訪日外国人と外国人宿泊者の伸び率が一致してきた
国土交通省の外局である観光庁は、先月、2017年の訪日外国人旅行消費総額(速報)が4兆4,161億円(前年比17.8%増)となり、年間ベースで過去最高となったことを発表しています。
景気回復を実感する、しないは人それぞれ異なるかもしれませんが、外国人観光客の増加については、大多数が実感していることではないかと思います。
また、訪れる外国人が増えれば、当然、外国人による消費も増えることになるため、今後も外国人観光客が増加していくことが多くの日本人にとって望まれるところだと思います。
ちなみに、この訪日客の“動き”を示すデータには、日本政府観光局が発表する「訪日外国人客数」(以下、訪日客数)と、観光庁が発表する「外国人延べ宿泊者数」(以下、外国人宿泊者数)があります。
直近の2017年12月では、訪日客数は前年同期比+23%増、外国人宿泊者数は同+21%増とほぼ同率で、かつ高い伸びを示しています。
過去には乖離があった2つの政府統計
このように、直近のこの2つの統計数値はほぼ一致していますが、過去には、この2つに大きな乖離があったことをご存じでしょうか。
下図では、2015年から3年間の訪日客数と外国人宿泊者数の前年同期比の伸び率を示しています。
2016年に入ると後者の伸び率鈍化がより顕著なものとなり、2016年半ばから2017年前半までは、前者がプラス成長を維持するなかで、後者はマイナス成長となる月も何度かありました。
余談ですが、こうした統計を受けて、たとえば夜鳴きそばで有名なエコノミーホテルの「ドーミーイン」を運営する共立メンテナンス(9616)の株価が軟調に推移するということにもなりました。
なぜ、このような乖離が生じたかには諸説ありますが、2017年2月10日付け日経電子版の記事『入国したのに宿泊しない? 消えた訪日客ここにいた!』では、入国した訪日客の一部がホテルや旅館などに宿泊せず、夜行バスや空港の仮眠スペース、サウナ、ラブホテルなどを活用するという現象が広がったことが一因であると推察しています。
また、2017年5月24日付朝日新聞デジタルの記事『ユー、夜はどこに? 訪日客は増加でも宿泊者は伸び悩み』では、Airbnb(エアビーアンドビー)などの民泊やクルーズ船の観光客に加え、ネットカフェ、温浴施設などに泊まる外国人観光客の存在が影響している可能性を示唆しています。
2つの統計に乖離があった要因は様々考えられますが、統計には含まれない外国人観光客が存在していることは事実のようです。
観光庁は民泊のデータ開示を開始
このように、現在の政府統計は訪日客の宿泊形態が多様化する現状を十分に捉えきれていない可能性があります。一方で、観光庁は、2017年11月には訪日客の民泊利用実態に関するレポート『訪日外国人消費動向調査【トピックス分析】』を発表するなど、改善の兆しも見られます。
ちなみに、このレポートによると、日本滞在中の利用宿泊施設における「その他」(≒民泊)の利用率は、2015年1-3月期の1.9%から右肩上がりで上昇を続け、2017年7-9月期には15.4%にまで上昇していることが示されています。
今後の注目点
上述のように、直近の外国人宿泊者数の伸び率は訪日客数の伸び率とほぼ同等の20%超となっていますが、民泊を含めないでそれだけの伸び率になっているということは、滞在日数も増加しているのではないかと推察されます。
そこで今後注目されるのが、今年6月から施行される住宅宿泊事業法(民泊新法)により違法な民泊業者が撤退することなどで民泊供給の伸びが抑えられた場合の外国人宿泊者数の変化です。
民泊新法の影響については今後も精査していく必要があるものの、仮に民泊に向かうはずの需要が供給不足によりホテルや旅館に向かうとしたら、今後は、訪日客数の伸び率を外国人宿泊者数の伸び率が上回るという、2016年半ばから2017年前半に見られた乖離とは反対のことが起きるかもしれません。
あるいは、乖離は起こらず、空港の仮眠スペース、温浴施設、ネットカフェなど、統計に含まれないところに訪日客があふれかえるのかもしれません。
いずれせよ、日本の消費を支えてくれるという意味で重要な訪日客に気持ちよく滞在してもらい、リピーターとなってもらうためには、ニーズに合った宿泊施設が整えられることが望まれます。
そのためには、まずは実態をつかむための統計が整備され、多様化する訪日客の宿泊状況を正確に把握する努力も欠かせないのではないかと思われます。
LIMO編集部