「不動産ブローカー」という言葉をご存知でしょうか。ブローカーという響きから、何やら胡散くさいイメージを持つかも知れません。かつて、「上申書殺人事件」という3件の殺人事件が平成11年から平成12年にかけて発生し、その事件をモデルにした映画「凶悪」において、不動産ブローカー役をリリー・フランキーが演じたことでも話題になりました。まあ、あそこまでの極悪人はかなり稀だと思いますが、少なくとも積極的に関わりたい存在ではないという感じは持たれるでしょう。

一方、海外においては、不動産ブローカーはステータスの高い職業として認知されており、なかでもアメリカでは社会的信用度が高く、世間から一目置かれる存在とされています。

本記事では、日本とアメリカにおける不動産ブローカーの実態について説明していきたいと思います。なお、判別しやすくするため、国内ブローカー(日本)、米国ブローカーと表記して進めていきます。

1.  国内ブローカーはどうやって報酬を得ているのか?

国内ブローカーとは、宅地建物取引業者の免許を持たずに、不動産取引を行って収入を得ている存在です。これは、たとえば知り合いから自宅を売却したいと相談され、購入を検討している別の知り合いにその物件を紹介し、話がまとまれば一方(または両方)から紹介料をもらうといったケースが思いつきます。

しかし、不動産の売買・賃貸の仲介、販売、管理(一定戸数以上の管理)などを業として行う場合は、宅建業の免許を持った法人または個人の業者である必要があります。もし、宅建業者でないものがそれらの行為を業として行った場合は、宅地建物取引業法に違反したとして罰則が科せられることになってしまいます。そこで、ブローカーは中間に不動産仲介業者を入らせて、その業者に契約業務をしてもらうことで宅建業法の規制を逃れ、業者から「企画料」等の名目で紹介料をもらうのです。

ちなみに、ほとんどのブローカーは「売主」を見つけて不動産業者に紹介します。これは、買いたい人を紹介しても、別の業者で希望の物件を扱っていればそちらで決めることもあり得るため、“骨折り損”になるからです。そうならないよう、売主を紹介して不動産業者と専任媒介契約を結んでもらうことができれば、必ずその業者が売主側の仲介業者として入ることになり、紹介料にありつけるという訳です。また、そのブローカーに紹介する当てがない場合は、知り合いの別のブローカーに情報提供して紹介先を見つけてもらう場合もあります。

2.  ブローカーはどのようにして不動産情報を入手しているのか?

ブローカーを仕事としている人の最大の特徴は、“人脈”が多岐に渡ることです。前項のように、知人や親戚が不動産を売買する機会はそうそうありませんから、日々持ち得る人脈を駆使して不動産情報を探し出すことになります。彼らの人脈には、地場の不動産業者はもちろん、住宅メーカー、マンションデベロッパー、弁護士、複数の資産を所有する地主、地元選出の議員、そして同業ブローカーなどが挙げられ、ブローカー自身の得意な不動産分野によってつながる業界もさまざまです。

ただ、大手仲介業者などではブローカーとの付き合いを良しとしないところもあるため、一部の“得意先”相手に活動するケースが多くなります。とは言っても、得意先ばかりでは活動がいずれ先細ってしまうため、その都度“新規開拓”も行うことになります。

ブローカーが物件情報を入手すると、不動産仲介業者などにその情報を持ち込むことになりますが、もちろん、そうカンタンに上手くいくとは限りません。A業者に持ち込んで取り扱ってもらえなければB業者に、それでダメならC、D・・・と、ひと通り持ち込み、それでもダメなら、今度は同業ブローカーに紹介し、共同で買い手探しに奔走します。

ある程度の専門知識と経験のあるブローカーにはプロ並みの目線を持つ人もいるため、売れやすい物件情報を選んで持ち歩きますが、そうでない素人同然のブローカーの場合は、すでに市場に出回っていて買い手がつかない物件を持ち歩くことが多いようです。このように、ブローカーによってスキルレベルに差があるケースもありますが、その理由は過去の職歴によるところが大きいようです。

国内ブローカーのスキルレベルは、大きく3段階に分かれます。まず、上級レベルのブローカーは、宅地建物取引士(以下、宅建士と表記)資格を保持し、不動産業界金融業界などに勤務経験がある人材です。次の段階は、宅建士資格は保持していないものの、不動産・金融業界の勤務経験があり、上級レベルほどの知識は無いが、幅広い人脈や情報網を持っていたりするブローカーです。

