過去、途上国では無数のSME金融支援プロジェクトが実施されてきましたが、前述した通り、いまだ途上国のフォーマルなSMEには4.5兆ドルもの資金ギャップがあると言われています。
そこで、従来の金融ITイノベーション、政策金融措置とは別に、フィンテックや、それを支える破壊的技術を駆使して何とかならないか。これが金融の未来に向けた1つの大きなテーマだと思います。
SME向け中長期設備ローンに着目して3つの可能性を考えてみますと、まず、第1に、中長期にわたる返済可能性の吟味におけるデータ分析手法の活用です。
長年、SME向け中長期貸出の与信判断は人間の高度な判断能力が求められる領域と言われてきましたが、限定された条件下、一定のサンプル数があれば、それはAIの強い領域かと思います。
機械学習(Machine Learning, ML)を駆使して金融行動予測モデルを作り出すことは有望です。P2P貸出業者などではデータ分析手法を駆使してMLがリスクの高い顧客を予測する等、すでに小口短期ローンの領域では多くの研究成果や実務もありますが、比較的大きな金額の中長期ローンに適したモデルが必要です。
第2に、ビジネスプランの効果予測(含むマーケット需要予測)や、それを踏まえた統合的な与信判断における人工知能(AI)の活用です。
ビジネスプランの効果予測やそれを踏まえた統合的な与信判断は人間にしかできないことなのか、それともAIが自動的にできることなのか、という問題がありますが、この領域は人間の判断能力や経験知とAIの知が融合して成り立つ領域なのではないかと想像しています。
第3に、財務・ビジネス助言業務における人口知能(AI)およびロボット工学(robotics)の活用です。
この領域は、マクロデータ、ビッグデータの有効活用をベースにしてパターン化しやすいものかと思いますので、アドバイス業務がロボットにより遂行されるようになりそうです。
これらは、従来、金融機関に働く専門家に頼ってきた領域ですが、途上国では研修等によってすぐ人間が身につけられるようなスキルではありません。即効性が求められる途上国では、今後、時間がかかる人材育成というアプローチよりはAI活用のアプローチが必要なのかもしれません。
なお、専門家の経験知に依存する従来型システムですと、専門家がいなくなれば経験知がなくなりますが、AIをベースとしたシステム化ができればそれは永久に蓄積・保存して継続活用できるようになりますので、この点、大きなメリットです。金融の専門家として長年やってきた方々には受け入れ難いことかもしれませんが、人間がやるより効率的なのです。
そうした金融の未来が来たら、銀行員がやるべきことは、AIやロボット工学をある程度理解した上で、機械が提供する与信判断や助言内容を理解すること、また、対顧客サービスにおいて顧客が理解できないことがあれば分かりやすく解説してあげることなどでしょう。
まだAIは、なぜその結論になるのかの説明能力が弱いので、そこが改善するまでは、人間がかなりカバーしなければならないでしょう。
大場 由幸