がどれだけ削減可能だろうか。
医療費は健康維持によって想定よりも少なくできる可能性はある。しかし、一般的には加齢で徐々に増えるものだ。実際、このアンケート調査でも、「退職後の生活で最も懸念する支出」として4割強の人が挙げている。
懸念するというのは、実際どれだけ支出を伴うことになるのかわからないという意味が色濃いはずで、そうなると医療費を減らすというのはかなり難しく、かえって増える可能性の方が高いだろう。
税金・社会保険料は個人の努力で削減するには限界がある。税金も社会保険料も高齢者の人口構成が高まる中で、高齢者が相応に負担することが求められている。こちらも増えることはあっても減ることはなかなかないだろう。
とすると、大きな支出項目から削減できるとすれば食費しかない。確かに個人がコントロールできるものではあるが、とはいえ食費だけで大幅な削減を考えることもかなり難しいだろう。
移住による包括的なコストダウンも検討課題に
そうなると、もう少し抜本的な考え方が必要になる。米国では退職者だけが使えるコミュニティ、「リタイアメント・コミュニティ」が数多くある。物価、税率、犯罪率などを条件に自分に合ったリタイアメント・コミュニティを探すことが良く行われているが、日本でも、地方都市への移住といった選択肢があってもいいはずだ。
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合同会社フィンウェル研究所代表 野尻 哲史