そして、下級(?)レベルも存在します。宅建士資格を持たず、専門知識もほとんど無い素人同然のブローカーである彼らは、売却・購入を検討する親戚などを紹介して報酬を得たり、中には不動産業者から入手した情報を、さも自分が窓口かのようにして持ち歩いたりします。要注意人物と言えるでしょう。

3.  ブローカーの報酬

ブローカーの収入源は、紹介した不動産業者が売主・買主から受け取る仲介手数料です。宅建業法で決められている仲介手数料率の上限は〔物件価格の3%+6万円〕+消費税であり、たとえば、3000万円の物件であれば、不動産業者は103万6800円を売主または買主から受取ることができ、売主業者が直接買主を見つけた場合は両方から受取ることができます(207万3600円)。そして、ブローカーはその仲介手数料の一部を、不動産業者から紹介料としてもらうのです。

ブローカーが受取る割合は、スキルレベルや業務負担によって異なり、専門知識を駆使し、成約に向けていろいろとお膳立てをした場合は取り分も多く、場合によっては50%以上というケースもあるようです。一方、大した知識もなしに口利きだけで丸投げした場合などは、10~30%になるようです。とは言っても、右から左に情報を流すだけで報酬が得られるのですから、いつの時代もブローカーは存在するのです。

4.  アメリカの不動産ブローカー

アメリカでは、「不動産ブローカー資格」が医師、弁護士と並んで三大資格と言われています。日本において不動産を取り扱う資格は宅地建物取引士の1種類だけですが、アメリカでは不動産セールスパーソン(Real Estate Sales Person)不動産ブローカー(Real Estate Broker Person)という2種類の資格があり、ブローカーの方がレベル・地位ともに上級とされています。その証拠に、セールスパーソン資格を持っていても不動産会社が開業できず、ブローカーの下に付く形でなければ業務を行えません。つまり、不動産会社の事務所を開設するためには、ブローカー資格が必要なのです。

米国ブローカー資格を取得するためには、規定の科目を履修する必要があります。日本の宅建士の場合は、試験を受けて合格すれば、基本的には誰でも資格を取得することができます(一部、受験および資格登録できない人もいます)が、米国ブローカーの場合は、大学や専門の学校に通って履修を受けた上でなければ試験を受けることさえできません。

また、日本では宅建士の資格を持っていれば、全国どこでも不動産業務を行えますが、アメリカの場合は州ごとに資格が必要となるため、たとえば、ロサンゼルスで取得したブローカー資格で、ニューヨークの不動産業務を行うことはできません。これは、アメリカという国が、行政・商圏・自治に関して国よりも州を優先するためです。

ちなみに、日本の不動産営業は男性がまだまだ幅を利かせていますが、アメリカでは女性営業の占める割合が高く、特に住宅物件では女性目線の接客が効果的であることから、営業員のほとんどが女性で占められており、男女の差が無いどころか女性の仕事とさえ言える環境なのです。男性はと言うと、投資・事業系物件においてやや割合が多くなるようです。

日本の不動産営業マンの給料は、固定給+成約歩合給となっているところが多いですが、アメリカの場合は、雇われているブローカーやセールスパーソンは、完全歩合制(いわゆるフルコミッション)がほとんどであり、仲介手数料だけを収入源としています。また、営業で使ったガソリン代や資料取得費用などの経費についてもすべて個人負担で、会社に机を置かせてもらう費用も払わなければなりません。そのため、彼らの目標は独立して自分の事務所を持ち、セールスパーソンを雇うことなのです。

5.  まとめ

日本のブローカーは、社会的に認知された仕事とは言えず、中には好ましくない組織とつながっているケースもあり、彼ら自身も堂々と「私は不動産ブローカーです」と名乗りづらい存在です。

一方、米国ブローカーは社会的に認知された仕事として確立しており、日本の不動産プレーヤーの中には、渡米して米国ブローカー資格を取得し、事務所を立ち上げて数十人のセールスパーソンを雇っている人もいます。日本よりも海外で力を発揮してみたいという方は、チャレンジしてみるのもアリかも知れません。

マンションジャーナル