2. 生活扶助の内容と生活保護制度の要件とは

そもそも「生活保護」とは、やむを得ない事情により生活が困窮した人に対して「健康で文化的な最低限度の生活」を保障しながら、自立を助けるために設けられた制度です。

生活保護は世帯単位で行われ、所有する「資産」、働く「能力」、その他年金や手当など、あらゆるものを活用することを前提として必要な保護が行われます。

ただし、例外はあります。

たとえば「持ち家がある人でも申請できる」ケースもあります。これは居住用の持ち家の保有が認められるケースを考慮したものであり、まずは相談してほしいという意味合いが込められているのでしょう。

【生活保護】支給される保護費

【生活保護】支給される保護費

出所:厚生労働省「生活保護制度」

このような状況で、世帯収入と厚生労働大臣の定める基準で算出される「最低生活費」と比較して収入が満たない場合、生活保護を受けることになります。

具体的な内容と算出に必要な「級地区分」について見ていきましょう。

2.1 【内容】生活する上で必要となる8つの扶助

  • 生活扶助:日常生活に必要な費用(食費・被服費・光熱水費等)
  • 住宅扶助:アパート等の家賃
  • 教育扶助:義務教育を受けるために必要な学用品費
  • 医療扶助:医療サービスの費用(費用は直接医療機関へ支払)
  • 介護扶助:介護サービスの費用(費用は直接介護事業者へ支払)
  • 出産扶助:定められた範囲内で出産費用を支給
  • 生業扶助:就労に必要な技能の修得等にかかる費用
  • 葬祭扶助:定められた範囲内で実費を支給

ちなみに、2023年10月から改定された内容が適用されます。

今回の改定の対象になるのは上記8つの扶助のうち、食費や光熱費など日常生活に欠かせない「生活扶助」です。

生活扶助の支給額は、地域や世帯人数、年齢などによって基準額が決まり、物価上昇といった社会経済情勢などを総合的に考慮して5年に1度見直しが行われています。

2.2 【級地区分】生活保護における地域差

生活保護の基準額には「級地区分」をもとにした地域差があります。

級地区分とは、生活保護法第8条2項を根拠に、各地域における物価差などの実態に合った同一の生活水準を保障する観点から設けられました。

2023年10月時点で、東京都区部等と地方郡部等では以下のような金額差が生まれるようです。

【東京都】生活扶助基準額の例(2023年10月1日時点)

【東京都】生活扶助基準額の例(2023年10月1日時点)

出所:厚生労働省「「生活保護制度」に関するQ&A」

上記はあくまでもモデルケースですが、数千〜数万円程度の金額差が見受けられます。

2.3 実際の級地区分はどう引かれている?

「生活保護」制度における実際の級地区分は、日本全国を1級から3級に分類。その各地域を「1級地-1」「1級地-2」と2つに分けていきます。

1〜3級地をそれぞれ2つに分けるため、合計6段階で級地を区分します。おおまかなイメージは、1級に該当するのは大都市圏エリア、2級以下は地方エリアといった形です。

厚生労働省のホームページに級地区分の資料が公表されています。気になる方は、自分が住んでいる地域の級地区分を確認してみてください。

3. 「生活保護」を受ける際の主な注意事項

「生活保護」の制度の概要についてチェックしていきました。しかし「生活保護」は例外やケースバイケースなことも少なくありません。

厚生労働省は「よくある誤解」として多くの例を掲載し、よくある質問をまとめています。その中から、いくつかの例をご紹介します。

3.1 住宅ローンがある場合にも生活保護を受給できる

働いて就労収入があったり、住宅ローンが残っていたりする場合にも、生活保護を受給できるケースがあります。

就労者の場合には、収入と最低生活費を比較して、最低生活費から収入を差し引いた差額が保護費として支給されます。

また、住宅ローンを返済している場合、保護費から返済することは「最低限度の生活を保障する」という生活保護制度の趣旨から原則として認められません。

3.2 生活保護を受けた場合の義務もある

  • 利用し得る資産、能力その他あらゆるものを生活のために活用しなければなりません。
  • 能力に応じて勤労に励み、健康の保持及び増進に努め、収入、支出その他生計の状況を適切に把握するとともに、支出の節約を図り、その他生活の維持・向上に努めなければなりません。
  • 福祉事務所から、生活の維持、向上その他保護の目的達成に必要な指導又は指示を受けたときは、これに従わなければなりません。

出所:厚生労働省「「生活保護制度」に関するQ&A」

生活保護は受給する「権利」だけのものではありません。守らなくてはならない「義務」もあります。他にも「生活保護権利」の譲渡禁止などが挙げられます。

万が一、保有する不動産の処分や生命保険の解約により収入を得たり、過去にさかのぼって年金や手当を受給したりした場合には、受給した保護費を返還する必要が出てきます。 

また、不正な手段により生活保護を受けた場合には加算金を含めて保護費を返還するだけでなく、懲役又は罰金が科せられることがあります。

自分が生活保護の受給対象かどうか不明瞭な場合には、必ず福祉事務所の生活保護担当部署に相談しましょう。

必要なものや条件等について詳しく聞くことができます。

4. 生活保護の条件・金額は異なるため、必ず確認を

生活保護で受けられる扶助は、国民の権利です。

物価上昇や新型コロナウィルス感の影響を強く受ける対象者にとって、とても心強い制度といえます。

生活に困った場合や、生活保護の相談・申請をするには、お住まいの地域を所管する福祉事務所で相談しましょう。

参考資料

荒井 麻友子