「中古住宅のリフォーム」というトレンド
日本の住宅は、戦後から高度成長期を経てバブル期頃まで、「新築大量供給とスクラップ&ビルド」が支配的な世界でした。しかし、ここ10~20年くらいで潮目が変わり、「中古住宅をリフォームして快適に暮らす」流れが普及してきました。
日本の総人口は年々減り、住宅需要が伸びないなか、新築を大量に供給しても空き家が増えて社会問題化します。また、アベノミクス以降は建築コストが高騰し、新築マンションを建てても高額になり過ぎ、都内人気エリアでさえも大量の在庫が出る有様。
2016年、非常に象徴的な出来事が起こりました。首都圏マンション市場において、史上初めて中古マンション成約数が新築マンション供給戸数を追い抜いたのです。
課題はメンテナンス面の問題
「新築から中古へ」「フロー型からストック型へ」「スクラップ&ビルドから100年住宅へ」という、日本住宅文化の大きな流れのなかで、大きなチャレンジになるのが「バブル期以前に大量供給された中古集合住宅のメンテナンス」です。
当時は古くなったら建て直す想定で建物がつくられたため、特に維持運用にお金がかかる「水回りの配管類」も、長年の使用を想定してメンテしやすいようにできていないものが多く、築後30~50年が経過した今、全国各地の集合住宅でさまざまな問題が起きています。
特に、投資家が買うような築古ワンルームマンションや、自主管理の建物で事態は深刻なようです。たとえば、都内某所にあるワンルーム主体の中古マンション(築36年)では、毎日のように水漏れ事故が起こり、クレームと緊急対応の嵐。管理会社も頭を抱えています。
その理由としては、以下のような点が挙げられます。
(1)各部屋のユニットバスやトイレ等からの排水系統が、各部屋から鉄の直管に横から流入する (横引き管) ようになっており、それらが経年により錆びだらけになっている。塩ビ管に換える工事も大がかりになるので実施されていない。
(2)各部屋からの排水系統が直管に流入する場所の傾斜が適切につけられていなかったり、経年によりたわんでしまった場合は当然詰まりやすくなる。スムーズに流れるよう傾斜をつけるためには、ユニットバスそのものを外す作業が必要になり、1戸あたり50万円以上の費用がかかる。
(3)この年代のマンションの給湯は巨大な電気温水器であることが多く、大量の水を溜めておくため、それが古い給排水管から漏れた場合は、3~4階下くらいまで水漏れ被害が出る。当物件は投資目的のオーナーが多く、住んでいない人も多いので、漏水しても発見が数日後になることが多く、被害が拡大する。
世の中には、築古で配管管理が非常に悪く、「リフォームで絶対に配管をさわってはいけない 」いわくつきの建物が存在します。どこで水が漏れているか原因を特定できず、専有部工事のみにしたはずが工事範囲内を全て止水しても水道メーターが止まらないとか、漏水の損害賠償が数千万円に上るとか、恐ろしい話も聞こえてきます。
築古住宅に暮らす「欧米の知恵」とは
この点に関しては、集合住宅の歴史が日本よりずっと長く、人々が築古住宅を大事にメンテしながら暮らす文化のある「欧米の知恵 」 に学ぶところが大いにあると思います。
たとえばドイツやカナダなど寒くて冬の長い地域の集合住宅は、地下室を設け、配管類や水回りをそこに剥き出しで集結させることが多いので、メンテが非常にやりやすく、コストも安上がり。コンクリート埋め込みではないので「はつり」 (コンクリートを削ること)やユニットバス撤去などの大工事をやらなくても良いのです。
また、これまで私はドイツで50数棟の集合住宅を見ましたが、たいていの物件は浴室・トイレを階段室側に設けており、横引き配管なしで直管排水に直結するシンプルな構造が多いため、メンテがしやすいのです。
さらに、ドイツの建物では暖房設備の定期的な更新が義務付けられており、そのタイミングで配管もやり替えるケースが多いようです。だから築年数の割に配管類がきれいで、費用のかさむトラブルが起こりにくい構造のものが多いと言えるでしょう。
社会が成熟し、中古住宅に長年住むようになりつつある日本人。建物メンテに関しては先輩である欧米諸国に大いに学ぶべきだと思います。
鈴木 学