2023年11月20日に発表された、株式会社アイビス2023年12月期第3四半期決算説明の内容を書き起こしでお伝えします。
スピーカー:株式会社アイビス 代表取締役社長 神谷栄治 氏
わたしたちのMISSIONとVISION
神谷栄治氏(以下、神谷):株式会社アイビス代表取締役社長の神谷です。さっそく説明に入ります。
まず、私たちのMISSIONとVISIONです。MISSIONは「モバイル無双で世界中に"ワォ!"を創り続ける」を掲げています。「モバイル無双」とは、モバイルに強いということを表しており、世界中に驚きを与え続けたいと思っています。
また、VISIONは「Boost Japanese Tech to the World」です。ITの分野でMade in Japanとして世界中で存在感を上げていきたいと思っています。
会社概要
会社概要です。設立は2000年5月で、創業して23年になります。本店所在地は愛知県名古屋市、従業員は300名、うちIT技術者数が259名のエンジニア会社です。弊社の決算日は12月末日となっています。
主な沿革と代表略歴
沿革と私の略歴についてお話しします。私は1973年に愛知県名古屋市で生まれ、現在50歳です。名古屋工業大学工学部電気情報工学科を卒業しています。小学生の頃からプログラミングを始める科学少年で、この頃にはすでに徹夜でゲームを開発していました。
大学時代に一人でオリジナルソフトウエアを企画・設計・開発し、1本800円で販売したところプチヒットし、資本金を得て会社を作ることができました。
26歳の時に有限会社アイビスを作り、翌年に名古屋に本店を移して受託を始めています。
株式会社アイビスとは
事業概要です。「モバイルに精通した高いテクノロジーを地球の裏側まで届けたい」ということで、主力商品の「ibisPaint(アイビスペイント)」を開発・運営しています。
現在、19ヶ国語に翻訳され、世界の200以上の国と地域で使われています。また、日本企業発のアプリとして、世界アクティブユーザ数の指標でLINEに次いで2位を獲得し、非常に多くのユーザを抱えています。
事業構成
アイビスは2つの事業を展開しています。「ibisPaint」の開発・運営をメインとするモバイル事業、そしてもう1つが、IT技術者の派遣と受託を行うソリューション事業です。
ibisPaintの特徴1
「ibisPaint」の特徴です。高品質なペイントアプリが無料で指1本で使えると、大変人気です。「ibisPaint」の企画時には、パソコンを使って筆圧対応タブレットという専用のデバイスを購入するなど、さまざまな準備が必要だったのですが、スマホ1つでデジタルイラストが描けるということでハードルが下がり、ペイントアプリの常識を変えたと思っています。
弊社のメインユーザには中高生などの若い世代が多く、スマホを初めて購入した人で、少しでもデジタルイラストに興味がある方は、弊社のアプリを選んでくれていると思っています。
ここで、20秒ほどの動画をご覧ください。
リリースした時は「指でスマホの小さな画面に絵を描けるはずはない」と言われましたが、早くアプリを習得して非常に上手い絵を描いてくれる若い世代がたくさんいたおかげで、うまく製品として軌道に乗りました。
ibisPaintの特徴2
「ibisPaint」の特徴2です。スライド左の図は累計ダウンロード数です。2023年9月末現在で3.5億ダウンロード、海外比率は93パーセントとなっています。緑のグラフを見ると、直近3年で急増していることがわかります。
スライド右のグラフの薄い緑色の部分はMAU(月間アクティブユーザ数)で、2023年9月末現在は3,701万人となっています。
また、濃い緑色の折れ線グラフはサブスクリプション契約数です。時間が経つごとに成長速度が上がっていることがわかります。最初にサブスクリプション機能を作った時には機能数が少なかったのですが、機能を追加するたびに角度が上がっています。それだけ商品価値が増え、それに伴って契約者数が増えるかたちとなっています。
直近でさらに上がっているところは、サブスクリプション強化として、アプリ内の無料ユーザに「サブスクリプションにはこのような機能がありますよ」「こんなメリットがありますよ」と誘導を行いました。自社内広告のようなかたちでサブスクリプションの誘導を強化したため、伸びています。
