iPhone Xの販売不振やサムスンディスプレーの減産報道など、最近ネガティブな話題が多い有機ELだが、これはアクティブ型と呼ばれる駆動方式を採用した有機ELディスプレーの話。だが、アクティブ型より構造がシンプルで安価なパッシブ駆動型の有機ELディスプレー市場は、堅実に成長している。
パッシブ有機ELは、画面サイズが1インチ前後と小さく、白や黄色など単色だけを表示するのが主流で、フルカラーや動画表示には向いていない。市場規模も決して大きくないが、外販メーカーとして名高い台湾の2社は近年、売り上げを拡大し続けており、営業利益率を2桁台に乗せるなど、乱高下が激しいディスプレー市場にあって比較的安定したビジネスを展開している。
ウエアラブル端末が需要を喚起
パッシブ有機ELの需要増を後押ししているのが、小さなディスプレーを搭載したリストバンドをはじめとするウエアラブル端末、そして文字盤すべてがディスプレーで構成されるスマートウオッチの登場だ。心拍数などを計測するセンサーなどと一緒に搭載され、そのデータや時刻などを薄型かつ低消費電力で表示できる手軽さが受け、ここ数年で急激に需要が伸びた。高精細な表示はアクティブ型に遠く及ばないが、有機ELならではの自発光でコントラストが液晶に比べて高いため、太陽光直下といった明るい場所や暗い車室内での視認性が高いことも搭載拡大を後押しした。
調査会社IDC Japanが2017年7月に発表したウエアラブル機器の世界市場予測によると、リストバンド型は17年の4760万台から20年には5220万台へ、腕時計型は7140万台から1億6100万台へ増加する見通し。また、IHS Markitのディスプレー需要予測によると、スマートウオッチ用ディスプレーにおけるパッシブ有機ELの需要は、17年の5370万枚から20年には6270万枚へ増加するとしている。
トップ2社の利益率は業界屈指の高水準
世界最大の外販メーカーである台湾のライトディスプレーは、14年の売上高が8.95億台湾ドルに過ぎず、大きな営業赤字に陥っていたが、17年の売上高は14年比2.5倍の22.6億台湾ドルにまで拡大。17年の営業利益率は14.2%にまで上昇した。
また、世界2位の台湾ワイズチップセミコンダクターも17年に14年比2.1倍の20億台湾ドルを売り上げ、営業利益率はライトディスプレーを超える16.9%に達した。
両社の利益率は、世界トップクラスの売上高を誇る韓国のLGディスプレー(17年の営業利益率は8.9%)を凌ぎ、ディスプレー首位のサムスン(17年の営業利益率は16.1%)にも決して見劣らず、業界屈指の水準にある。旺盛な需要に対応するため、両社ともに量産ラインの拡充を進めている最中だ。
折りたたみ携帯電話減少で一度は危機に
パッシブ有機EL市場が、これまでずっと堅調だったわけではない。ウエアラブル端末が登場する前、パッシブ有機ELの主用途は携帯電話だった。かつての携帯電話(今で言うガラケー)では折りたたみ式の端末が人気を集め、パッシブ有機ELはこの折りたたみ式端末のサブディスプレーに多用された。
だが、スマートフォンの登場で折りたたみ式端末が姿を消すと、パッシブ有機ELの需要は激減し、上記2社に限らず参入企業すべてが業績の悪化にさいなまれ、事業撤退を余儀なくされたメーカーもあった。
IoT端末向けに莫大な潜在需要
現在は需要が旺盛なパッシブ有機ELだが、この先に不安がないわけではない。リストバンド型端末の出荷台数はかつてに比べて成長率が鈍化しており、徐々にスマートウオッチに市場を侵食されるのではと懸念されている。そのスマートウオッチでは、アップルウオッチのような高機能端末と、パッシブ有機ELを搭載するような低価格機に市場の二極化が進み、需要が頭打ちするのではとの見方もある。ディスプレー技術としては、紙のような表示品位を持つ電子ペーパーに一部の用途が置き換わることも考えられる。
そうした懸念を踏まえ、パッシブ有機ELには今後もさらなる省エネ化や高輝度化といった性能向上が求められる。ウエアラブル端末に限らず、家電をはじめとした機器に搭載を拡大していく必要がある。
何といっても期待が大きいのは、あらゆるものがネットワークにつながるIoTの世界だ。莫大な数の普及が見込まれる各種IoTネットワーク端末に必要なディスプレーは、フルカラーできらびやかなアクティブ型有機ELではなく、一見地味だが小型で省エネなパッシブ有機ELのようなローテクディスプレーではないだろうか。
(津村明宏)
電子デバイス産業新聞 編集長 津村 明宏