ホリエモンが生活保護世帯に対する進学支援策を痛烈に批判
少し前になりますが、昨年12月にホリエモンこと堀江貴文氏が自身のツイッターにて、政府の生活保護世帯に対する進学支援策を痛烈に批判して大変な反響を呼びました。
覚えている方も多いでしょう。具体的には次のようなことでした。
厚生労働省が進めている生活保護制度見直し案の1つとして、生活保護世帯の子供が大学などへ進学する際に(一時金として)最大30万円の給付金支給を検討しているというものです。厚労省は2018年度予算に盛り込む方向とのことです。
この報道に対してホリエモンが「税金の無駄使い」と批判しました。ホリエモンは「優秀な学生に対して返還不要の奨学金を支給する制度が既にあるため、優秀とは言えない学生がわざわざ進学する必要はない」と主張し、この進学支援策は「既存の大学の枠組みを残すための税金の無駄遣い」とバッサリ切り捨てたのです。
奨学金は大きく「給付型」と「貸与型」の2種類
ホリエモンの主張に対して、皆さんはどう思われたでしょうか?
賛否両論だと思いますが、現実問題として、進学して勉強したい学生にとって奨学金は重要な支援となっています。これは、生活保護世帯だけでなく、生活保護を受けていない一般世帯にも言えることなのです。そこで、ザックリとではありますが、現在の奨学金制度を見てみることにします。
奨学金は「給付型」と「貸与型」の2つに大きく分類されます。給付型は返還不要であり、貸与型はその名の通り卒業後に返還しなくてはなりません。
多くの団体が実施している給付型、審査のハードルは非常に高い
まず給付型を見てみると、非常に多くの団体が実施しています。その中には、地方自治体もありますが、多くは企業が設立した一般財団法人や公益財団法人となっています。たとえば、“公益財団法人〇〇教育会”のような名称です。
企業から見れば、これも社会貢献事業の1つですし、ある種の節税対策とも言えましょう。
その給付内容は千差万別です。ただ、筆者が見た限りでは、毎月数万円、もしくは年間10~30万円というところでしょうか。大学は学部によって授業料も異なるため一概には言えませんが、大きな支援になることは間違いありません。
ただし、この給付型奨学金を受けるためのハードルは非常に高いのが実情です。具体的には、家計の経済状況と学生の成績になりますが、現在では前者が優先されている傾向があるようです。つまり、どんなに優秀でも、裕福な世帯の学生が給付型を受けるケースは限定的と言えそうです。
また、平成29年度からは独立行政法人「日本学生支援機構」(以下、JASSO)でも給付型を始めましたが、そのハードル(審査)が厳しいことは民間団体と同じ、あるいは、それ以上のようです。
学生の5人に2人がJASSOの貸与型を活用
一方、貸与型はどうでしょうか。JASSOでは、第1種(無利息、財源は一般会計借入金等)と第2種(利息あり、財源はJASSO債券等)に分かれますが、第1種の審査の方が厳しいことは明らかです。
さて、このJASSOの貸与型奨学金(1・2種合計)を利用する学生(大学や専門学校など)は、平成18年度が3.7人に1人(27%)だったのに対して、平成28年度は2.7人に1人(38%)へと増加しています。カッコ内は全学生に占める割合です。
したがって、ザックリ言うと、現在は5人に2人が貸与型を利用しているということです。
ちなみに、この割合は、平成10年頃までは12%前後でした。それ以降はほぼ一貫して増加基調にありましたが、最近はやや頭打ち傾向です。平成11年以降は各業種で“構造改革”と称したリストラが毎年のように実施されたことを勘案すると、家計の経済的困窮が奨学金の利用率を高めたと考えていいでしょう。
貸与型の返済延滞率は低下傾向にあるが・・・
現在、貸与型奨学金制度が直面している喫緊の課題は、返還金の回収促進です。つまり、返済が滞っている債権(奨学金)が多いことを意味します。そこで、近年の延滞率(3カ月以上の返済延滞)を見ると、以下のようになっています。
- 平成23年度:第1種6.0%、第2種5.2%
- 平成24年度:第1種5.7%、第2種4.8%
- 平成25年度:第1種5.2%、第2種4.4%
- 平成26年度:第1種4.5%、第2種3.9%
- 平成27年度:第1種4.0%、第2種3.6%
- 平成28年度:第1種3.7%、第2種3.5%
平成23年度は東日本大震災の影響等もあったと見られますが、その後は低下傾向にあります。
JASSOの回収強化が奏功、それでも4%弱の延滞率は極めて高水準
しかしながら、これは債務者(要返済の卒業者)の経済情勢が改善したことよりも、JASSOによる回収強化の効果と見られます。特に、法的措置の強化や、個人信用情報機関の活用(いわゆるブラックリストに掲載)が奏功しているようです。
ただ、低下したとはいえ、現在の延滞率(4%弱)は依然として非常に高いと言えます。
単純比較はできませんが、大手地方銀行の個人向け貸出金(パーソナルローン)の延滞率は、およそ0.05%未満、毀損率(破綻)を加えても0.5%前後の水準と推測できます。もし、大手地方銀行の貸出金で4%前後の延滞率が発生したならば、それこそ深刻な経営問題になることは確実です。
貸与型奨学金の延滞問題は、間接的には他人事ではない
ちなみに、平成28年度末の延滞債権残高(延滞3カ月以上)は約2,400億円に上っていますが、この半分弱の出所は事実上、国民の税金なのです(残りは民間借入金)。決して他人事ではないのです。
「もっと貸出審査を厳しくしろ」という意見もあるでしょう。当然の意見ですが、若年層が中心の債務者の経済情勢悪化のスピードが加速していることも見逃せません。また、審査をさらに厳しくすると、奨学金利用ができないために進学をあきらめる学生が増加し、それが大学のさらなる経営難に結びつくと予想されます。
こう考えると、ホリエモンの主張は、貸与型でも決して”当たらずといえども遠からず”と言えるかもしれません。
LIMO編集部