グローバルエリートというと、世界の第1線で活躍するビジネスパーソン、という連想が湧きます。しかし、その実態はどうなのでしょうか。一般的に、外資系企業で働き、世界をまたにかけるエグゼクティブやビジネスパーソンがグローバルエリートに該当しそうですが、その中で今回は外資系金融機関出身者に話を聞きました。
ビジネス界のグローバルエリートは本当に存在するのか
一口にグローバルエリートといいますが、まずは「グローバル」という言葉の範囲を考えてみる必要がありそうです。
外資系金融機関に10年近く勤務した経験のあるA氏はいいます。
「グローバルに拠点がある金融機関は、基本的には地域別に管理されているので、日本であればアジア・パシフィック、APAC(エイパック)などと呼ばれる地域における仕事が主となることが多いです。かつては東京が外資系金融機関のアジア・パシフィックの中心拠点でしたが、最近では急速にその機能が香港やシンガポールに移ってしまっています」
「そのため、以前であれば上司が東京オフィスにいたが、今では香港やンガポールにいる上司にレポーティングしなければならなくなったという話はよく聞きます。仕事の内容次第ではありますが、リージョン(地域)別に管理されている中では、グローバルといっても活動範囲はアジア中心というのが実態なのではないでしょうか」
実際にグローバルな金融機関に勤務していた人からすると、グローバルエリートという表現をどう思うのでしょうか。
「英語を使って海外と仕事をすることをグローバルと呼ぶのであれば、もちろんグローバルですが(笑)、先ほども述べたように自分のレポーティングライン(上司・部下間の関係)がどこにあるかにかなりの部分は依存するような気がします」
「私の場合は東京勤務で、上司は香港にいる英国人でした。上司は香港と東京を行ったり来たりしていましたが、それ以外の仕事の移動先も基本的にはアジア域内です。私も仕事で米国や英国、アジア各国に出張することは多かったですが、基本的にはアジアで仕事をしているという感覚でした。つまり、グローバルというよりアジアという方がより正確という印象です。たとえば、カルロス・ゴーン氏のような経営者をグローバルエリートというのはピンときますが、仮に海外に出張が多いサラリーマンをグローバルエリートと呼ぶのは少し違うのではないかと感じます」
アジア拠点の外国人上司たち
では、外資系金融機関のアジアの拠点にいる上司たちはどのような人たちなのでしょうか。彼らはグローバルエリートなのでしょうか。
A氏はこういいます。
「アジアはさすがに国の数が多いので、いろいろな国籍の人がいます。欧米系金融機関の上層部にも中国系やインド系の人が多くなってきています。もちろん外資系金融機関であれば欧米各国の出身者がいますが、彼らもアジアが本拠地というのが実態です」
それはどういうことでしょうか。
「私の上司だった英国人はオックスブリッジとよばれるオックスフォードやケンブリッジ大学を卒業し、英国ではエリートと呼ばれる人たちです。ただ、どんな理由や背景があるかは知りませんが、彼らは大学卒業後にアジアで仕事をし、奥さんが韓国人、シンガーポール人、時には日本人だったりします」
「たとえば本社がロンドンにある場合、本国の人は同じ英国出身者同士としてコミュニケーションがしやすいとは思います。ただ、ロンドン本社の経営者がアジア拠点の責任者をグローバルのリーダーとして扱っているかは疑問です。どちらかといえば、先述のようにリージョン(地域)やローカル(現地)の責任者という扱いがより実態に近いと思います」
こうしてみると、グローバルという定義があいまいに思えますね。
「そうなんですよ。自分がグローバルエリートだったかというと、グローバルに事業を展開をする企業のリージョナル(地域の)やローカル(現地)のビジネスパーソン、というのが現実でしょう。また、上層部にしたところで、よほどのトップマネジメントでない限り、リージョン(地域)をまたいだ仕事はしていないと思います。ですから、グローバルエリートとは本当にごく少数で限られた人だと思います。それを目指すのは良いと思いますが、目指したからといって誰もがなれるポジションではないでしょう(笑)」
グローバル企業の出世競争は本社次第か
最後に、グローバル企業で生き残るのにはどうしたらよいのかを聞いてみました。A氏の自らの考えをこう述べます。
「まずは各リージョン(地域)で存在感を出すことです。その際にプレーヤーとして存在感を出すのかマネジメントとして生き残るのかの選択が必要になります。以前はアジアの中心拠点が東京ということで、日本人がアジアリージョンのマネジメントとして生き残る選択肢はあったのですが、東京から他都市にその拠点がシフトしつつあることを考えると、日本人としてマネジメント層で残るのは難しくなるでしょうね」
出世をするなら日本企業でしょうか。
「それは日本企業でも生き残るのが難しいのは同じでしょう(笑)。私が以前いた日系金融機関の米国拠点に優秀な米国人がプレーヤーとしていたのですが、パフォーマンスが良く、チームプレーヤーとしても尊敬されていたのにもかかわらず、コスト削減のためにリストラされてしまいました。もちろん現地のマネージャーは日本人です」
「そうした出来事から、グローバル企業とはいえ自国ベースで人事を考えている現実を垣間見た気がします。日本人が外資系企業のローカルの従業員として出世を考えるより、日本企業に就職をして評価を積み上げていったほうがよいという考えも生まれました」
A氏はもう一度就職する機会があったら外資系企業を選ぶのでしょうか。
「いろいろな経験をしてきたので、グローバル企業になれるような会社を創って大きくしていきたいですね。非常に難しいことですが」
-グローバルエリートというより、リージョンエリートがより正確といえる-
LIMO編集部