また、薄い緑色の折れ線グラフは売切型の販売数です。直近は右肩下がりになっていますが、サブスクリプションの誘導を強化している分、売切型が若干減少しています。
ibisPaint 4つの強み
「ibisPaint」の 4つの強みです。まず、ビジネスモデルとしては、原則無料のフリーミアムモデルとなっています。多くの機能が無料で利用できる代わりに、広告がついているというビジネスです。
月間アクティブユーザは3,701万人で、そのうちの一部の人が売切型を購入し、一部の人がサブスクリプション契約と、どちらかを選ぶかたちです。売切型の累計販売数は95.3万件、サブスクリプションの9月末の契約者数は9.5万人となっています。なお、収入は大きく分けると課金収入とアプリ広告売上収入になります。
海外展開に成功した稀有な日本製アプリということで、海外比率が高くなっています。しかし、どこかの国に偏るわけではなく、アメリカ、ブラジル、EU、ロシア、日本、インドネシア、インド、タイ、中国、フィリピンと、全世界に広がっています。
「ibisPaint」のもう1つの強みは、イラスト投稿SNS「ibispaint.com」です。「ibisPaint」で絵を描いたユーザが、自分の描いた絵をオンラインギャラリーに投稿する機能があります。ここではユーザ同士のコミュニケーション機能があり、「いいね」などが日々行われています。
コアユーザは世界中のZ世代がメインで、57.5パーセントが25歳未満となっています。この若い世代が大学生や社会人になった時に、さらに購買力を増し、そこで売上が伸びていくのではないかと思います。
売上高推移
スライドのグラフは、創業から2022年までの売上高推移のグラフです。前期末時点の売上高は33.9億円となっています。
グラフの緑色は、受託や派遣を行っているソリューション事業の売上です。また、オレンジ色はモバイル事業の売上で、直近3年ほどで急増していることがわかります。「ibisPaint」は12年ほど前にリリースし、後半のオレンジの部分が「ibisPaint」の売上となっています。
全社 3Q決算ハイライト
決算概要です。まず、全社第3四半期の決算ハイライトについてご説明します。当第3四半期の売上高は前期比11.5パーセント増の28.5億円となりました。
営業利益は前期比0.5パーセント減の3.1億円、「ibisPaint」シリーズ累計ダウンロード数は前期比26.8パーセント増の3億5,137万件、「ibisPaint」のサブスクリプション売上は59.6パーセント増の2.2億円となっています。
営業利益が前期比で若干マイナスですが、これは前期の第3四半期より第4四半期のほうが広告が多めで、偏っていた部分があったことによるものです。
全社 3Q業績推移
全社の第3四半期業績推移です。スライド左側のグラフをご覧ください。緑色の棒グラフが売上高で、前期比11.5パーセント増となっています。また、オレンジ色の折れ線グラフはモバイルセグメントが占める割合で、前期比5.8ポイント減の58.8パーセントとなりました。主な要因は、ソリューション事業の売上が伸びたことによるものです。
スライド右側は各種利益推移です。営業利益は前期比0.5パーセント減、経常利益は前期比8.7パーセント減、当期純利益は前期比13.7パーセント減となっています。こちらは先ほどお話ししたとおり、モバイル事業の広告投資の部分であり、第3四半期と第4四半期のバランスに差があったことが要因です。
セグメント別 3Q業績推移
セグメント別の業績推移です。スライド左のグラフをご覧ください。オレンジ色がモバイル事業の売上高で前期比1.6パーセント増、緑色がソリューション事業の売上高で前期比29.6パーセント増と、モバイル事業は微増、ソリューション事業は大幅増となっています。
スライド右側はセグメント利益推移です。オレンジ色がモバイル事業で、前期比20.7パーセント増とかなりの増益です。緑色のソリューション事業は、前期比43.7パーセント減となっています。こちらは、ソリューション事業で採用投資が増加していることが要因です。
モバイルセグメント 3Q業績推移1
モバイルセグメントの第3四半期の業績推移です。スライド左側をご覧ください。薄い緑がアプリ課金で25.8パーセント増、濃い緑がアプリ広告で21.0パーセント増と、ともに増えています。特に広告売上はコロナ特需から右肩下がりだったのですが、勢いよく右肩上がりに戻り、非常によいかたちになりました。
