ファッション通販サイト「ZOZOTOWN(ゾゾタウン)」を運営するスタートトゥデイの時価総額が1兆円を超えたということで話題になっています。実際、同社の時価総額は2018年5月11日終値で1兆1874億となっています。

1兆円といえば、同じネット企業でEC(Eコマース)を代表する楽天の時価総額が同日で1兆1164億円です。こうしてみるとスタートトゥデイの時価総額は楽天を超えたことになり、株式市場のスタートトゥデイへの期待値の高さがうかがえます。今回はZOZOTOWNを運営するスタートトゥデイについて詳しく見ていくことにしましょう。

時価総額とは何か

スタートトゥデイの時価総額が1兆円を超えたと先に触れましたが、そもそも時価総額とは何なのでしょうか。

時価総額とは、簡単に言えば「株価と発行済株式総数を掛け合わせたもの」です。

現在の利益規模をベースにして利益成長への期待が株式市場で高ければ時価総額は大きくなります。そうしたこともあり、新興企業で利益規模がまだ小さかったり、時には利益が出ていない赤字の企業でも時価総額が大きな企業もあります。

その一方で、現在の利益規模が大きくとも収益の成長期待が乏しかったりすると低い評価しか受けないということもあります。歴史の長い企業でも、また知名度がある企業でも収益の成長性に疑問がつくような会社は時価総額が思ったほど高くないということもあります。

スタートトゥデイの時価総額のすごさを小売業に見る

先ほどは同業の楽天を引き合いに出しましたが、今回はリアル店舗を持つ小売業で見てみましょう。

たとえば、三越伊勢丹ホールディングスの時価総額は5216億円(2018年5月11日終値)、J.フロント リテイリングが4849億円、高島屋が3296億円といずれの百貨店の時価総額よりもスタートトゥデイの方が大きくなっています。

また、アパレルが必ずしも関係しませんが、小売業というカテゴリで他の例も見てみましょう。ドンキホーテホールディングスの時価総額が8748億円、ローソンが7101億円です。こうしてみるとスタートトゥデイの時価総額の立ち位置が理解できると思います。

スタートゥデイの何がすごいのか

スタートトゥデイはプライベートブランドの「ZOZO」や採寸スーツ「ZOZOSUIT」を展開しようとするなど、これまでのEC領域を基盤としつつもその領域を大きく抜け出そうとしています。

ZOZOSUITについては、これまでの「センサー方式」から「マーカー読取り方式」に変更し、そのスーツが水玉模様であることから話題を呼びました。今回のセンサー方式からマーカー読取り方式への変更による改良ポイントを以下の様に説明しています。

  • VUI(音声案内)による新しいユーザー体験
  • 電池切れの心配なし
  • 洗濯可能!
  • 大量生産が簡単に
  • コストが大幅に減少
  • Bluetooth接続不良などのリスク回避

現在、マーカー付きスーツには約300から400個のマーカーがついており、コストは1着当たり約1000円とされています。また、将来の展望として、マーカーなし、スーツの必要性もないというような可能性も示されており、コストもさらに下がるかもしれません。

2019年3月期はZOZOSUITを600万から1000万スーツを無料配布するとのことです。これまでECでは「購入前に試着をするのが難しく、ネットでの買い物はちょっと…」というような意見は一般的にあったかと思います。今後はZOZOSUITの展開次第ではそうした声もなくなってくるのではないでしょうか。ZOZOSUITの申し込みは世界103カ国ではじまっています。

驚きのプライベートブランドの事業計画

先に触れたように、スーツの配布枚数は600万着から1000万着を予定しています。

また、そのうち実際に計測をする人が60%の360万人から600万人を想定しています。そのうちの50%の計測者が実際にプライベートブランド(PB)商品を購入すると購入者数が180万人から300万人となります。その結果、購入金額が135億円から225億円になるとスタートトゥデイは計画しています。

同社は中期的な展望として、初年度は売上高で200億円、2年目は800億円、3年目は2000億円と高い成長性を計画しています。

2018年3月期の同社の連結売上高が984億円ですから、PBの事業への期待もうかがえるでしょう。商品展開としては、現在のスリムテーパードデニムとTシャツの2型から6月には5型、今期中に10から20型へと計画しています。

