本記事の3つのポイント

  • 半導体テスト工程で用いるプローブカード業界で台湾CHPT(中華精測科技)が新興勢力として注目を集めている
  • CHPTは大手通信キャリアからのスピンアウト企業。もともとはプローブカードメーカーに基板を供給していたが、現在はプローブカード製品の展開に注力
  • TSMCなど顧客企業は大手が多く、近年業績が急成長。わずか4年で売上高は4.4倍に拡大
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 半導体の製造プロセスは大きくウエハープロセスを手がける前工程と、パッケージングを行う後工程に大別される。前工程、後工程のそれぞれ最後には必ずテスト工程が挟まれ、良品検査が行われる。前工程ではウエハーをプロービングしてテストするため、プローブカードと呼ばれる検査治具が用いられる。

 このプローブカード業界に今、台風の目となりそうな新興企業が現れており、にわかに注目を集めている。その名は台湾CHPT(中華精測科技)。プローブカード分野におけるシェアはまだ低いが、同社が抱える顧客はどこも大手企業ばかりで、既存勢力を打ち破り、市場の一角を担う可能性は十分にありそうだ。

17年市場規模は過去最高を記録

 プローブカード業界の市場規模は年間10億ドルを超え、半導体製造用部材として大きな存在感を放っている。上位企業は専業特化しているところが多く、単一分野で会社を成り立たせていることからも付加価値の高さがうかがえる。

 ちなみに、2017年の市場規模は前年比11%増の14.5億ドルと過去最高になったとみられる(電子デバイス産業新聞調べ)。とりわけ、DRAMやNANDなどメモリー向けのプローブカードの需要が好調で市場拡大に貢献した。市場シェアでは、米FormFactor(FFI)が30%でトップを走り、次いで日本マイクロニクス(MJC)が14%、米Technoprobeが9%、日本電子材料(JEM)が9%と続く。

 ここ数年、プローブカード業界は買収などの再編が続いており、企業の淘汰が進んでいる。FFIが12年に米Microprobeを買収したのに続き、16年にはRFデバイス用プローブカードでトップの米Cascade Microtechも買収。プローブピンを供給していた日本電産リード㈱もシンガポールのSV Probeを買収するなど、これまでの市場規模に対して参入企業数が多かった反動からか、M&Aが盛んに行われている印象だ。

通信キャリア大手の中華電信からスピンアウト

 こうしたなか、新興メーカーとしてプローブカード市場で勢力を強めているのが、台湾CHPTだ。同社はもともと、台湾通信キャリア大手の中華電信の基板部門が前身で、05年に設立されたスピンアウト企業。設立当初は、高多層基板メーカーとして、プローブカードメーカーに対し基板供給を行う立場であったが、近年はプローブカード製品の供給にも注力。一躍有力メーカーとして注目を集めるようになった。すでに売上高の8割近くがプローブカードで構成されており、完全に基板メーカーからプローブカードメーカーへと脱皮を果たした。

 注目すべきは、顧客がビッグネームばかりなことだ。最大顧客は台湾TSMC。同社の売り上げ構成比を見ても、ファンドリーが58%(17年通年実績)を占め、この大半がTSMCと見られている。しかも、注目すべきは16nmや17年から量産がスタートした10nm世代の垂直型プローブカードの供給を一手に担っている点であり、技術力も予想以上に高いことがうかがえる。

 また、ファンドリーだけでなく、大手ファブレス顧客に浸透していることも見逃せない。意外にもファブレス企業はテスト工程の重要な顧客だ。ファブレスは外部へ生産委託するものの、テスト工程に関しては「どこのテスター、プローブカード、テストソケットを使うか」といった決定権を持っているケースが多い。特に大手になればなるほどその傾向は顕著で、CHPTの場合は、中国Huawei傘下のHisilicon(海思半導体)やQualcommなどを顧客として抱えている。

 ファンドリー、ファブレス双方で強固な顧客基盤を構築したことで、ここ数年急速に売り上げを拡大させている。17年の年間売上高は31億台湾ドルと、わずか4年で売上高は4.4倍にまで拡大している(グラフ参照)。現在、桃園市で新工場の建設も進めており、今後の動きに注目が集まっている。

「取引先」から「競合」へ

 国内にはMJCやJEMといった、有力なプローブカードメーカーが存在する。CHPTの台頭は脅威に見えるが、今のところ同社の注力領域は先端ロジックであり、MJCやJEMが注力するメモリー分野では競合していない。しかし、MJCやJEMもMEMS型や垂直型プローブカードを用いたロジック分野では業績拡大に手こずっており、同分野で業容を拡大させているCHPTが今後の「目の上のこぶ」になる事態も想像できる。

 実際にプローブカードメーカーの立場からすれば、CHPTはもともと基板を購入していた「取引先」であったのに、今や「競合メーカー」に変貌を遂げている。CHPTとしては基板部門の売り上げが減少するのも承知のうえで、プローブカード分野に攻勢をかけているといえそうだ。

電子デバイス産業新聞 副編集長 稲葉 雅巳

まとめにかえて

 プローブカード市場はMJCやJEMを筆頭に、日系企業が強い分野です。しかし、TSMCやサムスンなどアジア系半導体メーカーの台頭によって、その地位も徐々に脅かされるようになってきました。これら大手メーカーはローカル企業の育成にも力を入れており、プローブカードだけでなく半導体製造装置・材料の多くの分野でこうした傾向が見て取れます。CHPTはまさにTSMCが「育てている」といった感が強く、プローブカード業界で一定のシェアを握ることは間違いないと思われます。

電子デバイス産業新聞