スライド右側のグラフをご覧ください。緑色はセグメント利益で、前期比24.5パーセント減となっています。先ほどもご説明しましたが、こちらは第3四半期と第4四半期の広告のバランスがよくなかったことによるものです。
モバイルセグメント 3Q業績推移2
モバイルセグメントの第3四半期の業績推移その2です。時機を見た広告投資を機動的に実行するということで、広告費はコロナ特需の時が一番大きく、流れとしてはそこから下がってきています。採用についても、大きな流れとしては年々増加しています。
モバイルセグメント 3QKPI推移
モバイルセグメントのKPI推移です。新規ダウンロード数は、大きな流れとしては減少しています。日次アクティブユーザについては、前期の第1四半期の670万人がピークです。ここがコロナ特需と呼んでいるところで、そこから右肩下がりとなりましたが、今期の第2四半期に反転し、第3四半期では610万人まで増えています。
スライド右側のグラフはサブスクリプション契約数です。こちらが一番伸びており、前期比55.9パーセント増と高い成長率になっています。
ソリューションセグメント 3Q業績及びKPI推移1
ソリューションセグメントのKPI推移です。スライド左のグラフの薄い緑が受託開発で、濃い緑がIT技術者派遣です。受託開発は前期比13.9パーセント増、IT技術者派遣は前期比36.2パーセント増と、大幅に増加しています。
セグメント利益に関しては、前期比47.5パーセント減、売上総利益率も6.7ポイント減となっています。こちらの要因は、直近1年ほど積極的な採用投資を実施したことによるものです。
ソリューションセグメント 3Q業績及びKPI推移2
ソリューションセグメントのKPI推移のその2です。直近では採用投資が増加しています。また、スライド右側のIT技術者数は、3年ほど前にコロナ禍による不景気で減少していましたが、コロナ禍が明けてからは、積極的な投資により前期比32パーセント増と非常に伸びています。
全社 3Q設備投資額等及びドル円為替レート推移
スライドは、設備投資額推移、減価償却費推移、研究開発費推移、ドル円為替レートのグラフです。減価償却費については、「ibisPaint」等の無形固定資産、ソフトウェア資産が費用化されていっているところがメインです。
全社 営業利益増減分析
売上高の増加と人件費等の増加が拮抗し、営業利益は前期と比べて横ばいとなっています。スライドのとおり、売上高増加分、広告宣伝費抑制分、そして人件費の増加分、採用費の増加分、販売手数料の増加分、その他の増加分で、利益はトントンとなっています。
通期業績予想ハイライト
通期業績予想ハイライトです。通期業績が当初計画を上回る見通しのため、業績予想を上方修正しました。売上高は、今期期初に発表した計画では35.9億円でしたが、39.5億円に上方修正しました。前期比16.2パーセント増と、好調に推移する見込みです。
また、営業利益は当初計画の3.0億円から、前期比82.2パーセント増の4.0億円に上方修正しました。経常利益は当初計画の2.9億円から、前期比64.8パーセント増の3.9億円に上方修正しました。さらに、当期純利益は当初計画の2.0億円から、前期比58.4パーセント増の2.6億円に上方修正しました。
全社 通期業績予想
通期業績予想です。スライドのグラフは、先ほどの修正を含めた数字を示しており、灰色の部分が業績の上方修正分で増加しています。
スライドに記載のとおり、売上高は伸びています。モバイルセグメントが占める割合は、先ほどご説明したとおり、ソリューション事業の売上が伸びたことによって当第3四半期が前期にくらべて減少したのと同じく、前期実績よりやや下がると予想しています。
各種利益については、上方修正したとおり、大幅に右肩上がりで順調に伸びていくと予想しています。
セグメント別 通期業績予想
スライドは、通期業績予想についてセグメント毎の上方修正分を可視化したグラフです。スライド左の売上高のグラフを見ると、モバイルセグメントの成長率は低く、ソリューションセグメントの成長率が高くなっています。
スライド右のセグメント利益のグラフを見ると、モバイルセグメントは上方修正をしていないため、ほとんど変わっていません。ソリューションセグメントは微増しています。また、全社経費が少なくなっています。
全社 業績予想に対する進捗度
