12月の米雇用統計では雇用者数の増勢が鈍化した一方で、賃金の伸びが回復しました。2017年は失業率と賃金の伸びがともに低下した1年となりましたが、2018年はこの動きが反転するのかどうか、今回は最新のデータに基づいてその可能性を探ってみました。

失業率は3.5%まで下がるのか? 供給面からは慎重な見方も

12月の米雇用者数は前月比14.8万人増と、事前予想の19万人程度を下回りました。ただ、3カ月平均は20.4万増となったことから、強弱どちらとも解釈可能な結果となり、市場には慎重な見方と楽観的な見方が入り混じっているようです。

楽観的な見方の背景には、昨年12月に成立した減税法案に加え、今年はインフラ投資を促進する法案や一段の規制緩和への期待があります。たとえば、ゴールドマン・サックスは2018年の失業率を3.5%、2019年には3.3%にまで低下するとの見通しを出しています。

ただし、雇用改善の余地が乏しくなっている様子がうかがえることから、慎重な見方も少なくはありません。たとえば、12月の雇用統計ではフルタイムの従業員数が前月比2.5万人減少し、パートタイムの従業員が11.9万人増加、兼業者数が30.5万人増加しています。

雇用者数は給与明細書の数と一致しますので、1人で2つの会社から給与を受け取ると統計上は2人となります。したがって、12月の雇用者数の増加はパートの掛け持ちが増えただけである可能性もあるわけです。

また、2008年の金融危機を受けて2010年には1500万人を超えていた失業者数も12月は657万人にまで減少し、金融危機前の2007年の水準を下回っています。ただ、大卒に限ると失業者数は120万人となり、この1年で15万人しか減少してません。

12月の大卒の失業率は2.1%と11月からは横ばい、10月の2.0%から小幅に上昇しています。また、失業者の定義を広げた12月の広義失業率は8.1%と、前月の8.0%から上昇しています。専門性の高い人材の供給が不足し、人員の補充が難しくなっているほか、より一般的な職業についても適材適所な人材は底払いされてしまった様子がうかがえます。

失業率の低下と賃金の伸び鈍化に終止符?

12月の賃金の伸びは前月比0.3%増と11月の0.1%増から伸びが加速しました。12月は比較的賃金の高い建設業が前月比3.0万人増と好調だったことが賃金の伸びに寄与した模様です。ただ、小売業では店舗販売の苦戦が続いており、2.0万人減と雇用の減少に歯止めがかからなくなっています。

こうした中、飲食店のウェイターが2.5万人増えています。小売業の賃金も決して高くはありませんが、より賃金の低い飲食店への人員シフトが賃金の伸びを抑制している可能性もありそうです。

12月の賃金は前年同月比では2.5%増と2016年12月の2.9%増から鈍化しており、また失業率も1月の4.8%から10月には4.1%へと低下しています。2017年は失業率と賃金の伸びがともに低下した1年となりました。

しかし、雇用を拡大しようにも人材が不足し、労働需給のひっ迫で賃上げ圧力が高まっている様子もうかがえます。したがって、2018年は失業率と賃金の伸びがともに上昇する、2017年とは真逆の動きとなる可能性もありそうです。

貿易赤字が予想外に拡大、ドルは軟調に

雇用統計の結果を受けて株価は上昇しましたが、米貿易赤字の予想外の拡大やISM非製造業指数の予想外の低下によりドルは軟調となりました。

11月の米貿易赤字は前月比3.2%増の505億ドルと市場予想の495億ドルを上回り、2012年1月以来、5年10カ月ぶりの高水準となっています。トランプ大統領は「貿易赤字が米国内の雇用を奪っている」と述べていますので、貿易赤字と雇用の増勢鈍化を結び付け、政治問題化することが懸念されます。

また、ISM非製造業景況感指数が予想に反して前月より低下したこともドル売りを誘ったようです。民間の雇用者のうち84%がサービス業に従事していますので、サービス業での景況感の鈍化は雇用へ影響も大きく、警戒感が広がった模様です。

FOMC議事録で金融引き締めを示唆、中立ではインフレ加速か?

3日に公表された12月米連邦公開市場委員会(FOMC)の議事録で「ほぼすべて」の当局者が「長期的な均衡を上回る水準まで金利水準を引き上げる必要がある」と認識していることが分かりました。簡単に言うと、金融を引き締める可能性が高まったということです。

現在の米金融政策は“正常化”の過程にあると考えられており、これは緩和的な金融政策を“中立”に戻すことを意味しています。しかし、今回の議事録ではインフレを抑えるためには“中立”ではなく“引き締める”必要があると見ているわけです。

背景には、12月に成立した減税法案があります。FRBは減税により成長が促進され、インフレが加速すると見ています。その一方で、トランプ政権は法人税の引き下げは供給サイドへの働きかけであることを理由にインフレは加速しないとの考えです。

FRBとホワイトハウスは減税のインフレへの影響で異なる見解を示していますので、対立の火種になるのではないかと警戒されています。

米労働市場に改善の余地があるのかどうかは見方が分かれており、失業率はまだ低下するかもしれません。ただ、失業率の推移にかかわらず、賃金の上昇圧力が強まるとの見方が金融当局者の間でも優勢となっているようですので、2018年は賃金の上昇リスクがテーマの一つとなりそうです。

LIMO編集部