ZOZOTOWNの躍進を財務データで確認する

こうしたスタートトゥデイですが、業績はどうなのでしょうか。

2018年4月27日に発表された2018年3月期の連結業績売上高は984億円、営業利益は327億円と、営業利益率は33%を超えています。

また、2019年3月期の会社による連結業績予想は、売上高が1470億円、営業利益は400億円と、売上高が1000億円を超える目標でありながら、営業利益率は27%と2018年3月期よりも営業利益率は低下しますが、引き続き高収益率を実現する計画です。ちなみに、売上高は対前年度比で+49%増、営業利益が同+22%増という高い成長率となっています。

さて、貸借対照表にも目を向けてみましょう。

2018年3月期の総資産は707億円。純資産合計は408億円で株主資本も同額となっています。借入もなく、現金及び預金として246億円を保有しています。財務体質も健全といえます。

ZOZOTOWN利用者とはどのような属性か

ECサイトの購入者の顔は外部からは見えにくいですが、同社が開示しているZOZOTOWNの年間購入者数はアクティブ会員数及びゲスト購入者数を含めると年間722万人を超えます(2018年3月期第4四半期)。うち、アクティブ会員数が511万人、ゲスト購入者数が211万人となります。ここでいうアクティブ会員数というのは過去1年以内に1回以上購入した会員数です。また、ゲスト購入者数とは、会員登録を行わず購入したユニーク購入者数です。

では、どのような属性の人がZOZOTOWNを利用しているのでしょうか。

アクティブ会員を見ると、約70%が女性、また約30%が男性です。まだまだ女性中心の利用ということで、今後男性顧客を取り込む余地もありそうです。

また、地域分布をみると、「関東」が41%、次いで「近畿・東海」が28%、「九州・沖縄」9%、「中国・四国」が8%という比率になっており、人口の多い都心部をはじめ全国で利用されていることが分かります。

年齢分布については、平均年齢が32.8歳となっており、男性が31.5歳、女性が33.2歳と、いずれも平均年齢が30歳を超えています。ただし、これはあくまでも平均値であり、分布図を見ると20歳代も数多く利用されており、同時に幅広い年齢層に利用されていることもわかります。

ZOZOはユニクロを超えられるのか

ネット通販という市場は以前はリアル店舗を持つ百貨店やスペシャルリテールカテゴリなど比べるとニッチ市場という見方もされていましたが、今回同社が提案しているZOZOSUITなどのようなテクノロジーを活用するアプローチが出てきた以上、これまでのようなニッチ市場という見方も変わってくるのではないでしょうか。

ちなみに、日本を代表するアパレル企業といえばユニクロですが、そのユニクロを運営するファーストリテーリング(ファストリ)の時価総額は5.2兆円。現在のスタートトゥデイの時価総額の5倍近くあります。ファストリの利益規模は2018年8月期の会社による連結業績予想の営業利益は2250億円とスタートトゥデイの営業利益予想の400億円の5倍以上の規模があるわけですが、EC企業が今後どのように事業スピードを維持しながら追いついていけるのかに注目です。

スタートトゥデイの場合にはファストリのように店舗を世界中に拡大してという展開は現時点ではなく、今回のZOZOSUITのようなテクノロジーを活用しユーザーとの接点をグローバルにどのように確保していくのかがカギといえるでしょう。また、そうした展開の方がリアル店舗を拡大するよりも早い展開ができるという側面もあるでしょう。

アマゾンに見るネット企業のリアルの買収ケース

「買い物をするために外出が面倒だ」というような消費者も出てきていますから、買い物という行動の中での自宅まで配送してくれるというECの位置づけも今後も変化してくるかもしれません。

もっとも、EC大手のアマゾンでもホールフーズという高級食品スーパーを買収したようにEC企業でもリアル店舗を持つ企業を買収する時代に突入しました。ネット企業とは言え、成長し続け、事業規模が大きくなると消費者やサービスのユーザーをいかに接点を拡大するかという問題に直面します。

1日24時間は誰しも同じです。そのうちネットを利用している時間は限定さます。家にいる時間、仕事をしている時間、移動している時間をはじめとして人間のアクティビティを分解していくと、ネット企業が魅力的に見えるのはリアルの世界ではないでしょうか。今後のECプレーヤーでトレンドをつくりつつある企業の動向からは目が離せません。

青山 諭志