全社の業績予想に対する進捗度です。上方修正した業績予想に対し、売上高、営業利益、経常利益、当期利益ともに概ね4分の3程度の進捗率となっています。売上高の進捗率が72.2パーセントと、75パーセントにやや足りませんが、「ibisPaint」で12月の年末商戦などがありますので、達成できるのではないかと考えています。
今期配当予想
今期配当予想です。通期業績予想の上方修正に伴い、配当予想を修正します。当初計画していた配当は10円でしたが、先日発表した修正予想では14円と、4円の増配になっています。
3Qトピックス
第3四半期のトピックスです。「ibisPaint」の大型アップデートVer.11.0.0を行いました。アップデートの目玉はアニメーション機能で、ユーザからも大変よろこばれました。これまでは絵を描くユーザだけでしたが、この機能によりアニメーションを描くユーザも増えることが期待でき、パイが増えることになります。このアニメーションの高画質の機能はサブスクリプションになっており、サブスクリプションの登録数も増えています。
また、もう1つ「ibisPaint」でアップデートしたのは、AI背景透過機能です。ディープラーニングを使ったAI機能で、1枚の画像の中で背景部分を透明にできます。
さらに、新商品の「ibisStorage(アイビスストレージ)」をリリースしました。「ibisStorage」は、「どの端末から、誰がアクセスするか」に基づくゼロトラストセキュリティという新しいセキュリティレベルに対応したサービスです。
また、改正電子帳簿保存法によって2024年1月1日から義務化される、帳簿や書類の電子データによる保存にも対応しています。
成長戦略概要
最後に成長戦略の概要をご説明します。スライドのグラフの緑の部分はソリューション事業をイメージしていますが、安定成長していきます。そして、ベージュの部分では、現在までが「ibisPaint」のアクティブユーザ数を増やすフェーズを表しています。そして、現在はサブスクリプション、高機能化、プロ向けの機能を強化しており、直接課金も増やしていくフェーズになっています。
ご説明は以上になります。ご清聴ありがとうございました。
質疑応答:「ibisStorage」の足元の状況について
司会者:「上方修正すばらしいです。増配もご配慮ありがとうございます。先ほどの説明会で受託開発について質問しましたが、ソリューション事業も好調なようでなによりです。『ibisStorage』について、ローンチからの手応え、要望等を教えてください。また、『ibisStorage』の足元の状況、契約数等について教えてください」というご質問です。
神谷:弊社としては、法人向けの製品が初めてだということもあり、プロダクトマーケットフィットと業務体制の構築、販売チャネルの構築などに、まだ時間がかかると思っていただければとは思います。長期的にはセキュリティ需要が高まりますし、テレワーク等の社外から機密情報にアクセスしたいという需要も拡大していくと思っています。
また、ストレージ機能は、ある意味プラットフォーム的な機能です。その上で、いろいろなアプリケーションを構築していければと思っています。具体的な数字などは、まだ開示するほどの状況ではありません。
質疑応答:新たな成長ドライバーと海外で好調な理由について
司会者:「『ibisPaint』の次の成長ドライバーは何ですか? 海外でも受けた理由をどのように分析していますか?」というご質問です。
神谷:次の成長ドライバーについては、売上の規模的にはやや不足していますが、サブスクリプションに力を入れています。サブスクリプションは急成長中ですが、その売上が広告売上などと同規模になるにはまだ時間がかかると考えています。引き続き、この成長ペースを続けていきたいと思っています。
また、「ibisPaint」が海外でも受けた理由については、イラストに文字が不要で、地域性がないことが挙げられます。また、広告が打てるようになるだけの利益が出始めた5年ほど前から、広告はすべて海外向けとして出してきました。他社に先駆けて海外に展開できたことがよかったと思います。
質疑応答:今後の利益成長のドライバーについて
司会者:「今後の利益成長のドライバーは何ですか?」というご質問です。
神谷:先ほどの売上成長の回答とやや重複しますが、サブスクリプションに注力しています。また、モバイル事業の「ibisPaint」の広告投資については予算を策定中であり、現在、最適な広告手法を分析して数学的にモデル化しているところです。その結果を踏まえて、株主のみなさまの期待に応えられる利益計画にしていきたいと思います。
