すっかり春らしくなりました。これから新しい生活が始まる人、これまでと違う立場での活躍が期待されている人も多いでしょう。希望だけでなく、不安も抱えて迎える新年度を前に、元気をもらえる映画をご紹介します。逆境に負けず自らの道を切り拓いた主人公の姿は、新しい世界に足を踏み入れる勇気をくれることでしょう。

裁判員~選ばれ、そして見えてきたもの~(2007年、日本)

のっけからマニアックですが、商業作品ではなく、最高裁判所が企画制作した広報用映画を初めにご紹介します。というのは、この映画には、部下や後輩ができることに不安を持つ人、上司としてどう振る舞えばいいのか悩んでいる人の参考になる要素がたくさんあるからです。

平成21年5月21日、裁判員制度がスタートしましたが、どのような制度なのか、裁判員に選ばれた場合、私たちは具体的になにをすればいいのか、よく分からないという人も多いのではないでしょうか?

『裁判員~選ばれ、そして見えてきたもの~』は、現在も「裁判員制度」のページで公開されていて、裁判員制度の仕組みが理解できることはもちろんですが、人間ドラマとして非常におもしろいです(予告編3分、本編69分はこちらから)。

主人公・村瀬智昭(45)は営業マンとして優秀ですが、仕事を部下に任せることができず、全て自分で抱え込もうとする性格。部下たちも、村瀬に頼り切っています。しかし、裁判員に選ばれた村瀬は、部下を信じて進行中の案件を全て任せるという決断をします。

やがて裁判員としての職務を全うした村瀬は、仕事や人生についての見方が大きく変わるのです。ともに裁判員を務めた人たちも、村瀬の部下も、得るものがあったようです。

ザ・ダイバー(2000年、アメリカ)

春は新しい夢や希望を持つ季節。2本目は、困難に負けず、現実的な努力をすることの大切さを教えてくれる映画をご紹介します。

この映画の主人公、カール・ブラシアは実在の人物です。カールは、アメリカ海軍に入隊し潜水士になりたいという希望を持ちますが、人種差別の厚い壁に阻まれます。

地道な努力を続け、晴れて潜水士となったカールですが、職務の中で大けがを負います。上層部はカールを潜水士に復帰させることは難しいと判断しますが、カールは潜水士として復帰すべく努力を続けます。

潜水士養成所で、カールに極めて辛くあたった教官サンデーですが、努力家であるカールの様子を見ているうちに、徐々に態度が変わります。そして、大けがをしたカールを近くで支え、潜水士としての復帰を助けたのは、サンデーだったのです。

2人の絆が強くなっていく様子は、『最強のふたり』(2011年、フランス)や『セント・オブ・ウーマン/夢の香り』(1992年、アメリカ)で描かれた男性同士のすばらしい友情とも似ていて、映画を観終わった私たちに熱い感動を残してくれます。

(参考:ザ・ダイバー公式サイトより)

ビッグゲーム 大統領と少年ハンター(2014年、フィンランド)

3本目は、「自分に自信が持てない」「つい、人の言葉に従ってしまう」という人に見ていただきたい映画です。

13歳の少年オスカリは、一人前のハンターと認められるための儀式に臨み、山中で一夜を過ごしています。オスカリの前に突然現れたのは、アメリカ大統領のウィリアム・アラン・ムーア。あまりにも立場の違う2人ですが、周囲から「どうせ1人では大したことができないだろう」と思われていることが、2人の共通点です。

そのような2人が出会い、テロリストの仕掛ける攻撃を力を合わせて切り抜けるうちに、「自分たちの力で何とかする」という気概を持つようになります。2人の姿を見つめる私たちに「誰も自分のことを信じてくれなくても、自分だけは自分を信じる」ことの大切さを教えてくれる映画です。

(参考:WOWOW 作品紹介

ローラーガールズ・ダイアリー(2009年、アメリカ)

次は、新しい生活を始める人だけでなく、お子さんが卒業や入学で環境が変わるという人や、青春時代を振り返りたい人におすすめの映画をご紹介します。

主人公は17歳の少女、ブリス・キャヴェンダー。母親の言うことをよく聞く優等生だったブリスが、ローラーダービーに出会い変わり始めます。奇抜な衣装や髪形をした百戦錬磨の選手たちのなかで、内気で素朴、しかし身体能力が高いブリスは良くも悪くも注目を集めます。

ブリスは自分の意志を持つようになり、家族にも内緒のままローラーダービーのスター選手としてポスターに採用され、技術もメキメキと上達していきます。その一方で、失恋を経験し、家族の理解を得ることを先延ばしにしてきたことのツケを払う時がきて……。

ローラーダービーという日本人にはなじみの薄い世界が舞台ですが、ブリスのたどる自立への道のりは、私たちの青春時代と重なる部分が多々あります。ブリスを懸命に応援した後に、さわやかな気持ちが残る、そんな映画です。

(参考:KINENOTE 作品紹介

キングスマン(2014年、イギリス)

最後にご紹介するのは、難しいことを考えず、スカッとする映画を観たい人におすすめの作品です。

主人公のゲイリー・アンウィン(エグジーと呼ばれています)は、スパイ組織「キングスマン」に属するハリー・ハートとつながりを持ち、スパイ候補生として養成所に送り込まれます。スパイ養成所で出会う他の候補者たちと戦い、エグジーが勝ち抜いていく様はとても爽快です。

やがて、高級スーツを着こなし、ハリーの跡を継いで華麗な立ち回りを演じるまでに成長したエグジーには、自堕落な生活を送っていた頃の面影など、すっかりなくなっています。

主人公の成長を見ているうちに、「人は、どうしてもやると決めたことは、達成できるのだ」ということを教えられる映画です。

なお2017年には、続編『キングスマン: ゴールデン・サークル』も制作されました。

この作品と同じく、若いスパイ候補生が活躍する映画に『アレックス・ライダー』(2006年、イギリス、アメリカ、ドイツ合作)があります。危機を次々と乗り越えていく主人公アレックス・ライダーの機転や、闘志を楽しむことができます。

(参考:キングスマンオフィシャルサイト

終わりに

映画を観ると、さまざまな人の人生をわずか2、3時間で疑似体験できます。「もしも、私が主人公の立場だったら、どうするだろう?」「主人公を支える友人の立場だったら、私は彼を支えられるだろうか?」と、わが身に置き換えながら映画を観ると、得られるものも大きくなります。新年度に向けて、元気や勇気をもらえる映画と出会えるといいですね。

河野 陽炎