AI元年といわれた2017年。日本でもロボアドバイザーが普及し、資産運用ビジネスに一石を投じています。こうした中、米国では10月に世界初となるAIが運用するアクティブ型ETFが上場され話題を集めました。そこで今回は、AIによるアクティブ型ETFのその後とAI関連の話題をまとめてみました。

AIが運用するアクティブ型ETFが世界初登場

2017年10月18日に、世界初のAIが運用するアクティブ型のETF、AI Powered Equity ETF(ティッカー:AIEQ)がニューヨーク証券取引所に上場されました。

AIEQは6000社の米上場企業を対象に、日々の経済状況や経済トレンド、世界中での出来事や企業固有のイベントなど様々な情報を逐次収集し、最も値上がりの可能性のある30から70社を選択してポートフォリオを構成しています。リスクは米株式市場全体とほぼ同じ程度とのことです。

運用はEquBot社が担当しており、同社はAIを投資分析に応用することを専門としています。分析にはIBMが世界に誇るAI、「Watson(ワトソン)」を利用しています。

気になる運用成績ですが、芳しくありません。12月21日現在の上場来の騰落率は+3.5%とプラスを確保していますが、AIEQと同じS&P Total Market Index をベンチマークとしているiShares Core S&P Total U.S. Stock Market (ITOT)の+4.6%を下回っているからです。

セクター別組み入れ比率を見ると、金融(46%)が半分近くを占めており、一般消費財(16%)、情報技術(12%)、ヘルスケア(12%)が続いています。結果論ではありますが、情報技術への投資比率の低さが足を引っ張った格好です。また、最近の米株式市場の動きを踏まえると、トレンドフォローを匂わす構成比率といえるかもしれません。

上場してまだ日が浅いことから、運用能力を評価するのは時期尚早ですが、出だしから苦戦を強いられていることは確かです。今後の巻き返しに注目しましょう。

世界株を対象にしたETFも登場

AIEQの上場から2週間後の11月1日、カナダのトロント証券取引所に米株のみならず世界株を対象としてAIが運用する初のETF、Horizon Active AI Global Equity ETF(MIND)が上場しています。

運用はホライズンズETFマネジメント・カナダが担当し、韓国のクラフト・テクノロジーズが開発したAIを利用しています。データを正確に解釈して賢明な投資判断を下せるよう、AIに10年余りの市場の動きを徹底的に学習させたとのことです。

人間の運用者と異なり、AIがある判断を“なぜ”下したのかを説明してくれることは決してありません。ホライズン社の共同最高経営責任者(CEO)のスティーブ・ホーキンス氏は「判断の理由は分からないが、厳格なテストの結果それが正しい判断になると信じている」と述べています。

ただ、MINDの12月27日現在の上場来の騰落率は+0.7%とこちらも苦戦が続いているようです。

SNS連動型のETFは昨年4月に登場

AIを利用したアクティブ運用とはやや異なりますが、SNSというビッグデータをAIで分析し、銘柄をピックアップして運用する「SNS連動型」のETF、Sprott Buzz Social Media Insights ETF(BUZ)が2016年4月18日に上場しています。

BUZの年初来のリターンは12月26日現在で+23.4%と好成績を収めていますが、アロケーションを見ると約半分がテクノロジーに集中するなど、標準的なグロース型ETFとほぼ同じ構成となっています。結局のところ、人気銘柄を集めていることになるので、他との差別化が難しいのかもしれません。

SNSでの情報収集はいまや常識ともいえるので、目の付けどころには面白さを感じますが、経費率は0.75%と比較的高めであり、投資先としての魅力はイマイチかもしれません。

ちなみに、代表的なグロース型ETFであるSPDR S&P 500 Growth ETF(SPYG)の年初来のリターンは+27.57%、経費率は0.04%となっています。

AI関連銘柄には絶大な人気

AIによる運用はやや苦戦している観が否めませんが、AI関連銘柄への投資は絶大な人気を誇っているようです。

たとえば、Global X Robotics & Artificial Intelligence ETF(BOTZ)の年初来のリターンは、12月26日現在で+59.2%と驚異的なパフォーマンスを挙げています。BOTZは自動運転や3Dプリンター、医療ロボットなどAI技術を活用したハイテク企業をピックアップしています。

同様のETFとしてARK Industrial Innovation ETF(ARKQ)、ROBO Global Robotics and Automation Index ETF(ROBO)などもあり、ARKQの年初来のリターンは+59.2%、ROBOは+44.1%といずれも絶好調です。

AIは現在最も注目度の高いテーマであり、成長が期待されている分野でもありますので、AI関連銘柄のパフォーマンスが良いのはある意味当然といえるでしょう。その部分を割り引いても、現状ではAIに運用を任せるより、AIの生み出す“価値”に投資したほうがいいのかもしれません。

日本ではAI投信が登場、まずまずのリターン

ETFではありませんが、日本ではアセットマネジメントOneからAI活用型世界株ファンド(愛称:ディープAI)が販売されています。

同社が独自に開発したディープラーニングモデルを利用して、魅力度が高いと判断した銘柄を抽出。モデルが解析した結果にファンドマネージーャの判断を加味して最終的なポートフォリオを決定していますので、AIと人間のコラボレーションとなっています。

設定日は2017年9月29日で12月28日現在の設定来の騰落率は+6.61%とまずまずの成績を残しています。同じ期間の日経平均は+11.89%と急騰しており、それには及びませんが、MSCIのオール・カントリー・ワールド・インデックス(ACWI)の+5%程度と比べると悪い数字ではなさそうです。

業種別の組み入れ比率を見ると、金融(24.5%)、一般消費財(22.2%)、資本財(17.5%)、情報技術(14.4%)が高い割合を占めています。標準的なグローバルポートフォリオと比べると、ヘルスケアが極端に低いほか情報技術が薄く、その一方で金融、一般消費財に重点を置くアロケーションとなっています。

個人投資家でも”ファンドマネージャー”を雇える時代に?

最後に、ロボアドバイザーとの違いを簡単に見ておきましょう。

ロボアドバイザーはAIを利用して個人投資家に最適な資産配分を提示してくれます。通常、最初に決められた資産配分は維持され、そこから乖離した場合には自動的にリバランスされますが、刻々と変化する金融・経済状況に合わせて資産配分を変更することはありません。

ただ、専門的な投資助言サービスは富裕層のみが享受できる高価なサービスでしたが、ロボアドバイザーの登場によって一般の個人投資家にも手軽に利用できるようになったことは大きなメリットです。

今回紹介したAIが運用するETFでは、ファンドマネージャーに代わってAIが膨大な情報を収集・分析し、投資する銘柄や組入比率を決定します。ヘッジファンドの利用は富裕層や機関投資家に限られてきましたが、個人投資家でもAIという”ファンドマネージャー”を雇える時代が訪れようとしています。

LIMO編集部