質疑応答:大型アップデートやM&Aについて
司会者:「成長戦略として、大型アップデートやM&Aなどについて教えてください」というご質問です。
神谷:大型アップデートについての詳細はお話しできませんが、ずいぶん前から開発しています。2年くらい前から取り組んでいるものもあり、楽しみにしています。M&Aについては、現在具体的に検討しているものはありません。
質疑応答:業績の見通しについて
司会者:業績の見通しに関するご質問が複数届いていますので、まとめて読み上げます。1つ目が「第3四半期までの通期計画に対する進捗評価、第4四半期のガイダンス、来期の売上・コストの考え方について教えてください」というご質問です。
2つ目が「中期的な人件費の伸び率について教えてください。また、来期の広告費の水準について教えてください」というご質問です。
3つ目が「来期以降の見通しについての認識を聞かせてください。四季報では、2024年12月期はサブスクなど課金が着実に積み上がる、とあります」というご質問です。
神谷:通期計画に対する進捗は順調です。来期の売上については、「ibisPaint」で引き続きサブスクリプションの強化に注力していきます。また、ソリューション事業は、今までどおり順調に成長を続けると考えています。
来期のコストについては、現在、最適な広告投資を分析している最中です。その結果を踏まえて、株主のみなさまの期待に応えられるように売上・利益を計画していきたいと思います。
人件費については、今後も積極採用していきたいと思っていますので、伸びていくと考えています。
質疑応答:株主優待について
司会者:「株主優待として、『ibisPaint』アプリの1年間アクティブ利用コードの進呈などの株主還元はありませんか?」というご質問です。
神谷:競合でそのような株主還元があることは認識していますが、その場合、システム開発が必要になります。一方で、売上を伸ばすために取り組みたいことがたくさんあります。売上などを伸ばすほうが株価が上がるかもしれませんし、配当で還元できる可能性も出てくると思います。
そのようなメリットがある可能性もありますので、メリットもしくは可能性の両方を含めて、アクティブ利用コードなどの配布とどちらの優先度が高いかを検討していきたいと思います。
質疑応答:価格改定の予定について
司会者:「11月2日付でWindows版の価格改定のリリースがありましたが、今後も価格改定をしていく予定はありますか?」というご質問です。
神谷:機能量や商品価値と価格のバランス、競合との価格差等のバランスを見て、常に慎重に決めていますが、機能等は今後も増えていきますので、値上げする可能性はあると思います。
質疑応答:競合他社との差別化と参入障壁について
司会者:「競合他社との差別化はどのように行っていますか? また、どのような参入障壁があると考えていますか?」というご質問です。
神谷:ペイントアプリの市場には、基本無料のアプリと有料のアプリがありますが、両方を競合として見ています。基本無料のアプリでは、アクティブユーザが多いほうが強い傾向があります。「ibisPaint」は現在、アクティブユーザで圧倒的なシェアを取っていますので、後発が追い抜くのはなかなか大変なのではないかと思います。
また、ペイントアプリでは、機能が多いほうが強い傾向があります。「ibisPaint」は12年間開発を続けてきており、高機能であると言われていますので、これを後発が追い抜くのはなかなか大変ではないかと思っています。
また、有料アプリでは、売上で弊社に勝る競合も存在します。その中で弊社もキャッチアップしなければならないのですが、差別化として使える武器としては、アクティブユーザが多いこと、中高生を含めた若いクリエイターが多いこと、スマホの小さい画面でも使いやすいユーザインターフェースがあることなどが挙げられます。それらを武器に、有料アプリでも拡大していきたいと思っています。
質疑応答:画像生成AIの影響について
司会者:「画像生成AIの高度化について、どのような影響があると考えていますか?」というご質問です。
神谷:前提として、「ibisPaint」のアクティブユーザは、絵を描くこと自体を非常に楽しんでいる人がほとんどです。そのような人は、画像生成AIを嫌う傾向があります。競合がAIの機能のリリース予定を告知したところ、ネット上で炎上し、その機能を取り下げたという出来事もありました。したがって、既存ユーザからは「やめてくれ」といった声もあります。
