米株式相場、波乱の背景
2月に入り、米国株式相場は波乱の相場展開となりました。この理由として、以下のようなことが考えられます。
1. トランプ政権の減税法案やインフラ投資計画の規模が見えたことで、財政政策に対する期待感よりも、これにより米景気が天井をつけることへの警戒感が強まった。
2. 政策発動により、最近の指標で示されている通り、賃金上昇圧力が顕在化し、FRBが金利を上げていく幅や回数が現在市場が織り込んでいるものよりも大きくなるなど、金利上昇圧力が強まる。
3. 米株価は、既に割高な水準にある上、財政政策のプラス効果はあるものの、大企業を中心にマイナスに働く部分もあり、企業収益の改善は期待されているほど大きくならず、期待感が薄らいだ。
筆者は、2. に近い考え方をしています。米国企業業績の悪化や景気の失速懸念も出ていますが、今のところ確たる根拠はありません。むしろ、米国経済は引き続き堅調であること、米国での減税と財政刺激が実行に移されることで、物価がこれまでの想定よりも上がり、長期金利が上昇に転じたことが引き金になったのです。
相場を見通すカギは?
これまで株価を支えてきたのは、緩やかな成長と低インフレによる物価の安定という適温経済(いわゆる「ゴルディロックスシナリオ」)の継続という前提でした。それが揺らぎ、株価上昇への警戒感が強まり、動揺が広がったのです。
また「適温相場」シナリオに浸りきって、その継続を見込んだボラティリティー指数のショート(売り)ポジションが積みあがり、一気に反対売買を余儀なくされたことで、相場の振れが増幅した側面もあります。米国景気の拡大観測そのものを否定しているわけでもないし、程度の問題はあっても金利上昇観測が定まったというほどでもありません。
したがって、これまでのように株式市場がじり高で高値を更新していくような相場ではなくなったとは考えていますが、株式市場が下降トレンドに入ったと言うことも難しいと思っています。相場の鍵は、物価上昇懸念がどう落ち着きを見出すかにかかっているでしょう。
今週のパウエルFRB議長の議会証言と次回の2月米雇用統計(3月9日発表)は注目です。パウエル議長が、どのように現在の雇用市場と物価の状況を捉えているのか、また年内3回の利上げがFOMCのコンセンサスとなっていますが、それについてどのように触れるかは注目です。
さらに、雇用統計では時間当たり賃金の動向が注目されます。FRBの利上げ路線がある程度見通せるようになり、物価もコントロール可能との見方が広がり、債券市場が落ち着きを取り戻すことが、株価安定のベストシナリオでしょう。
そういう意味では、株式・債券市場とも、3月上旬までは落ち着きどころを探る神経質な展開にならざるを得ないと考えます。
秋口あたりは要注意か
ところで、前述の1. や3. の見方は、もう少し時間をかけて問われることになると筆者は考えています。つまり、米経済の先行きや政策効果は、今年の後半にはっきりしてくるのではないかということです。
今年は、難しい相場が続くと申し上げてきましたが、秋口あたりは要注意でしょう。そして、量的には、まだわずかで杞憂かもしれませんが、米欧の中央銀行はリーマンショック後に採った量的緩和政策からの出口戦略を実行に移しました。
これまでの株価上昇は、この量的緩和政策によって支えられてきた側面も強く、このシンボリックな出来事は、相場の楽観的な見方に、ボディブローのように影響を与える可能性すらある点も、気に留めておきたいと思っています。
ニッポン・ウェルス・リミテッド・リストリクティド・ライセンス・バンク 長谷川 建一