しかし、AI自体には取り組みたいため、弊社もすでにいくつかAI機能の追加を進めています。どのようなものを作るかや、どのようなマーケティングをするかは、かなり慎重に選ばなければならないと思っています。
一方で、仕事で使用する方の中には生産性が高いほうがよいと考える方もいます。このようなユーザ利用も増えていくため、双方にとってよいバランスをとりながら、既存ユーザにもご納得いただける、そして仕事で使用される新たなユーザも利用できるサービスを作っていきたいと思います。
質疑応答:今後の収益増加に向けた取り組みについて
司会者:「十分に土台を固めて顧客をつかんでいると思いますが、ここから大きな収益増加に向けた取り組みは行っていくのでしょうか? 例えば、売切型を競合他社と同価格の8,000円で販売する場合、商品の強みを出せるところはあるのでしょうか?」というご質問です。
神谷:収益増加については、しばらくサブスクリプション強化に注力していきます。また、競合他社と同額の売切型とは、おそらくパソコン版を5,000円から2万3,000円程度で販売している競合を想定されているかと思います。
ペイントアプリには機能が多いほうが強い特徴がありますが、現在は弊社のアプリのほうが機能が少ないこともあり、現時点で5,000円や8,000円で販売することは少し難しい状況です。
もちろん私は競合の機能をすべて把握していますが、「このぐらいの機能差であれば、価格はこのぐらいである」という点は、かなり慎重に選んでいきたいと思っています。
それよりも、まずキャッチアップする部分として機能追加などが挙げられるため、人員増加に力を入れ、早くその段階にたどり着きたいと考えています。そして、性能的な競争ができる状況になった時には、「うちのほうがアクティブユーザが多いですよ」「若い層を取り込んでいますよ」という点を強みにして戦っていきたいと思います。
質疑応答:「ibisPaint」内の広告について
司会者:「『ibisPaint』内の広告は『Google AdSense』と自社で集めた広告の両方を表示しているのでしょうか? 『ibisPaint』のホームページで広告出稿を募集されているのを拝見しましたが、今後は自社で集めている広告の単価を上げることも可能なのでしょうか?」というご質問です。
神谷:おっしゃるとおり、「Google AdSense」と自社で集めた広告の両方を表示しています。決算資料などの集計においても「Google AdSense」の売上は広告売上に含まれており、自社で直接販売している広告の売上はその他の売上に含まれています。
また、社内では後者を「CPC広告」と呼び、「Google AdSense」よりも高い広告単価で販売しています。したがって、この販売を増やすことでDAUあたりの売上単価を上げることができます。
ただし、現時点でCPC広告は国内でしか販売していません。「Google AdSense」は世界中で販売されており、世界中のユーザから売上を上げられる点がかなり便利だと思います。
質疑応答:システム開発支援の需要について
司会者:「システム開発支援の需要が想定以上となった背景を教えてください」というご質問です。
神谷:ソリューション事業はエンジニアの技術者数に比較的比例した売上や利益になるビジネスであり、採用競争が激しい状況です。新型コロナウイルスによる不景気が明けたら採用費を一気に増やすことで人数も増やそうと考え、タイミングをかなり注視していました。その結果、採用がうまくいったことが要因です。
質疑応答:来期の広告戦略と広告投資の効果について
司会者:「来期の広告戦略を教えてください。また、広告投資の売上に対する効果についても教えてください」というご質問です。
神谷:来期の広告については、新しい数式モデルを使って分析中のため、現時点ではお伝えすることができません。また、広告投資の売上に対する効果は、社内で細かく分析しています。効果が上がりやすい国、上がりにくい国など、国別の細かな分析によってベストなシステムを開発し、丁寧に調整しています。
質疑応答:サブスクリプション契約数増加による収益性への影響について
司会者:「サブスクリプション契約数の増加は、収益性にどのような影響を与えているのでしょうか?」というご質問です。
神谷:サブスクリプションの売上については、「ibisPaint」全体の年商ではまだ13パーセント程度と影響度が小さいです。まずはこの13パーセントを年間1.8倍から2倍で続けていくことで、広告売上と同程度にしたいと思っています。
広告売上とサブスクリプション売上の原価は分けられませんが、そもそも原価率が10パーセント程度と収益性が高いです。広告とサブスクリプションで原価率が同じである可能性もありますが、サブスクリプションのほうが確実に積み上がっています。
質疑応答:値上げやキャンペーンなどの施策について
司会者:「長らく価格改定しなかった『CLIP STUDIO PAINT』のサブスクリプションが数日前に値上げしたことは、アイビスにとってチャンスだと思います。このタイミングで値上げやキャンペーンなど、何かしらの施策を考えていますか?」というご質問です。
神谷:我々もWindows版を2,350円から3,450円に値上げしました。スマホ版のサブスクリプションは、現状はまだそこまで強気にできる性能対価格ではないため、少し慎重になっているところです。
質疑応答:今後の投資や配当方針について
司会者:「グロース企業としては稀な有配当、そして先の増配と、一株主としてはありがたい限りです。その反面、まだ成長期のため『分配よりも事業へ投資されては?』という考えもあるかと思います。配当に関する方針や思いを可能な範囲でより深く教えてください」というご質問です。
神谷:事業への投資としては、広告投資と開発投資の2つがあります。開発投資は人員を採用して増やすことですが、「ibisPaint」は高い技術を使っているため、ハイペースで人員を増やすことはなかなか大変で、少し時間がかかる面があります。
また、広告投資は費用対効果が合うベストなアルゴリズムなどによって左右されるボトルネックがあります。開発投資も広告投資も上限があるため、利益が出ているという面があります。
質疑応答:広告単価について
司会者:「広告単価についてです。第3四半期は回復したと考えていますが、一方で御社の広告費も増え、第3四半期のセグメント利益は低調だったと考えています。広告市況上昇は、ポジティブなのかネガティブなのか、どのように考えたらよいでしょうか?」というご質問です。
神谷:モバイル事業の広告費が増えている部分のことかと思いますが、2022年の広告費は、第3四半期が2億2,000万円、第4四半期が4億1,300万円と、四半期間のバランスが少し悪かった上に、単価が増えた面がありました。今期はもう少しバランスを取ろうと考え、前年同期よりも多くなっています。
広告市況上昇自体は、ポジティブに考えていただければと思います。広告出稿自体は我々がコントロールできる一方で、売上高はなかなかコントロールできないため、広告単価の上昇自体はポジティブだからです。
質疑応答:ロシアでの販売状況について
司会者:「『ibisPaint』でダウンロード比率の高いロシアですが、ウクライナ侵攻後はロシアから撤退する企業が多いです。『ibisPaint』は、現在もロシアで販売しているのでしょうか? また、ウクライナ侵攻後はダウンロード数減少などの影響を受けていますか?」というご質問です。
神谷:まず、ウクライナ侵攻後は、ロシアからの収益はなくなっています。広告にはGoogleや他の米国のアドネットワークを使っていますが、ロシアが取引停止になっているため、我々の広告売上も止まっています。また、課金についても、現状では「Google Play ストア」や「App Store」「Microsoft Store」など、すべてのストアの課金が止まっています。
ロシアのアクティブユーザはおり、ダウンロードも可能であることから無料で使用できるものの、売上はすべて止まっています。ウクライナ侵攻前後でいえば、「ibisPaint」の売上全体の約2パーセントが止まっている状態です。
質疑応答:今後への期待について
司会者:「上場が決まる前から『ibisPaint』の将来性に期待していたため、上場されたことはうれしいです。今後も長期で期待しています」というご意見です。
神谷:ありがとうございます。がんばって結果を出していきたいと思います。上場以降の株価最高値からは下がっていますが、若干下げ止まったかと思っています。株価には、成長率や利益率が影響するかと思いますが、こつこつと堅実に上げるための努力をしていますので、中長期的に見て応援いただけますと幸いです。